A Student Wizard

 
代理 L 

「あなた「「魔道士ですか?」
 男がそう声をかけてきたのは、『薬の町』のとある宿屋でサラダ・セットを食べていた時のことだった。 私は男の方に顔を向け、無言でうなずいた。
 「「この『無言でうなずく』というのは、なかなかサマになる。これは、相手への第一印象の良い所を見せつける良い手段である。こうすれば、いかにもお固い魔道士様というイメージができあがる。
 なぜ魔道士といわれたかと言うと、服装である。
 魔法の法衣という僧侶のよく着る長いやつを半分の長さにしたベストと同質のズボンとマント、魔法金属の杖、これで魔道士でなかったらただの阿呆である。 男は、なかなか容姿の良い「おにいさま!」というくらいの年齢だった。
「奥のテーブルに来ていただけませんかな。」
 こやつ…もしかして…ナンパ? ならどうして私が魔道士なのを確かめた?
 テーブルには先客がいた。
 けっこうがっしりとした体格、白い胸当てと背に背負った長剣、顔はなかなかのハンサムさんである。
 正面にいる男(ハンサムさん )は、男に金貨をあげていた。たぶん最初の男は、私を呼びだすためだけの人だったらしい。
 男は正面から私を見すえた。
「オレの事どう思う?」
 ずべしゃあ!
 私は盛大に突っ伏した。まがりなりにもこんな事を真顔で聞くやつがいるか!
 こいつ絶対芸人だ。スカウトに来たな!
「今のは冗談だ、本題に入ろう。」
 そら来た「「。
 芸人にスカウトしようもんなら攻撃魔法一発おみまいしてやる。
「実は、「「。」
 私は詠唱と唱え始める。
「私は旅芸人一座の者でー。」
 くぬやろっとばかりに魔法を唱き放とうとしたが、「今のも冗談だ。今度こそ本題に入る。」
 話しかけた男の口調を私は止めた。
「今度くだらない事ぬかしたら黒コゲにしますよ!」「できるかな「「。」
 余裕の素顔「「体から発する『気』がただものではない。さっきまで、ただの男だったのに。「「そう思ったら、また、男から気がぬけた。
「仕事の手伝いをしてほしい「「。」
 真顔だった「「。
「何の仕事でしょうか?」
「この『薬の町』の神殿で邪神の像がなくなったことは知っているね。」
 知らんかった。いやマジで、マジで、でも知ったかぶり、
「知ってますけど「「。」
「私に協力してほしい。依頼料も払う!どうだ?」
 私は、首を縦に振った。
「よし、オレは、アルス・マトラーダ、こう見えても聖騎士だ。」
「へえ!?」
 私は奇妙な声をあげていた。でも、彼の言った事は本当だった。私もどうも妙だとは思っていたが…うーん、人は見かけによらんなあ…。
 彼の着ている白の胸当ての『白』というのは聖騎士にしか装備することをみとめられてないのである。
「私は、エリス・クレイミア、単なる魔道士よ。」
「エリス「「。」
 男は、考えこむ「「。ポンと手をたたき、
「ガルキス・メルキトア先生の生徒かー。」
 私は面食う。しばらく頭がまっ白け、
 ・・・・・・
 ようやく我に還る。
 疑問だ「「。確かに先生の生徒である。(見習い魔道士ということ)先生は、有名とまでいかないが知る人は知っている、というくらいの人である。
 その生徒の私の名前を知ってるなんて…この人は一体…。
「あん時の小せえ子供が、こんなに大きくなってー。て、これは、また後でということで、邪神の像が盗まれたというのはさっき言ったが、それがどこにあるかの見当はついている。この町の北西にある洞窟にあるんだ。そこで魔道士の力が必要になった「「というわけさ。」
「一つ言いますけど、私「「見習い魔道士ですよ?」「別にかまわんさ、それにオレとあんたのコンビって結構、息があうかもな。」
 といゆーわけで私とアルスのにわかコンビが結成された。

