農工大の樹  その89
   
イスノキ
(マンサク科イスノキ属の種、学名:Distylium racemosum Sieb. et Zucc.,別名:ヒョンノキ)
 この種は樹高10m〜15m(時に25m)、胸高直径40cm〜50cm(時に1m)になる常緑高木で、伊豆半島以西の本州太平洋側地域、四国、九州、琉球、台湾、済州島、中国南部に広く分布します。樹皮は灰褐色ですが、雨の後などには幹が赤く見えることがあます。葉は厚く光沢があり、縁には鋸歯がありません。この種の特徴として、葉にアブラムシの幼虫が入った大きな瘤、いわゆる「虫エイ」ができます。アブラムシが出た跡は丸い穴が空き、そこから吹くと笛になります。私の郷里の大分では「サルブー(猿笛)」と呼んでいました。また、この種の別名「ヒョンノキ」は吹くとヒョーと音がすることから呼ばれるようになったものです。この植物には重大な研究上の発見が絡んでいます。本学の安部浩教授が大学院生の頃、イスノキの瘤は葉の異常成長によるもので、それには生理活性物質であるホルモンが絡んでいると見当を付けました。イスノキの葉430kgを集め、それからわずかに751マイクログラムの成分を抽出しました。それが、第6番目の植物ホルモンと呼ばれる「ブラシノステロイド」の発見となったのです。この種の材は堅く、緻密であることから、建築材、楽器材、算盤、盆や箸などの器具に利用されています。また、心材は黒いので紫檀や黒檀の模擬材としても使われます。
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司

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