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偶数、奇数の不平等

 地下鉄銀座線(半蔵門線、大江戸線)の「青山一丁目」駅は、秩父宮ラグビー場や絵画館前の銀杏並木の最寄り駅の一つだが、港区にもお隣の渋谷区にも「青山」という町名はなく、駅の住所は東京メトロが南青山一丁目、東京都交通局のほうが北青山一丁目である。青山通り(国道246号線)と外苑東通りの交差点に駅は位置していて、交差点名が「青山一丁目」で、もともと走っていた路面電車の電停の名称を踏襲したとのことである。1938年の銀座線開通当初は、隣の「外苑前」は「青山四丁目」でスタートしたが、翌年には「外苑前」に改称されている。もう一つとなりの「表参道」はやや複雑で、「青山六丁目」で始まり翌年には「神宮前」と改称されたが、そのころは、もう少し渋谷寄りに駅があった。1972年の千代田線の開通と合わせて赤坂方面に移動し「表参道」に改称となった。開通後、1年も経たないうちに改称された理由はよくわからないが、似た名前の駅が3つ繋がって乗客が降りる駅を間違えることが頻発し、それを解消するためという話もある。そのような事情もあってか、現在の東京の地下鉄の駅には「○○(偶数)丁目」という名称がない。

     
     2013年12月1日銀杏並木(旧国立競技場のファイナルを飾る早明戦の観戦前)

  学生時代、利用していた丸の内線の「本郷三丁目」は、所在地は本郷二丁目なのに、駅名は三丁目ということもあって、偶数が東京では忌み嫌われているのでは、という疑念も生じ、裏がありそうにも感じるが、基本的にはそういうことでもないようだ。近くの交差点名(本郷通りと春日通り)由来というのは上述の「青山一丁目」と同じだし、町域の変更前は確かに「本郷三丁目」の存在していたようだ(以前の略語の回に書いた通り、本郷三丁目→ホンサンと呼んでいる人がタマにいた)。

     
   丸の内線の変遷(左上;1985年ごろ@茗荷谷、右上;2013年ごろ@同じく茗荷谷、下;2021年4月@赤坂見附、2019年2月から導入された新型車両(2000系)。定在波のような模様が復活した。ホームドアの設置が進んだことを反映して、模様が天井付近になった。ちなみに旧型車両には冷房がなかった。

 祝儀、香典と偶数を連想させる金額は避けるべきといった「不公平感」から偶数さんの分が悪いようにも考えられるが、大阪の地下鉄の駅名は(偶数)丁目が主流なようで単純な話ではないようだ。全く関係ない話だが、われら農工大小金井キャンパスの住所は小金井市中町2-24-16で、これでもかというくらいの偶数の固まりのような地番である(素因数に分解しても、奇数要素としては3が一つあるだけ・・)。

 さて化学の世界に持ち込んでみると、大きな顔をしているのはどちらかというと偶数である。

 自然界で生産される脂肪酸の有名どころ(最も多いもの)は、飽和脂肪酸ではパルミチン 酸(C16)とステアリン酸(C18)であり、生合成のメカニズムから考えられるように原則、偶数炭素となる。本当に大雑把にいうと酢酸(C2)が結合してくことになるが、もう少し細かく示すと下記のように酢酸が脱炭酸しながらマロン酸(C3)と結合し、炭素数が偶数の飽和脂肪酸が生成していく。そういう意味では、スチレン(C8H8)をブチルリチウム(BuLi)で重合し、Hでクエンチした場合、重合度に関わらず炭素数は必ず偶数となる。

       

  上のスキームはあくまでも形式的であり、もちろんフリーな酢酸、マロン酸が細胞質内で反応しているわけではない。下記補酵素Aの酢酸のチオエステル(アセチルCoA)がミトコンドリア内での生成が第一歩で、これにはグルコースの代謝物であるピルビン酸が関与する(摂取したグルコースがエネルギー生産やグリコーゲン合成に用いられ、それらの必要な量を上回った場合には、糖質は脂肪酸への変換される・・・)。脂肪酸合成のステージは細胞質であるが、アセチルCoAはミトコンドリア内膜を通過できないので、一度クエン酸に変換され細胞質で再生される。

        

