講義で使用したスライドのpdf(カラー)をこちらからご覧いただけます。
小テスト回答のヒントは、平成15年度の「質問に対する回答など」をご覧下さい。
質問に対する回答など
10月 6日クラス
質問と回答
スライドで示された病害虫による減収のデータは無防除の場合のことか?
出典のLucas 1998に詳細は書かれていませんが、通常の防除を行った上でのデータだと思われます。通常は無防除での栽培は行われていませんので、データの取り様が無いと考えられます。日本では農林水産省が、農薬を全く使用しなかったらどの程度減収になるか、特別に試験を行った結果を示しており、イネで50%程度、リンゴで90%程度の減収になるようです。
雑草による収量の減少はどのような要因によるのか?
この講義の内容とは直接関係ありませんが、栄養分、日光などの競合、時にアレロパシーによる生育量低下が主要な要因で、加えて、生産物への雑草組織や種子の混入が問題となる様です。
「理想の収量」、「達成可能な収量」、「経済的な収量」、「現実の収量」等を表した図で「経済的に達成可能な収量」はどうしたらあげることができるのか?
「経済的に達成可能な収量」は、病害防除を考えた場合には、「病害防除にかかる費用」よりも「その結果の増収」が大きくなることが必要になります。従って「経済的に達成可能な収量」は、例えば、単に殺菌剤を生産する技術が向上して殺菌剤が安価になること、効率的に病害を防除できる手法が開発され殺菌剤散布回数が減少する、など防除技術の進歩によって、より「達成可能な収量」に近づけることが可能です。もちろん、IPMもその一つの手段ですが、労働力も費用に換算しなくてはならないことに注意が必要です。
市場病害用殺菌剤(ポストハーベスト殺菌剤)はなぜ日本ではないのか?
法制度上、収穫後の産物が農薬の対象外であるためです。我が国の農薬取締法では、収穫前のみを処理対象にしています。従って、収穫前日の処理が登録・許可されている殺菌剤はあります。収穫後の農産物は「食品」として扱われるため、以降に処理する場合は食品添加物としての登録・許可が必要になります。農薬取締法に基づいて使用された農薬については生産物に表示する義務はありませんが、食品添加物の場合には表示義務がある様です。このような区別は、食品の安全性を一括管理するためにはあまり意味がありませんので、今後変化する可能性があります。特に、収穫後病害の生物防除(乳酸菌や枯草菌など)の可能性が高まれば、検討していかなくてはならない課題になりそうです。
ポストハーベスト病害の防ぎ方は?
講義の終盤でご紹介予定ですが、概ねポストハーベスト病害は、圃場から潜在的に感染している病原が宿主植物の生理的変化(成熟等)によって顕在化(病気を起こす)することによっておきます。従って、原則的には、病原が潜在感染あるいは付着していない生産物をつくることが重要です。
線虫類は病原として扱うのか?
線虫類は微細であるため、過去には菌類などとまとめて微生物として理解される場合もありました。そのため、線虫による被害を線虫病と呼び、線虫を病原として扱う(多くの植物病理学の教科書)もあります。この講義でも線虫を病原として扱います。しかし、線虫に関する研究成果の発表は、現在では、植物病理学会だけでなく、応用動物昆虫学会や線虫学会でも行われるようになっています。
「歴史に残る植物病害」で、自然生態系においても病害が発生する旨の紹介があったがなぜか?
人間の活動とともに、それまでは存在しなかった病原が侵入、宿主植物を枯死させ、生態上、景観上の被害を及ぼした例があります。このようなものは、農業環境ではなくとも、人間にとって不都合なので病害と呼ばれます。詳しくは、「チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話」をお読みください。
アメリカで過去に発生したかんきつ類かいよう病では全ての樹を抜いて焼くという処置をしたようだが、農家にダメージを与えなかったのか?
もちろん与えたはずです。ただし、一時的なダメージを防ぐために病原の撲滅に失敗していれば、病原に感受性のアメリカのオレンジは壊滅した可能性もありますので、長期的視点から全ての樹を抜いて焼き、かいよう病を撲滅したのは素晴らしい判断だったと考えられています。植物の農産物としての重要性、病害の激しさ等に応じて対応しなくてはならない問題ですね。
テレビや新聞でご覧になっているかもしれませんが、近年、東大のグループがプラムポックスウイルスを我が国で確認しました。従来我が国では見いだされていなかった注意を有する病原ウイルスであり、海外から侵入した物と考えられ、ウメ、スモモ等に被害を及ぼす可能性があります。このウイルスは、1915年にブルガリアで初めて報告された後、拡大を続け、米国では1999年にペンシルバニア州で確認され、根絶事業を進めているが、なおもニューヨーク州等で発生が報告されています。東大等はこのウイルスの簡易検出キットの開発に成功、現在は植物防疫所等が調査を行い、処分(切り倒し、保証するようです)を行います。http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/keneki/090408.html などをご参考になさって下さい。
トマト萎凋病やハクサイ根こぶ病、黄化病などは一気に広がるものなのか、また出始めてから拡大を防ぐ手段はないのか?
