Welcome to Abe Laboratory!

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阿部研究室では、物理や化学の様々な興味深い現象を、量子化学の観点から分子レベルで理解し、工学に役立てることを目標としています。物理化学的理論に基づいたコンピュータによるシミュレーションを元に、化学現象の解明や新規化学現象の予測を目指します。重元素分子の複雑な電子状態を解明するために相対論的な量子化学の手法を開発し、放射化学や地球化学に関連した研究に展開しています。得られた結果をよりよく理解するために、皆で活発に議論を行い、研究を進めています。 物理化学をより深く理解し、新しい研究分野に応用してみたい方、コンピュータやプログラミングが好きな方(出来るようになりたい方)、ぜひ一緒に研究しましょう!詳しい研究内容は、下記の説明をご覧いただくか、メールにて直接お問い合わせください。

これまでの研究概要

私達の世界は100程度の元素で構成されていますが、周期表の下部に位置する重元素になるにつれて、相対論効果の影響が無視できなくなります。例えば金の黄色く輝く現象は相対論効果を考慮しないと説明できないと言われています。また、磁石の元になるスピンも相対論を考慮することで量子力学の枠組みに自然に導入されます。蛍光よりもさらに長く光る燐光や、化学反応の間にスピン状態が変わっていく項間交差についても、重要な相対論効果の一つであるスピン軌道相互作用に由来しています。これまで我々は、相対論的量子力学の基本式であるDirac方程式に基づく電子状態理論・プログラム開発を行い、重元素化学に関連する多岐に渡る科学分野に展開してきました。

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(1) 相対論的電子相関理論の開発と放射性廃棄物処理に向けた応用計算

量子化学計算でよく用いられるHF法やDFT法は、単一のスレーター行列式に基づく理論であるため、分子中の共有結合を切断する過程が記述できません。これを解決するのが多参照電子相関法であり、特にCASPT2法は、結合解離や励起状態、擬縮退状態などを、正確かつ低コストで記述できる理論として知られています。しかし阿部が学生の頃、CASPT2法は補正的な相対論法の枠組みでしか導入されておらず、スピン軌道相互作用が顕著な重元素系への適応の際に問題が生じる可能性がありました。そこで、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻在学中に、相対論的に厳密な4成分Dirac法に対してCASPT2法を導入し、世界で初めて本理論による応用計算を行いました[Abe. et al. JCP,2006]。その後しばらくこの研究を休止していましたが、福島第一原発廃炉問題に関連して、放射性廃棄物であるアクチノイド化合物を扱えるプログラム開発を主たる研究テーマとして再び取り組んでいます。[Noda et al.Dirac-CASPT2 software,Masuda et al., JCTC 2025] ウラン以外のアクチノイドは放射性の人工元素であるため、その物理化学的性質はいまだよく理解されていません。一方でs,p,d,f軌道が開殻系として関与してくるアクチノイド化合物では、高精度な相対論法に基づく多参照摂動論の適用が重要であると考えられます。放射性廃棄物問題に貢献できるように、プログラムのさらなる向上や応用研究を現在も実施しています。

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(2)重元素の同位体分別の機構解明とバクテリアが介するウラン還元反応

同位体比の変動は、地球規模の化学反応の予測や年代測定に用いられており環境を理解する上でも重要です。2008年阿部らは、ウランの化学反応における同位体分別の原因が原子核体積差に由来していることを、東工大原子炉研の藤井靖彦教授とともに、相対論的量子化学計算から実証しました[Abe et al., JCP,2008. 2010]

またバクテリアが介するウラン還元反応においては、重い同位体が4価に、軽い同位体が6価に濃縮する傾向がある一方、非生物触媒による反応では同位体分別にばらつきがあることが知られていました。このメカニズムの差を解明することは、微生物による環境浄化(バイオレメディエーション)の機構解明や、太古の生物活動解明と関連して興味がもたれています。素反応レベルの解析を行うことは実験では不可能であるため、理論計算により現象解明を行っていました。特に最近、定常状態理論を用いた多段反応の同位体分別のスキームを、阿部と佐藤を中心として考案・提唱しました [Sato et al., 2022,GCA]。この定常状態理論が成立していることを実証するために、スイス連邦工科大学ローザンヌ校Bernier-Latmani教授らと議論を行い、同位体分別に対する電子供与体や配位子の依存性を調べる実験を実施していただきました。実際に定常状態理論をサポートする実験結果が得られており、これに関してCommunications Earth & Environment誌等に掲載されています。また、高精度な相対論的電子相関理論を用いたウランの同位体分別係数εを求める理論計算を実施し、相対論的なDFTB3LYP)計算はHF法よりも、6-6価の同位体分別に対して、実験値とよい一致を示すことを示しています。 [Sato et al., PCCP, 2024, Hot article]

