カーボンナノチューブ(CNT)は高い強度と弾性率を有しており、1995年頃から機械材料の強化材としての応用が期待され多くの研究が報告されています。しかしながら一般に入手可能な粉末状CNTの場合、樹脂に均一分に散したり、CNTの配向を制御することは容易でなく、CNTの分散による樹脂の力学特性の向上は限定的なものでした。
研究室では、静岡大学 井上翼教授が発明した配向した多層カーボンナノチューブ(配向MW-CNT)を適用した複合材料の研究を、静岡大学の井上翼教授・島村佳伸教授と共同で進めています。これまでに配向MW-CNTを適用することで、CNT分散複合材料と比較して著しく高い強度と弾性率が発現することを見いだしています。また、樹脂フィルムを含浸することで、高いMW-CNT体積率を有するMW-CNT複合材料を容易に成形可能な方法についても確立しています。
一方で、配向MW-CNTを適用した複合材料においても強度や弾性率の発現が理論値よりも低いことから、微視的な力学挙動の実験・理論による評価・考察を進めています。最近ではラマン分光法を利用した手法によりMW-CNTのひずみ測定を行うことで、MW-CNT複合材料の材料設計に資するような力学モデルの構築を目指した研究に取り組んでいます。
配向CNT複合材料に関しては国内ではあまり研究例がありませんが、海外では今日でもさかんに研究されています。日本では炭素繊維が容易に入手可能であることから、CNTの優位性が見当たらないことが一因かもしれません。個人的にはCFRPでは成形が困難な小型の部品や、CFRPの穴周りなどを補強する材料として有用ではないかと考えています。また、曲率半径の小さな場合の成形に有利であることから、3Dプリンタや自動積層(AFP)との相性も良いと思われます。将来的には、人工衛星、自転車、ドローン、家庭用ロボットなど、様々な応用先があるのではないかと期待しています。

   配向MW-CNT分散PPS樹脂複合材料のSEM写真および引張り強度
   (MW-CNT: 静岡大・井上研究室提供、直径50nm, 長さ1.3mm)