疾患予防の細胞科学  ・糖尿病予備群のモデル細胞とモデルマウス  ・活性強化細胞、細胞賦活剤の発想  ・細胞間分子コミュニケーション解析  ・レギュラトリーサイエンス  ・ページトップ


ニュース

〇2020.10.4-9 M1深谷さん、M2畠中君、M1松木さん、M1皆川君の研究成果をPRiME 2020, Honoluluで発表しました(リモート)。
〇2020.6.24-27 M2畠中君、M1松木さん、M1皆川君の研究成果をIntern. Soc. Stem Cell Res. Ann. Meet. 2020, Bostonで発表しました(リモート)。
〇2020.6.9-11 M1深谷さん、M2畠中君、野口先生の研究成果を第72回日本細胞生物学会大会, 京都で発表しました(リモート)。
〇2020.6.9-11 M1皆川君、M2畠中君、M1松木さんの研究成果を第72回日本細胞生物学会大会, 京都で発表しました(リモート)。
〇2020.6.9-11 M1吉岡さん、D3徳永、M2畠中君の研究成果を第72回日本細胞生物学会大会, 京都で発表しました(リモート)。
〇2020.5.23-25 CR田嶋さん、他の研究成果を第67回日本実験動物学会総会, 大阪で発表しました(リモート)。
〇2020.5.23-25 M2畠中君、M1松木さん、M1皆川君の研究成果を第67回日本実験動物学会総会, 大阪で発表しました(リモート)。
〇2020.3.17 M1深谷さん、M2畠中君、野口先生の研究成果を電気化学会第87回大会, 名古屋で発表しました(リモート)。
〇2020.3.15-19 D2横山さんの研究成果をSociety of Toxicology 59th Annual Meeting & ToxExpo, Anaheimで発表しました(リモート)。


■PreDMoCを用いる疾患予防の細胞科学

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当研究室では、遺伝子改変から改変細胞の作製、モデルマウスの作製まで自ら行い、臨床研究への応用を目指す疾患予備群モデル(Pre-disease models for clinical studies; PreDMoC)を開発し、それを用いた「疾患予防の細胞科学」を展開している(図1)。 具体的には、糖尿病予備群から糖尿病、免疫機能不全、炎症、がん転移、などの疾患への進行を予防するための方法論に関する課題に 取り組んでいる。

予備群の段階では健常な細胞と病気の細胞が接触している。例えば、がん転移ではがん細胞と健常組織細胞の異種細胞接触が起きている。 その最前線の細胞間分子コミュニケーションを解析するためにユニークな単一細胞解析法を開発している。直接接触している細胞間での 分子移動に関わっているコネキシンファミリーの新機能(特にES細胞の未分化状態におけるCx30.3の特異的発現細胞接触応答発現)のみならず、遠隔の異種細胞間分子コミュニケーションに関わっているエクソソーム の新機能に着目している。

健康な状態から病気になる過程は、必ずしも徐々に進行するとは限らない。ある段階で急に悪化する場合がある。その前兆は疾患予備群の中 にあるはず。予備群の段階では健常な細胞と病気の細胞が拮抗している。そして病気の細胞の質と量に、健常細胞が抗しきれなくなったとき 疾患になる。

予備群の段階で展開される健常細胞と疾患細胞のそうした拮抗状態を明らかにし、健常な状態に戻すための方法論を見出すことが、疾患予防 の細胞科学の目標である。目標達成のためには、拮抗状態を定量的に表す分子マーカーの探索、健常・疾患転換の閾値解析、健常細胞の強化 方法の開発などが必要である。

具体的な研究課題として糖尿病とがん転移に的を絞り、「糖尿病予備群における健常・疾患転換の閾値解析」「メラノーマ細胞の転移後 増殖に対する抵抗性の解析」に関する研究課題を展開している。

■糖尿病予備群のモデル細胞とモデルマウス

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糖尿病モデルマウスは自然発症的に生じた系統が市販されているが、健常な状態から糖尿病に進行する過程を調べるためのモデル マウスとしては適さない。そこで、主要な原因遺伝子をノックアウトあるいはノックダウンし、糖尿病予備群の状態をシミュレートする モデル細胞ライブラリーやモデルマウスを作製した。

糖尿病と密接に関連している遺伝子を8種類選び(Pdx-1, Irs-1, Kir6.2, Irs-2, Gk, Shp, Hnf-1α, Hnf-1β)、これらの1つあるいは 2つの遺伝子を同時に、RNAi法により発現量を抑制させたES細胞、またはジーンターゲティング法により遺伝子をノックアウトしたES細胞、 あるいは1つの遺伝子を過剰に発現させたES細胞など、総計38株のモデル細胞ライブラリーを開発した。

この中から、Gkをヘテロにノックアウトしたマウスを作製した (B6;129-Gcktm1Tms) が、この系統は随時血糖値、耐糖能、ともに健常と 糖尿病の中間レベルであり、高脂肪食で飼育を続けると糖尿病レベルになることがわかった。そこでこのGk(+/-)系統を糖尿病予備軍モデル マウスと定めた(図3)。

