涅槃寂静について (出典の漢字の間違いを訂正しました。ご指摘いただきありがとうございました@2021/11/5)
2018年のシーズン終了後、野球(巨人軍)に関しての記事を書いた。その年のレギュラーシーズンは高橋由伸監督の3年目で、カープ、スワローズの後塵を拝し3位、負け越しという苦しいものだった。あれから3年が経ち今シーズンもスワローズだけでなく宿敵のタイガースにも遅れをとり、3番手に甘んじた。というわけではないが、野球を題材とした話を久し振りに書こうと思う。今年はやられ方に救いがない場合が多く、気分は暗澹たるものだが。45年前(1976年)のジャイアンツの張本勲さん(日曜日に喝とかあっぱれとか言っている方)とドラゴンズの谷沢健一さん(よくお見受けするのはフジテレビのCS放送のプロ野球ニュース。1980年には0.369で2度目の首位打者を獲得している)のセリーグの首位打者争いの話である。
1976年10月16日ジャイアンツは全日程を終え、張本さんの成績は513打数182安打で、打率は.3547(3割5分4厘7毛)というすばらしいものだった(この年、日本ハムファイターズからトレードでやってきて、太平洋クラブライオンズからの加藤初さんとともに前年最下位だった第一次長嶋巨人軍を救った)。この時点でドラゴンズは残り4試合という状況だったが、10月19日のドラゴンズの最終日程日(カープとのダブルヘッダー)の試合開始時の谷沢さんの成績は492打数173安打で打率は.3516(3割5分1厘6毛)、逆転の条件は3打数3安打、4打数3安打、4打数4安打、5打数4安打、5打数5安打等々だった。結果は第一試合に4打数3安打で逆転し、第2試合は欠場で初の首位打者獲得となった(496打数176安打、最終打率は0.3548(3割5分4厘8毛))。当時はハイレベルな争いとともに僅差ということで、ずいぶんと話題となった。上の表記のように1毛差ということになっているが、実際には・・・
谷沢さん176安打496打数 打率0.354838710
張本さん182安打513打数 打率0.354775828
であり、差をとると0.0000628812で、打率の慣例にあわせて漢字表記とすると6糸(絲)2忽8微8繊1沙2塵となる(下の表参照)。我が国の大きな数(大数)の命数法は万進法で統一されているが、小さな数(小数)は桁で呼称が変わる。
下の表によると「分は1/10」を、「厘は1/100」を表していることがわかるが、谷沢さんの最終打率は3割5分4厘8毛で「分は1/100を、厘は1/1000」を示しているため、どうして?ということになる。
真相はこうである。このときの「割」は歩合とか比率を表す単位で1割は1/10を表している。一方、分と厘は基準単位である「割」の1/10、1/100をそれぞれ表していて、イメージとしては3.548割という意味と考えればよい。野球の打率に関しては、漢字表記が現在でも広く使われているところだが、そこで本来の意味を誤解しやすいというのは皮肉なことである。その他、比較的よく使われるものとして、体温を示すときの「36度4分」とか、「この勝負は5分5分だ」とか「9分9厘間違いない」とかが挙げられる。最後のものは、正しくは「99%間違いない」だが、先ほどの打率の誤解を解かないと「9.9%間違いない」というなんとも微妙な感じになる。
参考 命数法 (参考、吉田光由、塵劫記、寛永11年版、ココで読める)
呼称
数
英語(接頭語)
分(ぶ)
10−1 tenth(deci, d)
厘(釐)(りん)
10−2 hundredth (centi, c)
毛(毫)(もう)
10−3 thousandth(milli. m)
糸(絲)(し)
10−4
忽(こつ)
10−5
微(び)
10−6
millionth(micro,μ)
繊(せん)
10−7
細いとか細かいということ(繊維)
沙(しゃ)
10−8
塵(じん)
10−9
billionth (nano, n)
埃(あい)
10−10
ココ以下は中国、明の時代、程大位が記した新編直指算法統宗による。
渺(びょう)
10-11
かすんでいる
漠(ばく)
10-12
trillionth (pico, p) ぼんやりしている
模糊(もこ)
10-13
あいまいなこと
逡巡(しゅんじゅん)
10-14
須臾(しゅゆ)
10-15
quadrillionth (femto, f) ほんの少しの間
瞬息(しゅんそく)
10-16
1回まばたきをし、または1回息をする間の短い時間のこと
弾指(だんし)
10-17
人さし指か中指の先を親指の腹にあてて音を立てること。 敬虔や歓喜、あるいは警告や許可などの意を表わす。
刹那(せつな)
10-18
quintillionth (atto, a) 短い時間。
六徳(りっとく)
10-19
人の守るべき六種の徳目。知・仁・聖・義・忠・和。また、礼・仁・信・義・勇・知
虚空(きょくう)
10-20
清浄(せいじょう)
10―21
sextillionth (zepto, z)
以下の漢字の呼称は出典がはっきりしない
阿頼耶(あらや)
10−22
阿摩羅(あまら)
10−23
涅槃寂静
10−24 septillionth
(yocto, y)
(ねはんじゃくじょう)
例としてボルツマン定数(kB=
1.380649×10−23 J K−1)の漢字表記を考えると、一阿摩羅四涅槃寂静となり2桁の数とならざるを得ない。
糸(絲)と繊という漢字が使われている。大雑把にいって、糸を構成している素材が繊維で、サイズ感は今一つだが、順番的には理に適っている。農工大工学部的にも繊維学会的にも、気分は悪くない。糸(絲)より下は、実際に使われているのを見たこともないが。
