柿田川湧水群と水の色について
柿田川湧水群(静岡県清水町)から流れ出す柿田川は日本三大清流の一つで、その水は富士山周辺で降った雨や雪が、26~28年(国土交通省調べ)もの長い年月をかけて濾過され地上に現れた湧き水が水源となっている。川の長さは1.2
kmということで、日本一短い一級河川といわれている。ここの湧水量は日に100万トンから110万トン程度で東洋一であり、その透明度は高く圧倒的に美しい。三島駅からそれほど遠くなく(バスで20分程度)、東名の沼津インターに近い国道1号線沿いにある。2010年8月に学会の夏季セミナーのエクスカーションで最初に訪れ、2016年の研究所長会議のときは、路線バスに乗って再訪した。今年(2019年)の基礎講座がやはり三島だったこともあって、再々訪する気満々だったが、国分寺を出るのが少し遅くなって叶わなかった。名水といえば、おいしい豆腐ということで、いろんなプランはあったのだが・・。残念である。
2016年12月撮影
前回訪れたとき(2016年12月)、公園の第2展望台あたりにおられたボランティアの方に話を伺った。
・このあたりはかつて工場の敷地で、廃水由来のヘドロで荒れ果てた状況だったが、工場の移転、市民による土地の買い上げ、清掃活動により現在の姿を取り戻した
・この丸いコンクリートの部分は紡績工場が井戸として使っていた跡
同じく2016年12月に撮影したものですが、PCを叩けば、ずっと美しい画像がある
直径が3メートルばかりの井戸だが、エメラルドグリーン(上)、コバルトブルー(下)、で美しい。「なぜ水が青いのか?」に関しては、古くは空が青いのと同じで、微粒子による光散乱によるものとかCu2+イオンのような着色成分のコンタミ等と考えられていたようだが、実際には赤の領域の可視光の水による吸収が主な要因であることが立証されている。水の電子遷移は150 nm付近の遠紫外域であり、青色に着色の由来は、可視光域に達する基準振動の倍音、結合音である。振動を調和振動(力の定数kのばねでつながった、質点の振動)と仮定した場合、倍音、3倍音は全て禁制遷移となるが、実際の振動は非調和性を示すため、倍音等にかかる遷移双極子モーメントがゼロでなくなり、禁制がとける。ここの話は相当複雑であり、日を改めるということで、今回はザクっとした定性的な話で(3年生の演習で、調和振動の選択律は求めるが)・・・。
水は、結合角が105°程度の非直線分子であり、振動モードの数はNを構成する原子の数とすると3N-6=3である。それらは下記に示すような、対称伸縮振動、逆対称伸縮振動、変角振動の3つである。
それぞれν1, ν2,ν3 とする。Brounらによると、20℃の液体の水に対して、3ν1+ν3 (13160 cm-1, 760 nm), ν1+3ν3 (13510 cm-1, 740 nm), 3ν1+ν2+ν3 (15150 cm-1, 660 nm), ν1+ν2+3ν3 (15150 cm-1, 660 nm), 4ν3+ν1 (16530 cm-1, 605 nm)の結合音が赤色領域となることが示されている(J. Chem. Edu. 1993, 70(8), 612)。
ここの議論は吸収スペクトルであり、実際の井戸の中の水の色は、表面での反射光、浮遊物のよる散乱光などの重ね合わせであって、観察時の空の色とか、観察している角度にも依存すると思われる(実際、上は緑っぽくて、下は青っぽく見える)。
重水では基準振動が低波数(低エネルギー、長波長)側にシフトするため、可視光域の吸収は軽水に比べて少なくなり、ほぼ「透明」となるようです。水素と重水素の同位体に比率が逆転していたとしたら、柿田川湧水の景色を一転していると思われます(味気ないものになっている)。
おまけ
問 a, b, c, d, e, f, gは1~7の異なる自然数としたとき、a×b×c×d+e×f×gが素数となるとすると、その素数を求めよ。
解答例
2と4と6、3と6は互いに素ではないので、これらの数が2つの積の項に別れては、その和は素数でなくなる。従って最初のa×b×c×d=2×3×4×6となり、後の3項は1×5×7となる。これらの和を求めると、144+35=179であり、179は確かに素数である。179(答)
(2019.8.25)