農工大の樹  その111

   
ヒメバラモミ
マツ科トウヒ属の種、学名:Picea Maximowiczii Regel

 この種は高さ30m、直径1mにもなる常緑針葉高木で、本州中部の長野県と山梨県の一部山地に稀に生育します。この種は第三紀の鮮新世(500万年以降)から1万年前に終わる第四紀洪積世の長い期間、岩手県以南の本州と四国、九州などに生育していたことが球果や植物遺体の化石からわかっています。しかし、今では2県の限られた地域にしか分布しておらず、遺存植物といわれています。このトウヒの仲間の植物は葉が四角形をしており、先端が尖っていることに特徴がありますが、この種はあまり湾曲せず先端が鋭く尖ることが特徴です。また、写真のように、枝が横に張り出すのも特徴の一つです。この種とよく似ており、分布域が重なる種にハリモミがありますが、ハリモミは葉が枝につく部分(葉枕)が突出し、葉が大きく湾曲していることで区別できます。和名のヒメバラモミは、ハリモミの別名であるバラモミに似ているが、全体に小型であることからヒメ(姫)とつけられ区別されたものです。この種の材は軟らかく、弾性が強く白色から帯黄色をしています。かつては建築材や器具財などに利用されていたようですが、今ではほとんど材が生産されないので見かけることはないようです。

環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司

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