Research 研究紹介

植物のストレス応答機構


◆植物のストレス応答機構の研究
  本研究室では、これまで、海草アマモ(Zostera marina)や塩生植物アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)といった耐塩性を有した植物を研究材料として、植物の耐塩性・耐乾燥性を研究してきました。海草アマモは海水という厳しい環境に適応した植物であり、アイスプラントは、砂漠のような乾燥地帯に適応した植物です。これまでにアマモやアイスプラントから、耐塩性・耐乾燥性に関与すると考えられる遺伝子をクローニングし、イネやモデル植物シロイヌナズナに遺伝子導入、ストレスに強い作物の作出を目指して研究してきました。モデル植物シロイヌナズナのストレス応答機構について、RNA代謝(RNA干渉機構)との関係を中心に研究し、植物が本来備えているストレス応答・耐性機構を解明することにより、よりストレスに強い作物の育種に発展させてゆきたいと考えています。

◆栄養欠乏ストレスに対する応答
 本研究室で開発したダイサー活性測定法の特徴は、植物組織を摩砕し得られた粗抽出液を酵素画分として酵素反応に用いる点にあります。この反応系は、簡便に2種類のダイサー(DCL3とDCL4)の活性を検出できる世界で唯一の手法です(Fukudome et al., 2011)。これまでのダイサーの酵素活性の生化学的な解析から(Nagano et al., 2014)、DCL3とDCL4酵素活性は、反応液中のリン酸濃度に影響を受けることが明らかになりました。そこで、植物を栽培する培地(土壌)の肥料(栄養)を欠乏させたときに、2種類のダイサーの活性が影響をうけるか解析しました。その結果、イオウ欠乏培地で栽培したシロイヌナズナでは、DCL4の活性が阻害され、逆にリン酸欠乏培地で栽培した植物では、DCL4の活性が活性化されることが示唆されました。栄養欠乏ストレスと植物の生体防御について研究を進めています。

◆塩(乾燥)・温度ストレスに対する応答
生化学的なダイサーの酵素活性の解析から、DCL3とDCL4酵素活性は、反応液中の塩(NaCl)濃度にも影響を受けることが明らかになっています(Nagano et al., 2014)。そこで、シロイヌナズナに塩ストレスを処理した時に、2種類のダイサーの活性が影響をうけるか解析しています。同時に、植物ホルモンやサリチル酸などの処理によりダイサーの活性(RNA干渉)がどのような影響を受けるか研究しています。 また、低温や高温ストレス処理によりダイサーの活性変化についても解析しています。さらに、低温ストレスにより誘導される色素(アントシアニン)の蓄積に対する2本鎖RNA結合タンパク質DRB(RNA干渉)の役割について、アントシアニン生合成酵素遺伝子の転写因子であるPAP1との関係を中心に解析しています。

◆ウイルス感染防御における役割
  RNA干渉は、ウイルス感染に対する宿主植物の防御機構であるといわれています。一方、多くのウイルスは、宿主植物のRNA干渉機構に対抗するためのサプレッサータンパク質をコードしていることが知られています。ウイルスがコードするサプレッサータンパク質がダイサー(DCL3とDCL4)の活性を阻害するかどうかを検討する研究を進めています。


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