農工大の樹  その58

   
ボダイジュ
(シナノキ科シナノキ属の種、学名:Tilia miqueliana Maxim.、漢字:菩提樹)
 この種は高さ10m-20m、直径50cm以上になる落葉高木で、中国南部と朝鮮半島に分布しています。日本では寺院で見かけることが多い種ですが、それは臨済宗の開祖である栄西が中国の天台山から仁安3年(1168)年に持ち帰ったことにはじまると伝えられています。ボダイジュは釈迦がその樹下で悟りを開いたと伝えられていますが、その種はインドボダイジュ(クワ科イチジク属の種)で、この種ではありません。しかし、葉の形が似ていることから、中国でその種の代用品としてこの種が位置づけられ、日本にもそれがもたらされたものです。葉は広楕円形で、裏に綿毛があります。また、花は長い柄の先につき、柄には翼がつきます。果実は堅く、これで数珠を造ります。タイでは実際に寺院でこの実で作った数珠を販売しているのを見たことがあります。
 属名「Tilia」 はギリシャ語の「翼」からでたもので、この属の果実の柄には写真のように翼がでます。この属の種は北半球の温帯地方に広く分布し、45種が区分されています。シューベルトの歌曲「冬の旅」にでてくるリンデンバウムもこの属の1種、セイヨウボダイジュです。この仲間の日本自生種にはシナノキやオオバボダイジュがありますが、シナノキは葉が薄く、裏に綿毛がないこと、オオバボダイジュはシナノキに似ていて、葉が大きいことからすぐに区別できます。余談ながら、「信濃の国」の語源は科(しな)野に由来し、シナノキが生えている野の意味だとも言われています。この仲間の種はどこでも木材として利用されましたが、樹皮の繊維が強いことから木綿が広がるまでは、この樹皮が大事な繊維の材料として利用されていたそうです。
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
 

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