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(3) CP対称性破れを示す分子の提案

宇宙の成り立ちを説明するためにCP対称性破れ(C:電荷共役, P:パリティ反転)は重要です。CP対称性破れを記述する新しい素粒子理論の検証のために、基本粒子である電子の電気双極子モーメント(EDM: electric dipole moment)の観測に注目が集まっています。電子EDMと分子中の有効電場との相互作用エネルギーを測定しますが、分子の有効電場は実験からは求めることが難しいため、相対論的電子状態理論に基づいた計算が必要になります。また有効電場の大きな分子が測定に有利であることから、新たな測定分子の候補を提言する上でも理論計算が重要となります。そこで我々は、東工大理学院のDas教授とともに、過去最高精度に有効電場を求める方法論をDirac-CCSD法を基に開発し、様々な分子系に応用しました[Abe et al., PRA 2014]

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(4)有機金属錯体における光触媒反応

Ru色素錯体を酸化チタン表面に導入することで、可視光を利用した水分解反応が促進することが知られています。特に下図に示したビピリジンにノニル基を導入したRu錯体では、犠牲剤なしの環境において、置換基がない場合よりも反応が促進されるという実験報告がありました。このメカニズムを解明するために、相対論的有効ポテンシャルを用いたTDDFT計算を行い、図に示すような様々な物性値を解析することで説明を試みました[Salmahaminati et al., ACS Omega 2021]。またIrPd錯体を触媒とした、ポリスチレンの光重合反応についても、置換基位置の違いで反応性が異なる理由を量子化学計算から解明しました[Salmahaminati et al., JCPA 2023]。特に置換基の位置によってHOMOが不安定化し、スピン軌道相互作用後の励起状態寿命に影響を及ぼすことが鍵となることを提言しました。

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(5)生成系AIに基づく機能性分子の予測

近年の生成系AIの技術革新は、まさに人類の想像を超えるパラダイムシフトであり、この技術を化学分野に応用することは非常に興味深い試みです。一方で、画像のように比較的滑らかに(連続量的に)データが変化するケースとは異なり、SMILESなどで表現される分子構造を扱うには、離散的なデータの取り扱いが不可欠です。拡散モデルは画像処理などの連続的データには非常に高い性能を示しますが、自然言語処理のような真に離散的なデータの取り扱いには課題がありました。
そこで、陶を中心とする我々の研究室では、生成系AIの一種であるBayesian Flow NetworkBFN)法を利用し、SMILESなどの表現から分子を生成するChemBFNモデルを開発しました[Tao et al. JCIM, 2025]。この手法では、薬理活性やHOMO–LUMOギャップなどの特定の物性、あるいは指定した分子骨格を持つ新規分子の生成も可能であり、既存の手法と比較して優れた性能を示す物性項目も多く見られました。今後は、大規模な分子データベースと組み合わせることで、分子物性の予測や、特定の特性を有する分子の設計が可能となるモデルの構築を目指しています。

スタッフ

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阿部 穣里(あべみのり)

専門: 相対論的量子化学理論の開発と応用

メール: minoriaあっとまーくgo.tuat.ac.jp

個人のホームページ(英語)へ

 

10分でわかる相対論的量子化学入門(動画)

お知らせ

2025年7月 相対論的量子化学の国際会議、

REHE2026を来年、分子研で開催します。

HPはこちらです。是非ご参加ください。

 

2025年4月 研究室が発足しました。

 

リンク

小金井キャンパスへのアクセス

東京農工大

東京農工大工学部化学物理工学科ホームページ

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