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文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業」委託事業完了にあたり

東京農工大学における「獣医師の卒後再教育」事業の活動と展望

東京農工大学 学長 小畑秀文

 

 東京農工大学では、文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業」の委託により、平成19年度から3年間「出産・育児などで休業した女性獣医師の社会復帰のための再教育支援プログラム」を実施しました。この間、側面よりご支援・ご協力くださいました方々には深く御礼申し上げます。

 全国的に獣医学科がある大学は、国公私立を合わせても16校、卒業生は毎年1,000人程度となっていますが、社会における獣医師のニーズは年々増加しており、獣医学科を有する大学の責任は益々重くなってきていると思われます。上記プログラムは獣医学科はもとより東京農工大学としても重点事業として位置づけて強力に推進してまいりました。平成21年度で本事業は終了となりましたが、その重要性を考慮し、平成22年度からは本学独自の事業「獣医師の卒後再教育プログラム」として活動を継続します。獣医師資格所有者という埋もれた知的財産の発掘と男女共同参画のために、東京都獣医師会をはじめとする関東周辺獣医師会や後援企業のご協力・ご支援をいただき、より活動を充実・発展・活発化させていきたいと考えています。関係の皆様にはこれからも変わらぬご支援・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 

獣医師への社会的要請の高まりと問題点

東京農工大学 農学府長 國見裕久

 

 近年、家畜疾病のグローバル化による口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ及びBSEの国内発生、コンパニオンアニマルとしての犬・猫の飼育頭数の増加、食の安全への関心の高まりなどにより、獣医療に対する社会的ニーズがますます増大しています。このような情勢の中、獣医師は新たな社会の要請に的確に応え、責任を果たしていかなければなりません。

 そのため、卒業後の獣医師の更なる知識・技術の向上や他分野への転職を希望する獣医師のための再教育が非常に重要と考えられます。また、出産や育児により離職した女性獣医師が社会復帰のために再教育を受ける機会や、情報を得る場が必要です。

 ここ数年、東京農工大学は臨床獣医学・公衆衛生・伝染病対策などの応用獣医学の優秀な教員を多く採用し、さらに、平成20年度には附属動物医療センター新病院も開院し、獣医師の再教育には最適な教育環境が整っております。平成19年度には文部科学省委託事業「社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業委託」に採択され、「出産育児などで休業した女性獣医師の社旗復帰のための再教育支援プログラム」を平成21年度まで松田浩珍教授を中心に実施してきました。本プログラムでは多くの成果をあげることができ、対外的にも高く評価されました。このことを踏まえて、平成22年度以降も東京農工大学は本事業を強力に推進し、農学部のプログラムとして活動を継続いたします。3年間ご支援・ご協力いただきました方々に深く御礼申し上げ、また今後も引き続き応援していただきたくお願い申し上げます。

 

「出産・育児などで休業した女性獣医師の社会復帰のための再教育支援プログラム」
プロジェクトリーダー
東京農工大学 大学院農学研究院 動物生命科学部門教授 松田浩珍

 

 平成22年3月31日、文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進事業委託」東京農工大学「出産・ 育児などで休業した女性獣医師の社会復帰のための再教育支援プログラム」は大好評のうちに完了いたしました。平成19年度からの3年間、多くの方々にご支援・ご協力いただき事業を成功に導くことができました。心より感謝いたします。

 さて、本事業では開始当初より女性獣医師への現状調査ならびに必要とされる支援・講座内容などに関する調査を実施し、事業の活動に役立ててまいりました。一方で、講演会や講座参加獣医師へのアンケート、検討委員会における調査を通し、現代の日本社会における獣医師に関する諸問題と、その解決の緊急性・重要性が明らかとなりました。
特に、出産・育児により離職し社会復帰を希望する女性獣医師の切実な声や復帰への熱意とは裏腹に、彼らの再教育に対する社会的なサポートはまったく充実しておらず、多くが復職への様々な問題や不安を抱えていることがわかりました。また、男性獣医師についても予想外に再教育希望者が多く、女性獣医師に限定しないでほしいとの要望が多方面から寄せられました。
再教育を希望する獣医師の中には、小動物臨床以外の職種(産業動物臨床、公務員ならびに製薬会社などの民間企業)からの転職希望者が散見されます。一昨年のリーマンショック以来、特に民間企業ではきびしい状況が続いており、希望退職やリストラなど就労状態が悪化していることから、免許を有する獣医師の中にはその資格を活用し、転職あるいは開業しようとする者が増加しているようです。
しかしながら、獣医師免許を生かした転職には、その分野の獣医師としてのスキルが必要不可欠で、就業してからも知識・技術の継続的な習得が責務となります。獣医師法第16条の2においてが、臨床に従事する獣医師に対して「診療を業務とする獣医師は免許取得後も臨床研修を行うよう努める。」と規定されておりますが、このようなニーズに対応ができる研修施設は非常に不足しており、的確な卒後再教育が行われていないのが現実です。
国立大学にとっては、国民からの負託にこたえるべく社会に送り出した優秀な人材が、数年を経て社会的で苦戦している現状を憂慮し、早急に対策を講じる必要があると考えます。

 東京農工大学では、学長および農学府長を始め多くの関係者がこの現実を深く理解し、大学全体の強力な支援体制のもと、平成22年度以降は大学独自の事業「獣医師の卒後再教育プログラム アドバンスイン農工大!」として、以下の目標に向かい活動を継続していくことが決定しております。

  • 様々な理由で離職した獣医師や、獣医師資格を持ちながらもそれを有効に行使できていない獣医師のために、“即戦力”となるスキルを身につける、実習中心の再教育プログラムを充実させ、社会復帰・再就職・独立を支援する。
  • 獣医師は社会において責任のある立場にあり、専門知識以外にも、指導者としての人格・コミュニケーション能力などが必要とされる。「獣医師の卒後再教育プログラム」では、専門分野のスキルアップと同時に、人格形成・コミュニケーション能力育成にも力を注ぎ、社会性の高い獣医師を輩出することを目指す。食の安全への疑念、産業動物の感染症、空前のペットブームの中で発生している様々な問題に対し、解決に貢献できる人材を育成する。
  • 男女共同参画の理念に基づき、獣医師の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を重視、長期的視野に立ったライフプランニング支援を構築する。男女問わず多くの『卒後再教育』希望者がプログラムに参加できるよう工夫し、講座を通じて個々の意識を高めると同時に獣医師社会全体への啓発ができるような人材を育成する。獣医師資格を有する獣医師が、男女を問わず、職を通して社会とのつながりを維持しながら、安心して子育てのできる社会環境の整備を目指す。

 東京農工大学「獣医師の卒後再教育プログラム」は、事業委託3年間の支援を決して無駄にすることなく、その経験と蓄積を活かし、今後も多くの優秀な獣医師を輩出することで、日本社会の期待に応えるべく努力してまいります。今後も多くの方々にご支援・ご協力をお願いいたしたく、文部科学省事業委託完了のお礼に加えて、東京農工大学「獣医師の卒後再教育プログラム アドバンスイン農工大!」開始のご案内をさせていただきます。

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