農工大の樹 その8
スギ

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スギ
(スギ科スギ属の種,学名:Cryptomeria japonica D.Don)

 スギの原産地は日本と中国です。日本では北海道を除き,屋久島から,九州,四国,本州に自生分布します。この種は富栄養で湿潤な立地を好みます。縄文時代には沖積平野に他の落葉樹と共に大森林を形成していたことが福井県の三方低地,富山県の魚津などでの埋没林の発見でわかってきました。しかし,奢れるものは久しからずでしょうか。現在の自然分布域を見ますと「縄文杉」で有名な屋久島では常緑広葉樹に圧迫され,遠慮しながら生育していますし,本州での主な分布である日本海側山地では,本来の立地は落葉広葉樹のトチノキ,サワグルミに奪われ,平尾根部に逃げ込んでいます。酒樽にこの材が使われました。江戸時代,「酒」は上方(灘,伏見)からはるばる江戸に運ばれてきましたが,貯蔵施設のない時代のこと,長い道中の問には随分と味も変わったでしょう。しかし,その劣化をこの木の芳香が感じにくくしたのかも知れません。樽を作る材を供給するためにこの種の植林が始まったとも言われています!?。東京近郊で現存する最も古い植林は江戸時代末期,韮山の代官であった江川太郎左衛門が高尾山の山頂部に植林したものと言われています。奥多摩地方が広いスギ植林地となったのは戦後のことです。樹齢40年前後の,活発に花粉を生産する個体が多いため,残念ながら春先の花粉症の悩みは続くでしょう。この写真は農学部本館の正面にアカマツと並んで生存するものです。この個体は昭和9年の農学部本館竣工時の写真にも成木の樹形で写っていますので,樹齢は100年を越すものと思われます。

(農学部教授 福嶋 司)


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