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歴史に学ぶ (追記 12月17日、誤字等の修正をしました。ご指摘いただき、ありがとうございます。次は頑張ります・・)

 小学校のころ、音楽室には“巨匠”たちの肖像が壁に掲げられ、ベートーベンには目力があり、バッハの髪型は変なことぐらいしか覚えていないが、どちらかというと音楽室から足を遠ざける方向の力が働いていたような気がする(理科室の「人体模型」には負けるが・・・)。肖像画については、NHKの“叱られる番組”でも紹介されていたように、全音楽譜出版社という会社が、昭和30年代、クラシック音楽家の肖像画を描いたカレンダーを作成し楽器を購入した学校におまけとして配布したことから始まるようだが、文部省(現・文部科学省)が1967年(昭和42年)に「教材基準」を整備するにあたって音楽家の肖像画を含めたためさらに普及し、いわゆるスタンダードになったものと推察される。

        
          (著作権フリーの画像より)

 多少の不気味さはあるが、“巨匠”を身近に感じられる肖像画は、「歴史」を学ぶモチベーションにはなると思う(小学生当時、個人的にはそんなことは全く思わなかったが・・)。芸術分野では作品は“完成品”であり、後世の専門家が手を加えることなどありえないので、“巨匠”はいつまで経っても“巨匠”だが、サイエンスの世界は「改良」、「積み上げ」は当たり前のことであり、先人の業績を否定することから物語が始まることもあり、ややもすると無意識のうちに先人の成果を軽視してしまう。ただし、先人の否定に関しては、「改良」、「積み上げ」のプロセスの中の瑣末なことであり、やはり基盤となる「原理・原則」を見出した“巨匠”をもう少しレスペクトし、歴史から科学を学ぶことも有意義だと思う。そんなわけで、ややシュールな感じはするが“巨匠”の肖像を実験室に掲げることもありだと思う。

 材料として生活に密着した高分子の歴史を振り返るとscienceとtechnologyが両輪として発達していることがよくわかる。ゴムの加硫に関しては、1839年にアメリカのC. Goodyear により発見され、1843年にイギリスのT. Hancockがさまざまな加硫法を開発して近代的ゴム工業が始まったといわれるが、メソアメリカ(中南米)地域に栄えたアステカ、オルメカ、マヤ文明では、アサガオのつる汁で“ゴム球”を作っていたことがわかっている(ここのchemistryがよくわからないのだが・・)。Goodyearの時代であっても、1920年にドイツのH. Staudingerが低分子会合説を否定し,長鎖状構造説を提案するずっと前のことであり、どちらかというとtechnologyが先行する分野といえる。

 Scienceに絞って、実験室に掲げるとすると、このStaudinger、論争中であった高分子説を受け入れ、有機化学的な手法(エステル化、アミド化)で、大きな分子の合成に着手し、ナイロン66の発明者であるW. C. Carothers、彼の部下で重縮合やラジカル連鎖重合の理論を確立したP. J. Flory、ビニロン、粘度式の櫻田一郎先生は、絶対に外すことはできない。10人(組)ぐらいを選ぼうとすると、このあたりから意見が分かれるところではあるが、共重合体連鎖長分布理論のW. H. Stockmayer、ご存知「K. ZieglarとG. Natta」、高分解能NMRで立体規則性の解析をした「F. A. Bovey, U. Johnson, 西岡篤夫先生」、一連のエポキシ等の重合で「古川淳二先生、鶴田禎二先生、井上祥平先生、相田卓三先生」、スチレンゲルを発明、それを使ったGPCのJ. C. Moore、ポリアセチレンの「白川英樹先生、A.G. MacDiramid, A. J. Heeger」とだいぶ合成に偏ってしまうが・・・。

 肖像画を掲げるのとは別に、高分子に限らず、こんな科学史的なことを教授する授業は、高等学校や理系の大学にはあるべきだなと常々考えていて、大きな発見・発明をした偉人たちの置かれた環境、実験の詳細、考え方、理論などに、時代を遡って思いを巡らすことは、革新的なことを産み出す土壌になるかなという持論を持っています。「故きを温ねて新しきを知る」という有名どころに帰着してしまうのですが・・・。


おまけ(前回と同じく太古の昔の公務員試験に出題されたものです)
問)2100を9で割った余りは?



答)
合同式を使うと
26(64)≡1 (mod 9)
(64を9で割った余りと1を9で割った余りが等しいということ)

a≡b (mod m)ならばan≡bn (mod m)なので

(26)16≡116 (mod 9)

296は9で割ると余りは1である(296=9k+1と書ける(kは自然数))。

2100=296x24=16x(9k+1)=9x(16k+1)+7

したがって、余りは7となる。

(そこそこ有名な問題なようで、いろんなやり方があります。2100=(3-1)100として二項定理とか・・)

(2019.12.15)