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2020秋雑感ー不可逆過程について

  金曜日(1023日)に京都大学の吉田キャンパスに出張だったが、しばし思い出してみると新幹線に乗ったのは昨年の11月末の繊維学会のイベントで福井に出かけて以来ということを確認した。今年も油断していたらあと2ヶ月だが、おそらく2020年、新幹線は1回(今回の京都)、飛行機での移動、宿泊を伴う出張はともにゼロで終わりそうで、これがニューノーマルかということなのかと愕然とする(齢を重ねると、この「愕然とする」ことが増えることは仕方のないことなのかもしれない。このバカエッセーも8月以来ということで愕然とするが・・・)。

今回の騒動を乗り切るために、我々のような大学人もまた、自らまたは外的要因からさまざまな制約を課してきたわけだが、春ごろ恐れていたように、どうも今回の制約は一過性のものでなく不可逆な過程(または、元に戻るのに恐ろしく長い時間がかかる)になりそうである。

 「ニューノーマル」という言葉は、元はリーマン・ショック後に使われるようになったものであって、「ある程度の経済回復は遂げたとしても、完全に元と同じ社会には戻らない」という不可逆性を含んだ意味で使われた。今回のバージョン2(ニューノーマル2.0)では、ビジネスの世界ばかりではなく、私たちの所属する大学・学界にも多大で重篤な影響を与えている。授業に関しては、「なんで大学だけオンラインで授業をやっているのだ」というのが昨今の世間(マスコミ)の風潮だが、大学は全国から学生が集まってくるということと、学生(または保護者)側に価値観の多様性があり、本学では前学期から引き続きである「オンライン授業」と後学期からの新兵器である「ハイブリッド授業」で対応しているところである。学生諸君(特に一年生)にとって新しい人間関係を構築する場をできる限り提供しようという、苦肉の策であると理解している。

  ハイブリッドの授業の特徴として・・・

・原則、履修者の半分が対面で半分がリモート

・教室に設置されたカメラからの情報(板書)とマイクで拾った音声をZoomを通じてリアルタイムで配信

Zoomで学生さんがしゃべると、それは教室のスピーカーから流れるため、一体感はでる

  学生さんの評判はよくわからないが、現在考えられるところのさまざまな要求を、同時にある程度の水準で満たすことができるやり方であると思う。教える側も孤独にPCに向かってしゃべるという「無観客試合」の状態からは脱している。
 下世話な話で申し訳ないが、今回の対応で教室にカメラとシステムで相応の投資をしているはずで、不可逆性をある程度見通した対応といえる。JR東日本も終電を繰り上げることが報じられており(中央線は30分程度の繰上げとなる)、保守作業の時間の確保という大義があるが、今回の状況の回復には時間を要する(実質、不可逆)という判断なのだろう。

 学会の研究発表会、講演会、研究の打ち合わせは、しばらくはリモートで開催されていくことになりそうで、雑談ベースの情報交換は難しい状況が続くようだし、遠征することによる非日常感を味わうことは、ずっと先のような気がして残念である。私たちと違い学生諸君は限られた時間の中での活動なので、遠征させてあげたい気持ちは山々で気の毒である。

 厳密な不可逆過程というと身の回り(自然界)の至る所にあって、その不可逆性は、生きていくと自然に身につく感覚で理解できるものがほとんどである。例えば、仕切られた酸素と窒素が仕切りをなくすと自発的に混合するが、これが元に戻らないことは感覚的にわかる(熱拡散なんかも同じである)。熱力学第2法則のいわんとすることは、「孤立系においては、自然界の変化する方向はエントロピーが増大する方向である」ということで、熱の出入りがない断熱過程であってもエントロピー変化はゼロではない。

 過程の不可逆性の条件は、イニシャル状態とファイナル状態を比較したときに、下記の通りである。

  ・断熱系(孤立系)であればエントロピーがイニシャルファイナルで増加すること

  ・閉鎖等温等積系では、ヘルムホルツの自由エネルギーがイニシャルファイナルで減少すること

  ・閉鎖等温等圧系では、ギブスの自由エネルギーがイニシャルファイナルで減少すること(自由エネルギーが減少するといっても、平衡の位置が決まるという意味であり、不可逆だからといっても自発的に進行するわけではない。例えば、水素と酸素を混ぜてじっとしていても水にはならない・・)