 現場には、あっさりと着いた。
「ここですね。」
 私は、ちょっと、服が黒くなっているアルスに問いかけた。
 なぜこうなっているか、と言うと、そんなたいしたことではないのだが「「
 途中でかなり大きめの港があり、私はとーとつに水浴びすると、駄々をこねた。汗でベトベトするのが嫌だったからだ。「「まぁ、それが好きだという奴がいたら死んでもらいたい。私はふと思い立って、滝壷に『爆炎火弾』をかまして、インスタントのお風呂をつくった。雄大、雄大。
 しかし、その音に驚き、アルスが駆けつけてくる。 恥ずかしさのあまりに『魔力爆発波』を放っちゃいましたよ、いやぁー、『乙女のはじらいってかーわいい 』、私の言葉にアルスは賛成してくれなかった。 「「事件とも呼べないささいな出来事だったが、ここにくるまでにあったことといえばこれだけである。 …ちゃんとアルスの傷を治したから、いーじゃないのっ!
 ともあれ、今、二人の目の前に大きな洞窟がある。どーやら本当にただの洞窟のようだった。

 中はかなり広い造りだった。ここに入ると使える魔法が制限される。広範囲に効果をおよぼす魔法を使うと自滅の道を歩むからだ。いくら見習いでも、そのくらいの知識はある。
 でも…なんかやだなぁ…ハデな魔法がつかえないって。
 私は『照明』の魔法をかけた。魔法金属の杖をたいまつのようにかざしながら、私たちは先を急いだ。彼はと言うと…しっかりマッピングしてる…えらすぎるぞコイツ。
 次の瞬間、二人とも動きを止めた。前方に何かがいる、と感じたのだ。
 私が口を開くよりも先にアルスが、
「オークが、十匹前後。」
 アルスがばかばかしそうに言う。
「おおっ!なんとかわいい雑魚でしょう。」
 私は感嘆の声をあげた。
「私が殺るわ!」
「オレが殺るわ!」
 二人同時に声をあげた。
 じっとにらみ合う。
「私が始末する!」
「いいやオレだ!」
 と、ギャーギャーともめている迫力に押され十匹のオークは、すごすご逃げ出した。
 しばらくたってジャンケンで勝ったものが始末するという意見が出て、私がジャンケンで勝った時には、オーク共は、影すらも見えなかった。
「エリス…おしかったな…。」
 アリスが、私の肩をぽんとたたく。
 やっぱり私たちコンビがかみ合っていないのではないだろうか、と思いながら歩み続けていた。