【糖尿病予備群モデルを利用した解析】
インスリン産生細胞の移植効果(図4)

◎高血糖の免疫機能への影響:脂肪組織でのNKT細胞の減少
 NKT細胞移植による耐糖能改善効果(図5)

◎高血糖のメラノーマ細胞転移に対する影響

◎抗炎症核酸試薬の耐糖能改善効果



■活性強化細胞、細胞賦活剤の発想

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細胞に種々の機能を付与し、治療のために移植する場合、それを細胞医薬と呼んできた。具体的にはインスリン産生細胞を 糖尿病患者に移植する場合、免疫治療でNKT細胞やリンパ球を移植する場合も、それによって疾患が治癒するならば細胞医薬と言 えるだろう。

これに対して、健常細胞が、隣接した疾患細胞、例えばがん細胞に対して量的に凌駕して、がん細胞の増殖を阻止するような性質を もつようになれば、その細胞は活性強化細胞と呼ぶことができる。活性強化のメカニズムがわかれば、そのような細胞を作製して 体内に導入し、疾患の進行を抑制することができるはずである。活性強化細胞を直接入れるのではなく、細胞を賦活化させる因子を 導入することも検討に値する。

マウスES細胞をハンギングドロップ法で培養し、形成された胚様体に、スペルミンというポリアミンを作用させたところ、一時的に 先端周縁の細胞が死滅したのち、骨格筋細胞が3次元的に増殖してくることがわかった(図6)。スペルミンは元々筋肉細胞の増殖 を阻害する物質であり、実際、先端周縁の細胞は死滅した。しかし、その後の増殖過程は目覚しいのみならず、筋肉の組織幹細胞と 思われる球状細胞が多数観察された。この場合のスペルミンは細胞賦活剤の一つと考えることができる。こうしてできた骨格筋チップ はインスリン応答性のグルコース取り込みも示した。

■細胞間分子コミュニケーションの解析

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ヒトをはじめ多細胞生物では、細胞間で様々なコミュニケーションを行い、全体として高度に統合された機能を発揮している。しかし その基本は、2細胞間でのコミュニケーションである。コミュニケーションの実体は分子(化学的情報)、電気、電気化学、あるいは 機械的なシグナルであり、そのメカニズムを調べるためには、各細胞からこれらのシグナルを定量的、かつ、リアルタイムで、バイアブル (細胞が生きている状態)な状態で解析する技術が必要である。

この技術の一つが、先端径1 μm以下の細いガラスキャピラリーでできた微小電極である。特別難しい技術ではなかったが、これを 多チャンネル(最大3チャンネル)型にして、多様な解析を実現し、多機能型微小電極と称して当研究室の得意技術として発展させた。

具体的には、分子導入、電位測定、イオン濃度測定を同時に行ったり、これを1対使って細胞膜インピーダンスを測定したり、細胞膜に 電圧をかけたりして、単一細胞内外、あるいは接触2細胞間のコミュニケーションを解析した。特に分子導入で利用している技術が フェムトインジェクションである。

遺伝子、タンパク質、サイトカイン、イオンさらにはエクソソームなど、種々のシグナル物質を半定量的に、標的細胞のみに、バイアブル に導入することができる。ディッシュ毎に細胞座標登録することができる顕微鏡観察と培養器への移動が繰り返しできるシステム(Suguwaculture system;解説)や、 インジェクションモード記憶機能、などが装備され、国内外で唯一の先端技術となっている(図7)。

この技術は、単離された単一細胞のみならず、多細胞組織の中の狙った単一細胞のみに的を定め、この細胞と、それを取り巻く個々の 細胞間のコミュニケーション解析も可能にすることから、組織レベルでの機能解析にも威力を発揮した。組織の中の単一細胞が化学的、 あるいは物理的ストレスを受けた場合、そのシグナルがそのまま、あるいは別のシグナルに変換され、隣接細胞からどのくらい離れた 細胞まで伝達し、そしてどのような応答をするのか、という問題に対して重要な情報を得ることができる。



■レギュラトリーサイエンス

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レギュラトリーサイエンスとは、
 @規制を決めるための毒性の科学
 A規制値を満たすための科学的取り組み
 B規制値を満たしていることを確認する分析科学
をいう。食品の安全性のレギュラトリーサイエンスに関して、特に、食品中の微生物試験法のバリデーションに関する研究を展開している。その一つが生菌標準物質。 セルソーターを利用した方法でコロニー形成能を有する生菌を、一個単位で調整で見ることを示している(図8)。

Bにおいては迅速な判断が重要。そのための迅速法に取り組んできた。すなわち、生菌のみが取り込む蛍光グルコース2NBDGの開発、食品マトリクスから微生物生菌のみを高効率に 分離するデンシティスライサー、コロニー形成過程を3次元的に自動追跡するシステムの利用技術など、である。

@では毒性評価の指標の選択が重要。生命倫理の観点から、従来の、動物が死ぬレベルの高濃度での議論から、今後は、健康をわずかに害するレベルでの議論の重要性が増すはずである。 したがって、低濃度毒性を評価する指標の検索が必要となっている。疾患予備群モデルでの評価指標と同じ発想である。