 それぞれの系のパラメータは状態量であり、その変化量はイニシャル、ファイナル状態で決まる。不可逆過程の道筋は複雑であるが、ファイナルの状態さえ求めることができれば、そこは決定できる。ファイナルの状態を記述するためには、対象としている不可逆過程をいくつかの可逆過程の組み合わせとして捉えることで実現する。可逆過程では可逆的な道筋は厳密に定義されているから,この道筋に沿って変化する熱と仕事は一義的に定まるので、どんな過程でも計算可能である。
 3年生の演習の授業(今年の3年生はG科最後の学生・・)で熱力学の問題に取り組んでもらっているが、やはりここで紹介したような最初の第一第二法則あたりは抽象的で難しい。演習問題を解くことと「その心」を理解することは、若干別物だが、できれば両方とも身に着けて欲しい(自分自身、いつも一緒に悩んでいるような気もするが・・)。最初の授業で、「こういうことを勉強するには、基本これが最後だからね」と、脅しのようなことをいって励ましている。

 半分リモートという難しい状況、そして何回も言って申し訳ないが、来年にはこの授業はないので、思い入れも強くなるわけです。

 おまけ① 正八面体クイズ(ミョウバンの結晶の形です)

1)正八面体の8つの面のうち、4面を白く、他の4面を黒くするとした場合、最高何種類の正八面体ができるか?ただし回転させると同じになるものは同種類とする。

2)正八面体は、下の図のように立方体の各面の中心を結ぶことで作図できる。立方体の体積は正八面体の何倍になるか?

             

 

解答例)

1)なかなか奥深い問題だが、図を使っての直感的な方法で。

         

このように重複のないように対称性に注意して数え上げる(今は上から見ているように描いているが、横から見た場合の重複をさける)。7通り(答)

        

 

また、このような問題は立方体の頂点の塗り方と同じ問題である(やはり直感的ですみません)

     

ちなみに白6面、黒を2面の場合は、3通り。

   

5面、黒3面の場合も3通り。

   

 

これらの逆パターン(白2面、黒6面、及び白3面、黒5面)もそれぞれ3通り。

白1面、黒7面が1通り、白7面、黒1面も1通りなので、正八面体を2色で塗り分ける方法は、トータルで21通りとなる。

2)立方体の辺の長さをaとすると立方体の体積はa3

正八面体は底面が正方形の2つの四角錐を貼りあわせたものである。底面の正方形は下図のように描けるので、面積は大きな正方形の半分(1/2a2)、四角錐の高さは1/2aなので、四角錐の体積は、1/3×1/2a2 ×1/2a=1/12 a3。したがって正八面体の体積は1/6 a3となる。従って、立方体の体積は正八面体の6倍となる。(答)

   

 

おまけ② 今年の数少ないお出かけ写真

      

      

大金@烏山線、EV-E301系電車(ACCUM)(2020723日)。電化区間で充電して、非電化区間で走るという優れもの(非電化区間が宝積寺―烏山であり烏山駅で急速充電)

      

 国立(国分寺市ひかりプラザ)@中央線、951形試験車両(2020916日)。開通前の山陽新幹線で286 km/hのスピード世界記録を作った。国分寺市光町はかつて、大字平兵衛新田と呼ばれている地域だったが、昭和41(1966)の地名整理で「光町」と定められた。現鉄道総合技術研究所の前身であり、新幹線の開発の拠点となった鉄道技術研究所にちなんで名づけられた。

     

 赤坂見附@丸の内線(2020106日) 昔の全面赤、サインウェーブの車両(写真左)が復活して嬉しい。
(写真右:1986年ごろの茗荷谷の駅)

       

ご存知、京都タワー(20201023日)

 (2020.10.25))