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博物館について

 先月のベトナム出張の復路のThai AirWaysでナイトミュージアム(Night at the museum)を観た。例によって強行スケジュールの後だったので、眠さに負けそうな状況の中で、あえて子ども向けのコンテンツの中からこの映画を選択したのは、単純に「博物館」が好きだからである(American Museum of Natural History; アメリカ自然史博物館が舞台になっているとても楽しい映画でした)。子どもの頃は、甲府駅前の舞鶴公園(甲府城跡)にあった「山梨県立科学館」(現在は愛宕山に移転)に父親が連れて行ってくれ、神田須田町に2006年まであった「交通博物館」(一応後継は鉄道博物館であるが、テイストは違う)や上野の「国立科学博物館」に東京に住む親戚が連れて行ってくれ、フーコーの振り子やアポロが持ち帰った「月の石」を観ることで、博物館がなんとなく好きになった(福井勝山の恐竜博物館は、何回かカスってはいるのだが、残念ながら訪問したことがない。博物館のくくりにはならないかもしれないが、新横浜のラーメン博物館とか小金井公園の江戸たてもの園なんかも好きです)。

 大学関係では、山形大学工学部の旧米沢高等工業学校本館(2016年秋に繊維学会の若手交流会の集まりで訪問した。若手じゃないけど)も相当味があるが、我ら農工大の「科学博物館」(旧工学部附属繊維博物館)も博物館としての様々な機能を持ち併せた誇るべき博物館である・・・。コンテンツ、組織、スペースをベースとした教育・研究活動、地域貢献、生涯学習、イベントの提供等々・・・。

 2016年の冬、京都工繊大で開催されたInternational Conference on Education in Fiber/Textile 2016 (ICEFT2016)で「農工大の繊維教育について話して」という講演の機会をいただいた。繊維に関しての教育プログラムを実施してた信州大、福井大、京都工繊大連合が主催の国際会議で、繊維教育の話をするのは随分と「無茶振りだなー」と思ったものである(農工大の繊維の授業に関しては、有機材料化学科だけで、、私が担当の有機工業化学で、ほんの少しだけ繊維の話はして、有機材料化学科で繊維と名のつく科目は高分子・繊維物理I及びIIしかないし・・・)。そのとき、ほかに玉もないので農工大の博物館がいかにすばらしく、工学部の学生さんの教育にいかにして活用されているかについて資料を集め話をまとめた。また、繊維教育とは関係は少ないが、ご近所のご婦人が集まって藍染、組紐、織物等に取り組むサークル活動や子どもたちを集めて実施する「子供科学教室」を通じての社会貢献活動についても紹介した。
(1992年に小中学校の週休2日制がはじまったが、当時父兄側には、休みになった子供がどうやって休日を過ごすか、ということが大きな問題になっていて、地域が貢献するべきだという風潮が蔓延り、本学もそれにのったわけだが・・・)

 子供科学教室だが、助手時代を含めて結構な回数、コンテンツを提供させていただいた。
 吸水性ポリマー、不飽和ポリエステル、高強度繊維、スライム、偏光フィルム等々を題材にして・・・。最近では2016年にスライム・偏光フィルムで実施している(写真)。助手時代だが、こんなことがあった。佐藤教授が開口一番「皆さん、ポリマーって知っていますか?」と参加してくれた子供たちに優しく訊ねると、「そんなもの知らねーよ」という答えが返ってきた(まあ、しょうがないです・・)。

 博物館のHPによると沿革は下記の通りである。
「東京農工大学科学博物館の歴史は明治19年(1886年)、東京農工大学工学部の前身である農商務省蚕病試験場の「 参考品陳列場」にはじまります。昭和27年(1952年)、博物館法に基づく「博物館相当施設」に 指定され(注:学芸員の資格がとれます)、 昭和52年(1977年)には工学部附属繊維博物館として制度化されました。平成20年度より、「 東京農工大学科学博物館」へと名称を変更し、工学部附属から全学化された科学博物館へ、 繊維に特化した博物館から、本学の農学・工学の研究成果を発信する基地として、またこれまで以上に 研究・ 教育活動に重点をおいた大学博物館施設としての生まれ変わりが期待されております。」

 とはいうものの所蔵品は、東京高等蚕糸学校標本室に展示されていた多数の養蚕関係の資料を中心とする繊維・糸・織物・編物・繊維製品等の他、繊維機械・試験器・皮革・紙製品等が大勢を占める。それ以外にも養蚕・製糸・機織をテーマにした江戸時代から明治時代の蚕織錦絵、明治初期のものも含む生糸商標、組ひもと各種の組台、国内外のミシン(OK近くに工場のあった蛇の目ミシンもあります)、世界初の人工繊維シャルドンネ人絹(写真1)、日本各地の手織機の模型などがある。ベンベルクの製造装置の模型、構造色を示すモルフォテックスなど繊維製造各社から提供されたと思われる展示品も多い。

       
写真1:シャルドンネ人絹(1884年フランスのHilaire de Chardonnetによって開発されたニトロセルロース繊維、燃えやすい・・。公的機関ではここしかないと言われている)

 農工大の博物館の最大の特徴は、自動繰糸機(写真2)、紡績機、自動織機類(写真3, 4, 5)、編機などの繊維機械の”動いている勇姿”の見学が可能なことである(動態展示)。これらの整備・運転は本学の卒業生で繊維関連の技術をもつ先輩方を中心に1999 年に組織されたボランティア団体「繊維技術研究会」の皆様の努力に負うところが圧倒的に大きく、現役教員としては頭が上がらない状況であり、将来展望も含めて皆で議論しないといけないと常々思いつつ、随分と長い時間が経ってしまった・・。繊維技術研究会の皆様は、機械の維持管理・運転ばかりではなく、古き良き日本の技術の語り部として見学者(学会関係、大学生、高校生、中学生・・・若者たち)にメッセージを伝えてくれています。

   

    写真2:自動繰糸機(富岡でもこれは動いていません)


写真3 豊田自動織機:緯糸のために杼(ひ)(shuttle)を往復させるのだが、糸が少なくなると自動で杼を交換する。ストーダウンする必要がない


写真4 水で緯糸をとばす。耐水性のある合成繊維向き。空気で飛ばすAir Jetも動いています(天然繊維向き)。


写真5 ジャカード付絹織機(紋紙を使って柄を織り出す。紋紙は昔のコンピュータで使われたパンチカードのようなもので、0,1のデジタルで模様が決まります。コンピュータの考え方の起源になったとも言われています)


 工学基礎実験の一環で全学科の1年生が博物館を見学している。蚕、繊維、繊維機械と分野横断的な教材であり、生命工学、化学、機械、電気電子、物理、情報とあらゆる分野の学生にとって「故きを温ねて新しきを知る」ことが可能であると思います。学生諸君、OBの皆さんには農工大のアイデンティティーを確認するためにもぜひ、博物館を再訪して欲しいものです。


おまけ:(糸っぽい問題で・・・)
問 同じ長さのひもが10本ある。これを中央で束ねて、ひもの上端を2個ずつつなぎ、下端も2個ずつかってにつなぐことを考える。つなぎ終わったあと、中央の束をほどいたとき、全体が1個の環になっている確率を求めなさい。

解答例
あらかじめ上端を繋いで、下端に1~10の番号をつける(下図)。



1は2と繋いではいけないが、他はどこでもいいので輪にするための確率は8/9。1と繋いだものは2と繋いではいけないので6/7。以下順に同じようにつなぐと・・・、求める確率は

     

となる(以外に大きいですね。環状高分子の合成っぽい問題です)
(2019.3.3)