研究紹介
研究の全体像
再生可能エネルギー大量導入時の需給運用における課題
電気は電気エネルギーの形で大量に蓄えることが難しく、常に消費する電力(需要)と同じだけを発電(供給)しています。需要は1日の中でも変動しますが、それに合わせて出力調整や起動停止が容易な火力発電機を用いて需給を一致させています。また短周期の需要変動に対しても、火力発電機によって調整されています。火力発電機は需給バランスを保つ上で非常に重要な役割を果たしています(図1左上) 。
太陽光発電や風力発電は、季節や時刻による規則的な変動に加えて、天候変化の影響を受けて不規則に出力が変動するため、大量導入が進むと、これまでの需要の変動より大きな変動が生じ、大きな調整力が必要になります。一方で、電力システムが担うべき需要曲線は赤色から青色の線に変わり、火力発電機の運転台数が減少することによって需給バランスの調整力は減少していきます(図1右上)。
分散エネルギーマネジメントによる需要能動化
現在は需要の変動に対して、集中エネルギーマネジメントシステム(EMS)によって調整することで安定的な運用が行われていますが、将来は、増加する必要調整力に対して、蓄電池の導入などによって需給調整力を増強することが必要になります。住宅や事務所ビル、工場などの需要機器の運転制御や分散型再エネ発電自身の発電量制御によって追加的な調整力を確保できれば、高価な蓄電池の導入量を減らすことができ、社会コストを低減できると考えています。
住宅・事務所・工場などにおける分散EMSによる局所的な最適化と、系統運用会社が行う集中EMSによる地域全体の最適化が協調して需給バランス制御を行うシステムを想定しています。
エネルギーシステムのモデリング・シミュレーション技術
池上研究室では、5つの研究グループ(G)に分かれて、システム解析の手法を駆使して様々な規模のエネルギーシステムをモデル化し、シミュレーションによってエネルギーシステムの設計や技術・仕組みの導入効果の評価を行っています。
分散EMSの電力システムへの貢献を定量的に評価する必要があるため、既存の発電所の設備データを用い、集中EMSによる発電所の運用をシミュレーションするための電力システムモデルを構築しています。これにより、電力システム全体での年間の燃料費やCO2排出量が算出されます。
分散EMSについては、地域のエネルギーシステムや個々の住宅、電気自動車、風力発電など様々な需要側設備についてモデルを構築し、エネルギー利用機器や電気料金・アグリゲータ等の制度・仕組みの導入効果の評価や、不確実な予測に対するロバストな運転計画・運用制御手法の開発を行っています。
研究グループ
電力システム研究G
全国の発電所の設備データを用い、火力発電機等の運転を模擬する起動停止計画モデルを用いて、将来シナリオに基づいた電力需給解析を行い、課題の定量化や対策の評価を行っています。
- ・地域間連系線を考慮した全国の電力システムの需給解析モデル
- ・地域間連系線や蓄電池の活用による再エネ導入促進効果の評価
分散EMS研究G
需要家機器の最適運転計画モデルや需要家アグリゲータのモデルを用い、分散EMSのポテンシャルやその価値を定量的に評価する研究を行っています。
- ・家庭用ヒートポンプ給湯機・蓄電池の最適運転計画モデル
- ・電気自動車の充電促進ポテンシャルの評価
分散EMS研究G
衛星画像を基にした日射量の面的データを用いて、あらゆる地点における太陽エネルギー利用効果の評価や、日本全体での利用ポテンシャルの評価を行っています。
- ・衛星日射量データを用いた太陽熱給湯システムの評価
- ・太陽熱利用機器の技術的・経済的ポテンシャルの評価
風力エネルギー研究G
全国の風力発電所の発電出力データを基に、将来の出力変動量推計に向けた平滑化効果や、風車の出力制御による需給調整効果を定量的に評価しています。
- ・変動周期に応じた平滑化効果の定量的評価
- ・将来の風力発電出力変動量を模擬した電力需給解析
地域エネルギーシステム研究G
地域エネルギー需給モデルを用い、外部要因の変化に対してロバスト性のある設備計画手法や、予測の不確実性に対応した機器の運転計画手法の検討を行っています。
- ・地域エネルギーシステム最適設備計画モデル
- ・予測の不確実性に対応した運転計画・運用手法