研究概要

私の専門は、低次元トポロジーです。

トポロジーとは

トポロジーは、日本語では位相幾何学とも呼ばれます。図形や空間を、長さや角度そのものではなく、連続的に変形しても変わらない性質に注目して調べる数学の分野です。

私たちは、ふだん、二つの図形がぴったり重なるときに「同じ形」と感じます。一方、トポロジーでは、図形を伸縮自在のゴムのようなものと考え、のびちぢみで移り合う図形を「同じ形」とみなします。

たとえば、マグカップとドーナツは、見た目はまったく違います。しかしトポロジーでは、どちらも「穴が1つある形」として、同じ種類の図形と考えることができます。細かな形(長さ・角度・凹凸など)の違いではなく、変形しても残る本質的な性質を見るところに、トポロジーのおもしろさがあります。

マグカップからドーナツへの連続変形を示す水彩調の図

トポロジーのものの見方

トポロジーでは、日常的な問題が数学の問題へと姿を変えることがあります。

ケーニヒスベルクの七つの橋問題を示す水彩調の図

有名な例に、ケーニヒスベルクの七つの橋問題があります。これは、七つの橋をすべてちょうど一回ずつ渡る散歩道があるか、という問題です。この問題は、地図をそのまま考えるのではなく、場所と橋のつながりだけを取り出したグラフの問題として考えることで解かれました。

ケーニヒスベルクの七つの橋問題をグラフ化した図

このように、具体的な形や配置から本質的な構造を取り出し、数学として扱うことは、トポロジーの大切な考え方のひとつです。

結び目理論について

私の研究で重要な対象のひとつが、結び目です。

数学でいう結び目とは、一本のひもを結び、その両端をつないで輪にしたものです。 ひもを切ったり貼り直したりせずに、のびちぢみや移動だけで移り合うなら、同じ結び目と考えます。 逆に、そのような変形では移り合わないなら、異なる結び目と考えます。

結び目の図は、立体的なひもを紙の上に描いたものです。 同じ結び目でも、ひもを動かしたり、のばしたり、見る向きを変えたりすると、紙の上ではかなり違う図に見えることがあります。

例:違って見えても同じ結び目

Rolfsenの結び目表の10_161と10_162をもとにしたPerko対の図
Perko対。左はRolfsenの結び目表の 10161、右は同じ表で 10162 とされていた図をもとに描いたものです。

この二つは、古典的な結び目表の中で長い間、別々の結び目として扱われてきました。 しかし Kenneth Perko により、実は同じ結び目を表していることが示されました。

この例は、結び目では「紙の上で違う図に見えること」と「数学的に違う結び目であること」が同じではない、ということをよく表しています。 ひもを切ったり貼り直したりせずに一方から他方へ変形できるなら、それらは同じ結び目と考えます。

結び目理論では、たとえば次のような問いを考えます。

二つの図が同じ結び目を表していることを示すには、一方から他方へ、ひもを切らずに変形する道筋を見つけます。 一方で、二つの結び目が異なることを示すには、不変量と呼ばれる数学的な道具が有効です。 不変量とは、結び目を変形しても変わらない情報のことです。

参考:D. Rolfsen, Knots and Links, Appendix C, Publish or Perish, 1976; K. A. Perko Jr., “On the classification of knots,” Proceedings of the American Mathematical Society 45 (1974), 262–266.

低次元トポロジーと結び目

低次元トポロジーでは、主に3次元や4次元の空間を研究します。私たちが暮らしている世界は3次元ですが、数学ではその空間そのものの構造を調べたり、さらに4次元の空間を考えたりします。

結び目は、それ自体が魅力的な研究対象であるだけでなく、3次元多様体や4次元多様体を理解するための重要な手がかりにもなります。たとえば、結び目や絡み目を用いて3次元多様体を表したり、4次元多様体の構造を図式的に扱ったりすることがあります。また、曲面結び目と呼ばれる、4次元空間の中の曲面の結び方も、低次元トポロジーの重要な対象です。

目で直接見ることが難しい空間を、結び目や図式、不変量を通して理解していくところに、この分野の大きな魅力があります。

私の研究テーマ

これまで私は、結び目や3次元多様体に関係する不変量について研究してきました。

特に、3次元多様体の分岐被覆表示から得られる不変量、カンドルとそのコサイクル不変量、Dijkgraaf-Witten不変量との関係などに関心を持っています。

分岐被覆表示とは、ある空間を別の空間の上に重なっているものとして表す方法のひとつです。このような表示を使うことで、3次元多様体の性質を、結び目や絡み目の図から読み取ることができます。

カンドルは、結び目の彩色を考えるために現れる代数的な構造です。結び目の図に色をつけるという一見素朴な操作から、結び目や曲面結び目の不変量を構成することができます。

Dijkgraaf-Witten不変量は、3次元多様体に対する位相不変量のひとつです。私は、3次元多様体の不変量と、結び目や曲面結び目から得られる不変量との関係を調べています。

研究キーワード

トポロジーの魅力

トポロジーには、直感的に楽しめる面と、厳密で深い理論的な面の両方があります。

マグカップとドーナツが同じ形に見えるという考え方、橋を一筆書きできるかという問題、ひもの結び目がほどけるかどうかという問いは、どれも身近な感覚から出発しています。しかし、それらはやがて、3次元や4次元の空間を理解するための深い数学へとつながっていきます。

身近な「形」の感覚から、目に見えにくい空間の構造へと進んでいくところに、低次元トポロジーのおもしろさがあります。