農工大の樹 その9 |
マンサク
(マンサク科マンサク属の種,学名:Hamamelis japonica Sieb. et
Zucc.)
この種は高さ5m〜8m程度の落葉樹で,北海道渡島半島以西の山地に広く分布します。早春に風変わりな黄色の花弁の花を咲かせ,真っ先に春の訪れを知らせてくれます。和名の語源には,早春にまず先に咲くという意味の「まず咲く」から転化したという説と,枝いっぱいに花を咲かせることから,穀物が豊かに実る「豊年満作」に由来するとする説があります。この木には樹皮が強くて切れず,枝もよくたわむという性質があります。このため,古くは川の氾濫を防ぐための蛇籠や柵,筏の木を縛るねじ木などとして利用されました。奥飛騨の白川郷に特有な「合掌造り」には一本の釘も使っていませんが,地元で「ネソ」と呼ぶマルバマンサク(日本梅側に特有に分布するマンサクの亜種)の幹をよじって柔らかくし,それを縄として材木を縛っています。これは,植物の性質を熟知した生活の知恵といえましょう。この写真は,工学部の事務棟前の庭で春を告げているマンサクの花です。新入生を待つ春の大学キャンパスに似合う木でもあります。
(農学部教授 福嶋 司)