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マニアックな脂肪酸の分離方法について

 石鹸、洗剤をはじめとして界面活性剤の利用法は多岐に亘る。高分子の微粒子(主としてサブミクロン以下)を作る場合、乳化剤として用いられる。水と油からなる安定なエマルションを作ろうとすると界面活性剤は不可欠である。互いに混じり合わない物質(水と油)が共存する場合、界面付近での界面自由エネルギーを低くするために、接触面積をなるべく小さくするようにするので、完全相分離した状況が最もエネルギー的には安定である。そこをなんとか・・・ということで界面エネルギーの差を小さくするために界面活性剤の登場となる。親水性と疎水性のバランス(HLB;hydrophilic lipophilic balance)に応じて、oil in water(水に油が浮いている)型かwater in oil(油に水が浮いている)型かが大体決まるが、実際に様々なケースに当てはめていくと、界面活性剤の選択は一筋縄ではいかない場合が多い(試行錯誤系の実験が要求される)。

 安定なエマルションが欲しい時(アクリルアミドの逆懸濁重合、自分が書いた初めての論文です)にはなかなかできず、分液操作(水と油の相を分けたいとき)では、なぜか安定なエマルションができて、私たちを悩ますことになる。

 研究室でも、水/油の界面がトリガーになる現象や異種高分子の界面制御が一つのキーワードになりつつあるので、そのあたりのことを学生さんといっしょに勉強中です・・・。

 そのあたりとはあまり関係の話だが、今回は石鹸の原料となる脂肪酸についての論文を紹介する(相変わらずの古い論文だが、古典には現在の論文にはない、不思議な魅力が備わっているものも多々ある)。

 石鹸といえば、様々な脂肪(トリグリセリド)のケン化反応により製造されるが、マニアックなテクニックでオリーブオイルからオレイン酸を単離する方法が紹介されている(参考文献: Journal of American Oil Chemists’ Society, 29(12), 614(1952))。

 上記論文によると、実験で用いたオリーブオイルの脂肪酸成分はオレイン酸80.2%、リノール酸3.7%、リノレン酸1.0%、飽和脂肪酸(パルミチン酸とかステアリン酸)15.1%である(ヨウ素価は81.3、ヨウ素価(IV):試料に吸収されるハロゲンの量をヨウ素に換算し、試料に対する百分率で示したもので不飽和度の尺度)。各脂肪酸の構造は下記の通りである。



 分別のための操作だが、まず加水分解で得られた脂肪酸の混合物1 kgを3600 gの尿素の9000 mLのメタノール溶液(沸騰させている)に溶解させる。熱浴から外すと尿素錯体(オレイン酸との)の結晶化が始まり、0℃でovernight放置した後、ろ過すると3870gの錯体が得られる。多量の熱水で洗浄すると、錯体が壊れ上部に840gの無色の脂肪酸が遊離してくる(ヨウ素価77、オレイン酸83.9%、リノール酸0.9%、飽和脂肪酸15.2%、この時点でのオレイン酸の回収率は88%)。ここから・・・

1)直接分別蒸留を行うと、432 gの半固体成分( b.p. 192-205℃/4mmHg,iodine number, 64.9)及び 380 gの無色の成分の粗オレイン酸( b.p. 205-206℃/3.9mmHg, iodine number; 82.8, 組成; オレイン酸 90.4%、 リノール酸 0.9%、飽和脂肪酸 8.7%)。トータルのオレイン酸の収率は43%となる。
2)尿素錯体から回収した脂肪酸840gを蒸留前にアセトンから分別結晶化を行う(12 mL/gのアセトンを使用)。-20℃まで冷却すると140 gの飽和脂肪酸が結晶として取れてくる。-50℃まで冷却すると620 gのフラクションが回収でき、成分はオレイン酸 94.4%、 リノール酸 0.1%、飽和脂肪酸 5.5%となり、ここまでの収率は72%である。このフラクションを分別蒸留を行うと500 gの留分が取れて、成分はオレイン酸 97.7%、 リノール酸 0.1%、飽和脂肪酸 2.2%となりトータルの収率は60%となる。

というわけだが、
1)オレイン酸は尿素と錯体を作るがリノール酸、リノレン酸は錯体を作らない
2)飽和脂肪酸はアセトンからの再結晶で取り除ける

という事実に基づいていて、中々巧みな方法に見える。






おまけの頭の体操(最近、これしか見ないという話を聞いて若干ショックを受けているが)

問1

Vを1辺の長さが1の正八面体とする。
(1)Vの一つの面と平行な平面でVを切ったときの切り口の周の長さは一定であることを示せ。
(2)1辺が1の正方形の穴があいた平面がある。Vをこの平面にふれることなく穴を通過ささることができるか。結論と理由を述べよ。


問2
みかん14個を3人の子供に分配する方法は何通りあるか。ただしどの子供にも少なくとも3個は与え、みかんは区別できないものとする。





解答

問1(東大の入試です。昔から立体ものが多く出題されていました)
(1)下図で面ABCに平行な面で切るとすると、切り口は面PQRSTUとする(この平面は面DEFとも平行)。代表としてABとPU、PQとEDはそれぞれ平行となる。そのため、PQ+PU=1となるので、同様にTU+ST=SR+RQ=1。よって周の長さはどんな場合でも3となる。


(2)正方形の面に△ABCが平行になるように移動できるかを考える(正方形BCDEと穴を平行に移動しようと思っても、触れてしまうので不可である)。下図のようにAを角に置くと、B,Cはともに辺に触れずに配置することができるので、Aを少し角からずらせば、触れることなく穴を通すことができる 。
 
 

 次にそのまま平行関係を保ったまま、穴を通すことを考える。

 
 下図のように6角形PQRSTUを正方形HIJKに内接させる。対角線の長さKIを求めて見ると、

  


であるから、正方形HIJKの一辺は1より小さい。したがってxがどんな場合でも6角形PQRSTUは穴を通ることができる。△DEFについては△ABCと同様。

したがってVは穴を通過できる(答え)。

問2
3人の子供にまず3個ずつ与えて、残りの5個を3人に与えることを考える。
下の図のように丸をみかん、俸を仕切りとして、これらを並べる数を数えればよい。


5個のみかんと2本の棒がそれぞれ区別できるとすると、7P7=7! 個。みかんも棒も区別できないので、求める数は7!/(5!x2!)=21(=7C2) 答え21通り

(2018.9.23)