 次に出てききたのは、土人形だった。私は彼の肩をぽんとたたき、
「あなたに任せるわ。」
 彼は剣を握り、土人形に向かって一直線、土人形のパンチが来る。
 どがあ!
 これでアルスがくらっていれば笑い話にでもなったのだが、そうではなかったようだ。
 ジャンプ一番で攻撃をよけていた。そしてそのまま剣を振り下ろす!
 私が次に見た光景は、左右の割れた土人形だった。
「この獲物は私のものよ!」
 オークが、十匹(またかよ…)。
『火炎火線』
 指先から赤い熱線が走る。この魔法の光に当たるとたちどころに炎が発生するというなかなかおもしろい魔法であり、しかも連射できる。
 熱線を発つたびに「ぎゃっ!」とか「うぎゃあ!」という声が聞こえてきて本当に楽しい。(…それじゃどっかの魔女だよ…)ハデな魔法の使えないうっぷんをはらさせてもらおう。
 するとアルスが私をとめる。
「もうやめろ!」
「なによ邪魔しないで。」
 前を見た時には、すでに十匹の焼死体が転がっていた。(うーん残酷)
「お前見境いのない奴だなぁ」
 あきれた声で言うアリス。
「ちょっとうっぷんがたまっているだけよ!」
 ・・・・・・。
 彼はどうやら言葉につまったようだ。
「ところでさ、お前さん、どのくらい魔法が使えるんた。」
 いぎなりの質問…ちょっとばかし考え込む。
「えっ…と、古代語魔術を少しと精霊魔術の『大』と『風』、白魔術がほんの少々…。」
 私が言った少しをどの程度として受けとるかは彼に任せるとして、さきほど私がいろいろ魔法の種類を並べたが、魔法は大きく分けて四種類あると考えてもらいたい。
 一つ目、一番幅が広い古代語魔術。
『浮術』や『照明』も含まれ、攻撃魔術はもちろん、時を操る時魔術や召換魔術っていうのまである、いろいろ覚えていると何かと楽になるという魔法である。 二つ目、精霊魔術。
 その名の通り、精霊界の四大元素の精霊との行使によって行われる。これは術者の力量にも関係するが、「火」と「水」、「風」と「土」のように属性が反対の魔法は、使うことができれば、魔道士仲間に尊敬される、というくらい大変なのだ。
 火は、主に火炎系、水は、氷結系、土は、地形を利用、風は、風系を電撃系の二種類ある。
 なお火は「火霊」、水は「水霊」、風は「風霊」、土は「地霊」。これは、低い階級で高くなると、「火神」、「風神」、「地神」になる。…水神はと言うと私は知らない…。
 三つ目、白魔術。
 白魔術は神への信仰を源とする。神といってもいろいろあり、光の神、天使、聖獣、神獣の四つが主な神だと思う。私は光の第五神バアルと、第四神ヴィシュヌに信仰している。
 白魔術は、回復、治療、予防、防御、探知、浄化、攻撃の七種類がある。
 最後四つ目、暗国魔術、またの名を禁呪とも言う。 悪魔、邪神、魔王との命約により行われ、その威力は極大無比なため禁呪という名がついた。これのほとんど攻撃用である。
「ほほぉ…。」
 感嘆の声をあげる彼。
「いやぁ、オレもいくらかは使えるんだけどなぁ、さすが本業!」
「いやぁ、それほどでもあるけど…あなたは、何が使えるの?」
「まぁ、白魔術を少々。」
「へぇ…。」
「よせよ、そんなにほめるなよ…。」
 をい…誰も、ほめとらんちゅうに!
「あなた聖騎士って言ってたけど本当?何か証明できるものを持ってない?」
「証明できる物といったら…。」
 何やら考え込む彼…。
 しばしあって手をポンと打つ。
 剣を背中から抜いて私に渡した。
「なかなかいい剣ね。」
 彼は、一つため息をつき、
「そうじゃなくて、その剣から何か感じねえか?」
 もう一度見てみる。剣に聖なる力が備わっているような…。
「これって聖騎士剣?」
「そうだ。」
 ようやく私は、彼を信じてみることにした。
 なぜ私が、認めたか。聖騎士の称号を受けた者は、自分の剣を三日三晩、教会に置いて剣を清め、その後聖水を剣にかけるのである。すると剣は、青白い聖なる力にまとわれるという。なお聖騎士剣は、死霊などの『死せる者』などに通常の倍近い効果を生むし、それら以外でも武器攻撃の効かない敵にもダメージを与えれる超お得な剣。
「「「で、聖騎士なるのに…いくら払ったわけ。」
「いくらオレでもしまいにゃ怒るぞ!」
 などとかけ合いをやっているうちに巨大なホール状の部屋に着いた。
 大きさは、小さな家なら庭つきでまるごと入るくらい大きかった。
 そして「「私たちの正面に一人の男と一人の女がいた。
 一人は黒い甲冑に身をつつむ戦士だった。それは、「暗黒騎士!」
 私が、口を開くより先にアルスが、口を開いた。
 もう一人は、黒ローブを着た魔道士だった。
 その二人が、こちらへ歩いてきた。
 するとアルスが、
「暗黒騎士は、オレが倒す!」
「ほほぉう…貴様にオレが倒せるってか…おもしろい見せてもらおう。」
 いきなり火花ちらしとろなぁ…こいつら。
 聖騎士と暗黒騎士の力量はほぼ一緒、ただ正義の剣士か、悪の騎士かの違いだが、お互いの存在は邪魔という面で気の抜けない戦いになるだろう。
「あっちにいるのは、デュガレスっていう名の暗黒騎士よ、私は、ソニファとでも呼んでもらおうか。」
 声は後ろからした。さっきまで何もなかった空間から。よく見るとさっきまで前にいた魔女だった。
「「「とすると、私の相手は、あなたね!」
 言って私は、ソニファに向かって言う。
「少しばかり遊んであげるよ。お嬢ちゃん。」
 キィン!
 ソニファがしゃべり終えた後、直後に聞こえた金属音!
 これが戦いの幕開けだった。

