2026-04-10-12 SPring-8実験
香取研の横島君と崎向君とSPring-8で放射光X線回折実験を行いました。
私たちの研究室は、量子磁性・超伝導・強相関電子物性といった最前線の機能を生み出す「未来材料」を、熱力学的な最安定相(平衡相)ではなく、速度論によって長寿命化する準安定相に狙いを定めて創製しています。近年、マテリアル・インフォマティクスの進展により、第一原理計算や機械学習を用いて「どの温度・組成でどの相が熱力学的に安定か」を事前に予測し、合成指針とする流れが一般化しつつあります。しかし、エネルギー凸包(convex hull)近傍には、最安定相との差がわずか数 kJ mol⁻¹程度の多型や競合相が数多く潜み、これらは速度論的障壁により“準安定相”として実現・保持され得ます。準安定相は、平衡相では解消されてしまう局所歪みや特異な配位環境、非自明な電子状態を凍結できるため、格子対称性・バンド構造・相互作用の様式が安定相とは本質的に異なり、量子磁性、超巨大保磁力、非従来超伝導などの想定外の量子機能が発現する「未知物性の宝庫」です。
この未踏領域を切り拓くために、私たちは低温プロセスを中核とした“反応設計”に挑戦しています。固相メタセシス反応、トポケミカル反応、水熱反応、メカノケミカル反応など、非平衡条件下で反応経路と拡散・転位を精密に制御できる合成手法を駆使し、温度・圧力・組成に加えて、副生成物の除去や化学ポテンシャルの調整といった反応場そのものを設計します。これにより、エネルギー地形に存在する浅い局所極小へ結晶を“凍結”させ、熱力学の支配する平衡相では到達できない構造を選択的に実現する新しい合成学の確立を目指します。
有機合成が多段階反応を通じて複雑分子を設計するように、私たちは無機固体において、数百万個の原子配置を反応経路から設計する「結晶合成の新しいパラダイム」を構築します。準安定相という非平衡のフロンティアを、計算と実験の統合によって系統的に探索し、物質科学の未踏領域を切り拓くことが本研究の学術的価値であり、同時に次世代の量子機能材料創製へ直結する基盤になると考えています。
副生成物の化学ポテンシャルを制御し、未知の準安定相新物質を設計・合成
イオン交換により既存物質を変換し、新たな量子磁性体や超伝導体を自在に創出
天然鉱物の結晶構造を利用し、スピン液体やスキルミオン相など未踏量子磁性を開拓
合成・雰囲気制御・構造解析・熱分析・計算まで、準安定相探索に必要な装置群を整備しています。
化学量論を正確に決めるための秤量装置です。
微小な誤差が相純度や再現性に直結します。
原料を均一に混合・粉砕する基本ツールです。
瑪瑙製はコンタミを抑えやすく、初期条件のばらつきを減らします。
混合・粉砕を自動化し、作業者差を減らします。
均一性と再現性の向上に有効です。
粉末をペレット化して固相反応を進めやすくします。
接触面積と拡散距離が反応速度を左右する系で有効です。
低酸素・低水分環境で試料を取り扱う装置です。
空気不安定な系の合成・保存に必須です。
石英カプセル封入などを真空・制御雰囲気で行います。
揮発成分や酸化を抑えた合成に使います。
溶媒の濃縮・除去を効率よく行います。
溶液プロセスや洗浄工程の再現性に効きます。
固相反応の標準装置。温度履歴で生成相を制御します。
焼成・アニール条件の反復探索に使用します。
安定した温度場で焼成・アニールを行います。
相純度と結晶性の改善に使います。
日常的な焼成・熱処理に使用します。
条件出しの反復を高速化します。
雰囲気や温度プロファイルを工夫しやすい管状炉です。
目的に応じた反応場の設計に使います。
温度勾配を作り、CVTなどの単結晶育成に使います。
結晶品質の向上に直結します。
高温焼成が可能で、難反応系にも対応します。
高温相・高融点系の探索に使います。
1450℃までの高温域で焼成・アニールに使います。
高温相・固溶体形成の探索に有効です。
熱水中で結晶化を進め、固相法では得にくい相を探索します。
天然鉱物類似の反応場を実験室で再現します。
均一な温度場で加熱し、反応の再現性を支えます。
水熱反応や溶媒系の前処理に使用します。
高温下で攪拌し、濃度勾配や成長条件を制御します。
粒径・結晶品質の調整に使います。
結晶とフラックス(溶媒)を分離し、回収を効率化します。
単結晶回収の効率と品質保持に有効です。
機械的エネルギーで粉砕・反応を進めます。
メカノケミストリーや準安定相探索に使います。
相同定・結晶性評価の中核装置です。
合成条件の意思決定を高速化します。
空気不安定試料を不活性雰囲気でXRD測定します。
変質を避けて正しい構造情報を得ます。
相転移や反応の熱効果を測定します。
生成熱発生観測や相安定性の議論に使います。
重量変化と熱効果を同時に追跡します。
分解・脱離・酸化還元の解析に使います。
第一原理計算で安定性・反応・電子状態を評価します。
合成結果の解釈と次候補設計に直結します。
香取研の横島君と崎向君とSPring-8で放射光X線回折実験を行いました。
東京大学物性研究所で特任研究員として研究に従事していた当時、ご指導を賜った廣井善二先生の退職記念講演に参加しました。