農工大の樹  その54

     
  
オオシマザクラ
(バラ科サクラ属の種,学名:Prunus lannesiana var. speciosa Makino)

 この種は伊豆諸島だけに特産するサクラで,房総半島や伊豆半島にみられるものは薪炭材用に植えられたものが野生化したものと言われています。樹高15m,直径30-40cm(時に2m)くらいになる落葉高木で,九州を除く北海道から四国に広く分布するカスミザクラから分化した島嶼型(変種)と言われています。母種とのちがいはオオシマザクラは葉に毛がないことで区別できます。また,これは多くの品種の基となったサクラで,この種がなかったならば現在のように多くのサクラの品種はなかったであろうと言われるくらいです。よく耳にする普賢象,菊桜,関山などはこの変種から作られたものです。この木の花を知らない人でも,桜餅を包む葉のサクラと言えば誰でもすぐにわかるでしょう。あの独特な臭い(クマリン臭)はこの葉を塩漬けにすることで発生するものです。不思議なものです。材質もよく,浮世絵の版木にはこの材が主に使われました。また,樹皮を磨くと美しい光沢がでるので,今でも茶筒をはじめとする細工物に利用されています。
    
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
 

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