 アルスとデュガレスが剣を交錯していた。
 しばらく力のこめ込い…二人とも後に飛んだ。
「なかなかやるな若いの…。」
「さっきの大口が、ホラかどうかは、その身で思い知れ!」
 二人が疾る!
 デュガレスが、剣を振り下ろす!
 アルスが、剣で受け、右側へ流す!
 そしてガラ空きの左腹へと剣を振る。
 しかし、デュガレスは、この攻撃を防ごうと剣を戻す。アルスは、その読んだが、剣を下の方へと軌道を変える。狙いは足元だったのにデュガレスは気づき、自分の剣で押さえ込むように防ぐ。
 そのままデュガレスは、アルスの刃にそって、剣をすくい上げる。
 アルスは、しゃがみ込み、この一撃をやりすごし、そして剣をのど元へ突き上げる。デュガレスは、なんとか後ろへ飛んで避ける。
 二人は、離れていた。

 私が間合いを取る。
『魔力爆発波!』
 古代語魔術の魔法で目標物に当たると爆発を引き起こすが、悲しいくらい弱い、直撃をくらった所で殺せるほどの威力はない。
 ソニファはひょいっと身をかわし、魔法を唱える。 「「氷れる底に眠る氷の覇王、我に氷雪の力をもたらさん「「
「水」系統の魔法だが、よけることはできない。
 ソニファが魔法を解き放つ。
『氷結冷凍波!』
 広範囲の冷気の魔法だが私を氷づけにする事はできないはず、あわてて詠唱を唱える。間に合うか!
 「「神にその身をあずけし我に神の衣をまとわせたまえ「「
『聖光防護帯!』
 冷気魔法が私をおおう前に、なんとか完成する。冷気の魔法はくらっていない。…冷気が収まる…助かった…。
「なかなか、やるわね。僧侶の防御魔法を使うなんてね。」
「どういたしまして。」
 私とソニファは、対峙していた。

「どうやら剣の分は、あんたにあるらしい。」
 何を余裕で言っているんだ、アルスは。
「ほう、若いの、よく分かってんじゃねえか。」
「その剣、折らさせてもらおう。」
「若いの、ハッタリのかましすぎは、いけねえぜ。」「ハッタリか、どうかは、すぐ分かるさ。」
 アルスの持つ剣が突然、光輝いた。
 その光でデュガレスが、アルスの姿を見失しなう。デュガレスが一瞬遅れて前を見た時には、すでにアルスの姿はなかった。デュガレスが上を向く、アルスの剣が、振り降ろされている。デュガレスは、受け止める。
 バキィン!
 剣の刃が、回転しながら上へ舞い上がり、地面に突きささる。折れたのは、デュガレスの剣だった。
 私は、この時、アルスの剣が、何だったか予想がついた。たぶんデュガレスも、そうだった。