最後の3つは出典もわからず、信憑性に乏しい部分もあるが、いずれも仏教用語であり意味合い的にはセンスは感じる。いろんなところに書いてある情報の受け売りだが、「一切皆苦」を知った後に「諸行無常」であり「諸法無我」を知り、そして最後に「涅槃寂静」に至ると考えられている。煩悩の炎の吹き消された悟りの世界(涅槃)は、静やかな安らぎの境地(寂静)であるということを指す。煩悩とは、心身を乱す心のはたらきを指して使われる言葉で、欲望や欲求、妄念、妄執を示す。さて日々の暮らしを振り返ると仏教的な含みもない雑念にまみれた生活であることは認めざるを得ないが、将来展望として悲観論に繋がるものではないように思っています。
一 (いち)
100
one
十 (じゅう)
101
ten (deca, d)
百 (ひゃく)
102
hundred (hector, h)
千 (せん)
103
thousand, (kilo, k)
万 (まん)
104
ten thousand
10万 (まん)
105
hundred thousand
100万 (まん)
106
million (mega, M)
1000万 (まん)
107
ten
million
億 (おく)
108
hundred
million
10 億 (おく)
109
billion (giga, G)
100億 (おく)
1010
ten billion
1000億(おく)
1011
hundred billion
兆 (ちょう)
1012
trillion (tera, T)
10兆 (ちょう)
1013
ten trillion
100兆 (ちょう)
1014
hundred trillion
1015
quadrillion (peta, P)
京 (けい)
1016
ten quadrillion
1018
quintillion (exa, E)
垓 (がい)
1020
hundred quintillion
1021
sextillion (zetta, Z)
𥝱 (じょ)
1024
septillion (yotta, Y)
穣 (じょう)
1028
ten octillion
溝 (こう)
1032
hundred nonillion
1033
decillion
澗 (かん)
1036
undecillion
正 (せい)
1040
ten duodecillion
載 (さい)
1044
hundred tredecillion
1045
quattuordecillion
極 (ごく)
1048
quindecillion
恒河沙 (ごうがしゃ)
1052
ten sexdecillion
阿僧祇 (あそうぎ)
1056
hundred septendecillion
1057
octodecillion
那由他
(なゆた)
1060
novemdecillion
不可思議
(ふかしぎ)
1064
ten vigintillion
無量大数(むりょうたいすう)
1068
hundred unvigintillion
アボガドロ定数(6.02214086
× 1023 mol-1)は、六千二十二垓千四百八京六千兆となる。指数表記に慣れ過ぎてしまうことで感覚が鈍っているが、最後の桁が六千兆ということからも、アボガドロ数が恐ろしく大きな数であることが実感できる(概数を使ったり、簡単に丸めたりするのを躊躇するレベル)。
万進法(日本)、千進法(英語)に関して一部紹介したが、そういう意味で3桁ずつでカンマを打つ表記は、我々日本人にはあまり意味がないことを、ほぼ全員が感じていると思う。
123,456,789,123円と算用数字だけで表されたとき、大きな数字を見慣れた人(例えば銀行の人とか大金持ちとか)以外は、結局ー、十、百、千、万、十万、百万・・・・・と数えることになる。そういう意味では、
1234億5778万9123円という表記はすごく親切で、4桁ずつカンマを入れる1234,5678,9123円という表記は、ものすごく合理的です(自分たちは小学校のとき、こう教わったし、今もそうらしい。こういう大人になると変わってしまうというダブルスタンダードは、とても混乱を招くようにも思いますが・・・)。
(ちなみに3桁カンマは、国の「公用文の書き方資料集」の中で指示されています。昭和35年に出された改訂版が文化庁のHPに載っています。西洋に既に存在していた慣習に合わせたことが、起源のようで、確かに貿易とかしていたら、表記が違っていると若干混乱しそうです。また、英語圏では3桁区切りはカンマ、小数点はピリオドですが、ドイツとか大陸系はそこが逆になっています(フランスは少数点がカンマ、桁の区切りはスペース)。ドイツの雑誌であるMacromolecular
Chemistry and Physicsの古い論文では、その表記が採用されていてやはり混乱します。 1947年に Die Makromolekulare
Chemie/Macromolecular Chemistry としてHermann Staudingerによって創刊され、1994年に今の雑誌名になりました)
失念していたが、改めて思い返すと高橋由伸監督時代の2018年シーズンは、2位のスワローズをCS 1stシリーズで下している(カープには惨敗だが)。まずはタイガースを破ってからという仮定の話だが、なんとか頑張って欲しいものです。というのが今回の結論ということで、恐れるものは何もない「涅槃寂静」の境地で応援したいと思います(大袈裟・・)。
おまけ(算数オリンピック2008年トライアル)
図の四角形ABCDは、角DAB=角DCB=90度、DC=BCです。AB+AD=5
cmのときの四角形ABCDの面積を求めなさい。
解答
問題の四角形ABCDをCを中心に90度ずつ順に回転してくと、題意より図のような一辺が5
cmの正方形ができあがる。求める面積は25/4 cm2(答え)