  アセチル CoA を出発原料として、C2ずつ増炭していく基質としてはCO2が付加してマロニルCoAになる。さらにマロニルCoAは、アシルキャリアタンパク質(ACP)というタンパク質に結合することで活性化したマロニルACPへと変換される。アセチルCoAACPと反応して、アセチルACPとなり、これとマロニルACPからCO2と1分子のACPを放出しながら、アセトアセチルACPとなる。

    

 3-oxo基は還元されてアルコール(D体)となり、脱水、水素添加を経てブチリルACPへの成長し、さらにマロニルACPと連続的に反応することで、二炭素ずつ鎖長を伸ばしていくが、C16or C18)まで伸びるとC16ACP(or C18ACP)C16CoA (or C18CoA)に変換され、一段落となる(なぜ・・)。

   

 最後の反応が止まるところといい有機化学的には謎に満ちていて・・。

  次に化合物の物理的性質だが、「偶奇効果」として種々知られている。

 最初は有機化学1でも出てくる、アルカンの融点であり、それらに派生したカルボン酸(α,ω-ジカルボン酸)、アルコール(α,ω-ジオール)の融点である。

     

  高分子の世界でもメチレン炭素の数が異なる「ポリメチレンテレフタラート」の融点等が古くから報告されている(図は論文中のデータから作成)。

          

J. G. Smith, C. J. Kibler, B. J. Sublett, J. Polym. Sci., Part A-1, Polymer Chemistry, 1966, 4 (7), 1851-1859, https://doi.org/10.1002/pol.1966.150040719

   最後に液晶の相転移の偶奇効果を示す(図は論文中のデータから作成)。結晶→ネマチック相、ネマチック相→等方相への転移温度ともに顕著な効果が観察されている。

             

J. W. Emsley , G. R. Luckhurst , G. N. Shilstone, I. Sage, Molecular Crystals and Liquid Crystals, 1984, 102(8-9), 223-233, DOI: 10.1080/01406568408070532

というわけで、しばらくご無沙汰している「青山一丁目」あたりも、今月終わりには随分と賑やかになると思う。紅葉の季節には寒さに震えながら散歩したり、ラグビー観戦などしたいものですというのが今日の結論です。

おまけ (高校入試の問題です)

(1)分数1/998を小数で表したとき、小数第13位から小数第15位までと、小数第28位から小数第30位までの、3桁の数をそれぞれ書け。

(2)分数5/99997を小数で表したとき、小数点以下で0でない数が初めて5個以上並ぶのは、小数第何位からか。また、そこから0でない5個の数を順に書け。

 

解答例
(1)
まずは普通に割り算すると・・

      

したがって、小数点13位から15位までの数字は016、小数点28位から30位までの数字は513となる。(2)の問題からこういう力技が要求されているわけでないことがわかる。

    一見して3桁ごとに2倍ずつ増加する等比数列になっているように見える。20(1、小数点3)21(=2、小数点6)22(=4、小数点9)23(=8、小数点12)24(=16、小数点15)25(=32、小数点18)26(=64、小数点21)27(=128、小数点24)28(=256、小数点27)29(=512、小数点30)210(=1024、小数点33)・・・。というわけで下記のような足し算を考えると、小数点13位から15位までは016(=24)とわかり、小数点28位から30位は512(=29)となりそうだが、次の桁では1024=210)の1の部分があるので、513となる。

0.001
0.000002
0.000000004
0.000000000008
0.000000000000016
0.000000000000000032
0.000000000000000000064
0.000000000000000000000128
0.000000000000000000000000256
0.000000000000000000000000000512

0.000000000000000000000000000001024
0.000000000000000000000000000000002048
0.000000000000000000000000000000000004096

大人は求める割り算の解(商)は次のようの等比数列の和と考えることができる・・・。

   

 (2)大人の解き方を考える。

     

    先ほどのように等比数列の各項の和を書いてみると下のようになり、0でない数字が初めて5つ並ぶのは小数点32位から始まる36451である(答)。

0.00005
0.0000000015
0.000000000000045
0.00000000000000000135
0.0000000000000000000000405
0.000000000000000000000000001215
0.00000000000000000000000000000003645
0.0000000000000000000000000000000000010935
0.000000000000000000000000000000000000000032805

おまけの追加

 1/9998を小数で表すとき、小数第48位、小数第56位、小数第96位の数を求めなさい(名門中学の入試問題です。答えは順に、8, 3, 6)。

 (2021.7.4)