「あなたが、僧侶の防御魔法っていう芸を見せてくれたから、私も芸を披露するわ。」
「芸?」
 私の背中に不安が走った。『未知なる物への恐怖』というやつである。
「分身の術。」
 確かに彼女は、そう言った。信じがたいことが、次に起こった。ソニファが二人になっていたのだ。
「あなたは、今、もう一人の私が幻術だと思ってると思うけど、そう思わないことね。」
 二人が同時に私に向かって来た。そして左右に分かれて、
「あなたにこれが、かわせるかしら。」
『氷結冷凍波』
 さっきと同じ魔法。まったさっきの魔法で防げば、いいじゃないかと思っている人が、いると思う。さっきのは、前からの攻撃に極めて有効な奴で、例を言えば、正面からの雨を傘をさして防いでいたというくらいのシロモノである。したがってこれは、防げない! 私は、『浮遊』を唱えた。ふわりと足が、地面から離れる。左右をみると二人はいない!
 すると上に「「と思った時には、背中に攻撃魔法の雨をくらっていた。

「若いのやるねえ。そんな武器を持ってるなんてさ、オレも聞いたことあるぜ、魔力を糧とし、光輝く剣となる。その名を古代神の剣!」
「へっ、ばれたか。一発で見ぬくとは、さすが暗国騎士。」
「ところで、剣を折ったくらいでいい気になるなよ。こっちにはまだ奥の手があるんだぜ…。」
「奥の手…!?」
 デュガレスは、剣を顔の横まで持って来て構えた。するとデュガレスの体が、邪気に満ちてきている。アルスも感じているだろう。何かあると…。
「はぁ!」
 デュガレスの声と共に剣から黒い波動が出る。これこそ暗国騎士の必殺技、暗国波動。自分の生命力いくらかとを引き替えにして放つ、魔性の技。ただし、この技を乱用すると、剣に生命力を吸い取られ、死ぬという。
 アルスは剣を盾がわりに構えた。剣で受け止めるつもりだった。そこまではデュガレスも考えていた。
「剣の波動って奴は一直線に来るとは限らねェぜ。」 デュガレスが言う。奴の言う通り、剣の波動は二つに分かれて、波の様に交錯しながら向かってきた。
 構えている剣をすり抜け、アルスの体に当たった。「なーいった通りだったろ!。」

 余裕な口調を発しているが、デュガレスの息は乱れていた。
 私は、動けなかった。強い脱力感のせいで…でも攻撃魔法を本当に直撃でくらったわけではなかった。  いちおう弱いながらも魔法障壁を体にまとっていたおかげで直撃だけが回避できたが、それでも魔法の冷気や熱エネルギーのダメージは、くらっている。
「これで終わりね姉さんー。」
「…やっぱり…双子だったのね…。」
 ごふっ…!
 熱い固まりが、喉の奥からこみ上げてくる。
…まずい…マジで…
「まあ、わからないとは思っていたけどね、人間が分身できるなんてそんな事は、私も聞いた事がなかったからね。」
 「姉さん、楽にしてやろう。」
 と妹が、言った時、
「一人の見習い魔道士に二人がかりとは、見かねませんね。」
「誰だ!」
「その子の先生です。」
 そこにいたのは、私の先生ガルキス・メルキトア、その人だった。

 アルスは立ち上がったがダメージは大きいようだ。ちょっと足元が定まっていない。
「離れればあんた、接近戦ならオレってとこか…。」「そのようだな…若いの…。」
「でも本気になれる相手は、はじめてだ…。」
「ふっ、私もだ…若いの…。」
 二人とも笑みを見せた。
 それは、およそこの場にそぐわない、何か満ち足りた顔だった。
「行くぜ。」
 アルスは両手で剣を握りしめ、デュガレスに向かって行った。
 デュガレスもまた剣を握りしめていた。

「何か、悪い予感がしたんで後をつけていたら、大変な事件に巻きこまれていて、一対一で負けたなら仕方ないですが、二対一とは、見かけませんので私も参加させていただきます。」
 今の先生の口上、単なる時間かせぎで、今の間に私に『回復』をかけてくれたおかげ私の身体は、ほぼ回復していた。ソニファと妹も分かっていたのだろう。「エリス、動けますね。」
「…はい…。」
「私が、あの二人を引きつけます。その間にあなたの最強の魔法の詠唱を唱えておいて下さい。私の合図と共に放って下さい。」
 先生が飛ぶ。私は重傷なふりをして立たない。さてこの作戦は、うまくいくのだろうか。