このような土壌病害は土壌中に病原が潜んでおり、土壌中で生育して、水によって運ばれて、あるいは根と根の接触で拡大していくと言われています。植物が植わった土壌に処理する殺菌剤はほとんど存在しないため、発病が始まってしまうとなかなか対処できないのが現状です。従って、土壌病害対策は栽培前にとるのが一般的です。昨年の10月7日分の講義のご質問に対する回答もご参照ください。その他、土壌病害に関するご質問を複数いただきましたが、各論でご説明する予定です。
なぜ動物の病原には細菌が多いのに対して植物の病原には菌類が多いのか?
まず、「動物の病原には細菌が多いのに対して植物の病原には菌類が多い」というのはかなり大まかな理解であることをご理解ください。科学的には基準が設定しにくい課題であり、理由の解析もされていません。
「The Disease Triangle」で、具体的にどのような条件で発病がすすむのか?
「The Disease Triangle」が、「宿主植物要因(感受性か抵抗性か等)」、「病原要因(病原性か非病原性か等)」、「環境要因(病原を運ぶベクターが存在するか、発病に好適な条件か等)」の3つの関係で発病するかしないか、あるいは発病程度が決まってくる、という概念的な理解をしていただきたいと考えています。従って、それぞれの病原と宿主植物の関係において、環境要因などは変化します。講義の各論ではそれらの関係を踏まえてご説明する予定です。
植物の「品種」とはどのようなものか?「品種」内では病気に対する感受性・抵抗性には個体差はないのか?
農学における「品種」は「栽培品種 cv.」と呼ばれるもので、イネであれば「コシヒカリ」、リンゴでは「ふじ」、トマトでは「桃太郎」等が(栽培)品種です。品種は固定されているもの(例えばコシヒカリ)や、毎回交配で作られるもの(例えば桃太郎)がありますが、品種内では遺伝的背景は同一で、基本的に病気に対する抵抗性(真正抵抗性)や感受性についての個体差はありません。ただし、生育環境(栽培条件)によって、圃場抵抗性と呼ばれるような差が生じることがあります(個体差)が、真正抵抗性ほど明確で効果があるものではありません。
(化学)農薬についてどう考えたら良いのか?
この講義では、化学農薬の安全性や使用の是非について議論する予定はありません。化学農薬、生物農薬等についてのご紹介は講義の終盤でいたしますので、科学的に理解し、ご自身で考察してみてください。
10月13日クラス
質問と回答
病原によってベクターは異なるのか?
10/20の講義でご紹介する予定です。
「病徴」と「標徴」の違いは?
同じご質問を複数いただきました。説明不足だったようで申し訳ありません。‘標徴’は、「‘病徴’のうち、病原が直接見えているもの」を言います。
「宿主」と「寄主」は同じ意味か?
同じ意味であるとお考えください。
宿主植物の匂いの変化も病徴なのか?
微生物によって生育障害と直結した匂いの変化があった場合は病徴と呼んで差し支えないでしょう。難腐病識別として腐敗臭を使用する場合、腥(なまぐさ)黒穂病に罹病したコムギは少し離れていても匂いを感じる等が良い例です。
「病徴の記載」、「病原の性状の記載」とはどういう意味か?
「病徴の記載」とは、病徴を図・写真・文字等で記録しておくこと、「病原の性状の記載」とは、植物体上や培地上の性状、顕微鏡的性状等を図・写真・文字等で記録しておくことを意味します。分子生物学的手法が進歩した現在では、病原の遺伝子の塩基配列等も正常として記録されることがあります。
「植物の生育ステージと病気の影響」の図は何を意味しているのか?
植物のあらゆるステージで様々な病徴を示す病気が起き、その結果植物に各種生理的異常を及ぼしていることを示しています。
「共生微生物」は培地上で分離できないのか?
