優しさは時として残酷な色をなすU

故人 空嘘 

 「校舎の隅のその隣り「
あなたは愛を知らないのか
恋をしないのか
「ええ、計画の邪魔になるから」
人を好きになりますか
人を嫌いになりますか
「ええ、食べ物と同じ様に」
どうして彼にはっきりと言わないのですか
彼はあなたの影を追い続けているのに
あんなにも毛嫌いされても
それをわからないほどに
「あんなのと話したくないの」
言わない事の残酷さ
彼はもう三年間も追い続けているのに
彼はあなたが好きなのに
自分の身嗜みを整えられないほどに
自分の嫌われる理由も分からないほどに
自分の匂いを嗅ぎ取れないほどに
自分の行き過ぎに気づかないほどに
「馬鹿じゃないの」
そう彼は馬鹿なのかもしれない
単なるあなたの友人を事件に巻き込むほどに
彼を不当に、まったく不当に
怒らせるほどに
それでもまだ彼は気づいていない
自分を魅了してやまぬものの本質に
彼の中でその本質は薄れ抜け殻だけが残り
それを抱きしめようとしている
彼はまだ知らない
賢者の愚行、愚者の知恵
彼は盲目のまま
真に愛することは
やがて真に理解することであるというのに
無視をすることと拒絶することは
どちらがより残酷なのだろうか
「馬鹿じゃないの」
その一言に無限の深みを見たのは
私だけだったのだろうか


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