マッチについて
中央線のE233系車両が登場した頃、ドアの上のモニターで芥川龍之介の次の言葉が紹介されていた。
「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦々々(ばかばか)しい。重大に扱わなければ危険である。」
芥川先生の晩年の作品である「侏儒の言葉」の一節であり、中々含蓄のある話であるが、現在のマッチさえも見たことも触ったこともない若い人たちには見当もつかない話だろう。芥川龍之介は1892年生まれで、1927年に亡くなっているので、ここでいうマッチは現在の「安全マッチ」ではなくおそらく頭の部分に黄リンを使った「黄燐マッチ」だろう(擦ればすぐ点く、相手選ばず)(マッチは姫路の地場産業らしく、こんなページでマッチの詳細な解説がなされている)。黄燐(厳密にいうと白リンの表面に痕跡の赤リンが付着したもの)は有害であり、わずかな刺激で発火する。空気中で酸化されて青白く光る(これは化学発光の一種であるが、いわゆる三重項からの発光の燐光の語源である)。
1922年6月限りで黄燐マッチの国内製造が全面禁止された(上記HP)ようなので、さきほどの推論となる。黄燐マッチはどんなものにこすり付けても着火し、時に自然発火するような物騒なシロモノであり、そこまで知らないと芥川先生のお言葉は理解できない。
現在の安全マッチは箱の側面に、黄燐(白リン)の同素体である赤リンと硫化アンチモンが塗布され、頭の部分は塩素酸カリウム、硫黄、膠、松脂などでできているようだ。赤リンは、白リンを除く他の同素体と同様に無害である。頭を側面で擦らないと火がつかない。上記の歴史を知らないとなぜ「安全マッチ」というのかさえもわからないだろう。
一昔前は、飲食店で店名が印刷された箱に入ったマッチをくれた。長細い小さなものなどが喫茶店等には置いてあり、ライターを忘れたときなど重宝したものである。その後、100円ライターの普及で飲み屋ではマッチに代わり、ライターを配るようになり、マッチは折り畳み式の紙製のマッチとしてわずかに残っているぐらいか(都会では絶滅しているかもしれない)。
それでも私は時々マッチを買う(誰もくれないので)。仏壇の蝋燭を付けるのは、ライターはダメと両親から言われたような気がするし、皆マッチを使っているようなので、きっと正しい作法なのだろう。石和の実家にある石油ストーブは電気的に着火するシステムなのだが、御多分にもれず「電装系」はすぐに壊れるので、マッチで着火することになる(学校の教室にあった石油ストーブも底の部分に石油が滲んで来たらマッチを擦って落とし込むことで点火していた)。理科の実験で使うアルコールランプもマッチで点火していたと思うが、恐らく今は違うだろう(安全面を配慮して・・・だろう。私と同年代にもマッチを擦れない知り合いがいるが・・)。
(とは言うものの、どちらが普通かよくわからないが、娘が通っていた小学校では、まさにこの操作を公開授業でやっていた。先生からは「危なそうだったら、お父さん、お母さん、教えてやって下さい」との言葉をいただいていて、だいたいの子供たちは、マッチの尾っぽの先端を親指と人差し指のツメを使って掴み・・・、という感じで着火を試みていたので・・・。さすがに近くにいた子たちには教えました)
そんなわけで最初の言葉は心に沁みます。
おまけ(問2は相当難しいですが・・・・。自分は高等学校のときにできなかったような記憶があります)
問1 奇数の平方を8で割ったときの余りはいくつか?
問2 次の不等式をみたす自然数m、nの組をすべて求めなさい。
解答例
問1
奇数は2k+1(kは整数)とおけるので(2k+1)2=4k2+4k+1=4k(k+1)+1となり、kとk+1はどちらかが偶数なので、4k(k+1)は8の倍数となる。したがって、題意は証明できた。
問2
与えられた式をn2について解くと
①
8m, n2ともに整数なので、不等式の区間の幅が1より大きくないといけないので、少なくとも
でなければいけない。ここから
となる(mは自然数なので)。
この場合には、
となる。
次に問1よりnが奇数のとき
n2=8M+1(Mは整数)と書ける。
偶数の場合(n=2k)は、n2=4k2でkが偶数のときは8の倍数、kが奇数の時は8で割ると4余る数になる。
そこでn2=8M または8M+4 と書ける。
①式と以上のことを併せて考えると、n2は8の倍数には成り得ず、n2=8m+1, または8m+4の場合に限られることになる。
n2=8m+4が①を満たすとすると
でなければならないが、この不等式を満たす自然数mは存在しない。
n2=8m+1が①を満たすとすると上記で求めたmの範囲から
(nは自然数なので)