左と右 追記):魚についてを少し(2020年4月19日)
中央線の高架化に伴う東小金井の駅がリニューアルしてnonowa口ができてから、駅から大学までの動線がだいぶ変わった。まず、改札を出ると店舗が並んだ通路を歩くところから始まり、ピーコックの前を歩き、つきあたりを左折してから寮の入口を右折で入るのが一般的で、ほぼ歩行者専用道路を辿れば大学に着く。農工大生、職員も皆さん気づいていると思うが、基本、皆左側を歩く。これは農工大ルールでも、東小金井ルールでもなく、日本ではずいぶんと前から、「特に制約がない場合は、左側を歩く」ということになっているらしい(ドイツ人医師のエンゲルベルト・ケンペル(Engelbert
Kämpfer、1651-1716)が著書「日本誌」の中で「日本の道路は清潔に保たれていて、行き先を示す標識が設置され、左側通行のルールが徹底されていた」と記している。武士の左腰に差した刀がぶつからないようにということらしいが、現在は刀を差している人はおらず、左側を歩くことが、規則のようなもので強制されているわけではないので、なにか本能的なところに根ざしている気が個人的にしている。
六方位(上下、前後、左右)の中で左右ほどあいまいなものがない(書き順も左は横線をひいてから払い、右は逆)。上下がポテンシャルエネルギーの高いほうが上と定義、前後は自分の進行していく方向が前だが、左右は非常に相対的なものである(向かって右とか)。小説「舟を編む」の中で、主人公の馬締(まじめ)が、「右」を辞書で説明するのに、『体を北に向けたとき、東にあるほう』としている(実際に広辞苑には『南を向いた時、西にあたる方』とある)。この説明はとても合理的だが、「南北」が定義されないと意味がなくなる(地球上重力があるので、ボールが落ちる方向で上下が決まり、磁石があれば、南北が決まる意味で合理的ということ)。つまり、心臓は左、北極がN極、箸は右手で持つような前提がない宇宙人に実物とか図を用いずに左右を伝えることができるか、というオズマ(Ozma)問題というのは相当な難問ということになる。
実際には、1956年、中国人の女性物理学者・呉健雄がコバルト60のニッケル60へのβ崩壊時に発生する電子が、N極側よりもS極側に多く出されることを見出した。つまり北極がN極という「ローカルルール」を使わないでN極を規定できることになったということになる(対称性の破れ:物理の中で最も難しく最も階層が上の分野で手も足もでていない達磨状態)。N,S極(磁力線の向き)が決まれば、フレミングの左手の法則に従い、左右が決まることになる。
左右もあいまいなのに左回り、右回りはさらに混乱しがちである・・。有機化学でも絶対配置(R,S)を決めるとき、光学活性体を通過した平面偏光が右回りとか左回りとか・・・。最もわかりやすいのが、右回り=時計回り、左回り=反時計回りだと思う(時計の回り方が、画一的なので助かっている。人によって逆回りの時計とかを持っていると上の定義は破綻する)。やはりRSの決定では、順位則で一番低い置換基を自分から最も遠ざけて、残りの3つの置換基を見て・・・というように「基準」を決める必要がある。光学活性体での偏光面の回転では、向かって来る光を観測する立場で見たときの電場ベクトルの回転方向が時計回りであれば、右旋光性、反時計回りだと左旋光性という(光源から見てはいけない)。円偏光も似たような感じで、向かってくる位置に立ち、右回りなら右回り円偏光という(光量子論では光子の立場から見るらしく、これと違う定義となるらしいが・・・。こういうのが一番困る)。
円偏光の場合もそうであるが、螺旋を巻く場合はさらに複雑でアサガオのツルは「円偏光方式」だと左回りだが、右巻きというのが一般的、右ねじ(右に回すとねじが進むべき方向に進む)も螺旋階段にみなすと左回りといえる(今回の付録にあるような右手系とか・・)。渦巻では「上から見て、外側に向かう際、時計回りに見えるのを右巻きと呼ぶ慣例」なので台風は下から見ないで、人工衛星の写真を元に「左巻き」とされる。
再び、日常生活の話・・、東京ではエスカレーターは左乗り、右開け。大阪では逆ということになっている。新大阪で新幹線を降りて御堂筋線に乗る場合、新幹線の改札をでてすぐ下りのエスカレーターは、結構混沌としていて面白い。その一瞬のエスカレーターを使っている集団の性質(おそらく東京の人がマジョリティーだったり、そうじゃなかったりする)に依存して、右を開けたり、左を開けたり・・。その後の地下鉄近くのエスカレーターでは必ず左を開けることになるが、最初のところでは、ある種の遷移状態みたいなところがある。
どのくらいの割合かはわからないし、規則なのかもしれないが、自転車はほとんどの人が左側から乗る。自転車は道路の左側を走るという「ルール」に従って、車から離れた反対側から乗るというのは合理的(人為的)に感じる。陸上トラック、野球のダイヤモンドは左回り、競馬では右回りと左回りが混在しているが、これもきっと誰かが決めたのだろう。ちなみに山手線の内回りは左回り(反時計回り)だが、これは日本の鉄道では左通行が基本で、上から観察することという前提がないと破綻します・・・。
天然のアミノ酸はL体で、DNAは右巻きの2重螺旋ということだが、なぜそのような非対称性が生じるようになったかは、まだわかっていないことだそうです(当たり前だけど、ブレはない)。
(2020.2.9)