 こちらも戦いに終止符が打たれようとしていた。
 刃と刃が激しくぶつかり合い、二人はたがいにはじき飛ばされるように大きく離れた。
 この間合いではデュガレスの方に分がある。
 が「「、
 アルスのバランスが崩れる!
 さきほどのダメージが効いているのだろう。足元がおぼつかない。
 デュガレスは、これを見逃さなかった。
「はあっ!」
 暗国波動!
 体勢は、どうしようにも不十分「「。
 アルスは、足を踏んばって倒れなかった。
 波動が近くまで迫っている!
 アルスは、波動の交錯する一瞬をたたこうとしている。
 アルスの勘は、天性だった。あの揺れ動く波動の交錯する瞬間を狙って暗国波動を受け止めた。
 バシィ!
 明らかにデュガレスは動揺している。冷静さがなくなったせいか、飛びかかってきた。
 今の波動を受けたことにより、またバランスを崩すアルス。
 剣を振り下ろす。デュガレス!
 彼は、心の中で勝ちを確信した。
 その剣が、アルスの右肩を深く切り裂く「「。
 はずだった。
 剣が折られる前ならば。
 慣れた間合いで反射的にくり出した剣は、アルスの胸当ての肩の部分を傷つけたにすぎなかった。
 その瞬間のスキをついて、アルスの一撃が、デュガレスの腹を切り裂いていた。
 デュガレスは、体を大きく崩して地面に倒れた。この時、デュガレスは、死んでいた。

「我が祈りをささげる神よ「
 先生が、魔法を解き放つ
 二人とも、楽によける

「そなたに隠されし、眠れる一面「
 二人が、左右に分かれる
 先生は、防御魔法を唱え始める

「眠れる力を呼びおこせ「
 二人が詠唱を開始させる
 先生の魔法が完成

「隠れた力を開き放て「
 二人が魔法を解き放つ
 先生には、効かない
 先生は、新しい詠唱に入る

「偉大な神の力を我が前にしめせ「
 先生が詠唱を止めろ
 二人が何やら私に気づく
 しかし遅い

「エリス今です!」
 先生は、安全な場所へ移動する。
『神光激滅波!』
 私の発った光は、ソニファとその妹を包んだ。あらゆる物を消滅させる浄化エネルギーをぶつけたのだ。あの二人は、光の粒子と化し、死体すら残らないだろう…。
 終わった…。

   エピローグ
 私たちは、邪神の像を神殿に返して、私たちの仕事は、終わった。
 そして…、
「かんぱーい!」
 ジョッキに入った飲み物を一気に飲み干す。アルスと先生はお酒、私はジュースなのだが、私と同じペースで飲むなんて。
「いやぁ、先生おひさしぶりです。」
「アルス、元気にしてましたか?」
「先生、質問、先生とアルスは、どういう仲なのですか?」
「アルスは、私の教え子ですよ。」
「え!?」
「ほら、エリスが、最初先生のところに入門しようか迷っていた時に、一度見学に来たじゃん。その時にいたのが、オレってわけさ。」
「まぁ、その後、エリスと入れ違いで彼は卒業してまた旅立ったのです。そして今では聖騎士の称号も手に入れ、私も鼻が高いですよ。」
「…ってことは、アルスは、私の先輩なんだ…ふうん…。」
「ところでアルスは、これから、どこへ旅立つのですか?」
「別に行き先も、ないんですよ。」
「じゃ先輩!私たちと一緒に旅しましょ。ここで会ったのも何かの縁だし。」
「じゃ、次は、カテドラル(大聖堂)のあるタイタニア王国でも行きましょうか。」
 先生が言った行き先を、私とアルスは、頭を縦に振って賛成した。


56
戻る 進む 目次 中止