共生微生物の中には培地上で分離可能なもの、分離困難なもの、分離不可能なものがいると考えられています。ただし、「絶対寄生者」等の説明の図中の「共生(者)」は、「植物の組織内等のみで生きていて植物に悪影響(=病気)を起こさない」ものを意味し、基本的に分離不可能であるという前提でご紹介しました。
コッホの原則をそのまま用いて病原の証明が可能な微生物は全体のごくわずかなのでは?また、このような病原はいわゆる「条件的寄生者」なのでは?
その通りだと思います。微生物のうち、分離可能なものはごくわずかであるといわれているように、コッホの原則も分離可能な微生物を前提としていますので、全体のごくわずかな病原にしかコッホの原則はそのままでは適用できないのです。しかも、容易に分離できる微生物でないと簡単にはコッホの原則にはあてはまりませんので、条件的寄生者はコッホの原則向きの病原です。なお、現在でもコッホの原則(バイオアッセイ)は新病害の同定等における重要かつ基本的な手段であり、培地で容易に分離できない絶対寄生菌やウイルスでも、健全な植物や検定植物を培地に見立てて病原を増殖、接種に用いています。
絶対寄生者はどうやって生存、感染するのか?
絶対寄生者は腐生生活を送ることができませんので、生きた植物体上で増えて伝染をつづけるか、休眠して新たな宿主が栽培されるのを待ちます。
コッホの原則で使用する健康な植物はどうやって準備するのか?
種子消毒(殺菌剤、温湯等)、茎頂培養、土壌消毒、隔離施設での栽培等によって健康な植物を準備します。
コッホの原則で病原であることがわかると、どのような役に立つのか?
病原によって防除技術が異なりますので、病原を同定することによって的確に病害を防除することにつながります。また、栽培方法の変化、新たな植物や品種の導入、種苗の世界的移動などによって、新たな病害も次々発生しますので、その病原の同定に有効です。
病害虫のついた植物は検疫で100%識別できるのか?
肉眼だけですと見逃す場合がありますので、検疫では、植物や想定される付随病原の重要度に応じて血清学的な方法、PCR等でも識別を試みています。なお、検疫も100%の病原等を見つけられるとは限りません(特にサンプリング調査の場合は)が、検疫を通らずに持ち込まれてしまう様な(違法の)ケースが最も恐ろしいと言えます。
レースとは何か?
分類学的には、種の下位の分類群にあたります。変種、品種などよりも細かい分類群です。たとえば、トマト萎凋病菌の中には、桃太郎を侵せるレース2と侵せないレース1が存在します。また、「スーパーレース」とは何か?との質問もいただきました。存在するあらゆる抵抗性を打破できるレースをスーパーレースと呼びます。
10月20日クラス
質問と回答
絶対寄生性病原による病気の場合、症状は出ているのに病原がわからないということはないのか?
あります。特に昔はそのような病気が多く、解決に時間がかかりました。ファイトプラズマによる病気がそのよい例で、細菌についてご紹介するなかでその経緯などをご紹介する予定です。
「風媒」というのは、病原が風にのって運ばれることか?
そのとおりです。担子菌の各論でご紹介しますが、さび病菌の中には胞子が数千キロも風に乗って運ばれるものが言われています。肉眼で見えないので気付きにくいですが、菌の胞子は大量に空気中に漂っており、風によって移動するといわれています。中国からの黄砂とともに病原菌も運ばれてきているそうです。
Ainsworth 1973の分類体系で菌に入っていたものの一部が移行した「クロミスタ」、「変型菌」とはどんな分類群か?
クロミスタは、真核生物の1つの界とされ、単細胞の藻類を主な構成員とする分類群です。もともと菌だったもの以外に、葉緑体をもつもの等も含まれます。また、鞭毛を有する細胞(遊走子)を形成するのも特徴です。しかし、クロミスタもまだ流動的な分類群であり、今後変動する可能性があります。変型菌は、粘菌や根こぶ病菌などAinsworthによると菌類とされていたものが、現在では原生動物のアメーバのなかまであろうと理解されているグループです。
分子系統解析・分子系統分類について詳しく知りたい
1つの講義科目が成り立つ位の大きなテーマです。関連する本がたくさん出ています。昨年の講義の「質問と回答」でいくつか本をご紹介しています。また、分子系統解析に関する簡単な説明もありますので参考にしてください。
形態分類で同じ分類群に入っていた菌が系統分類で異なる分類群とされたものはあるのか?
形態に基づく分類は概ね系統による分類と矛盾しないといわれています。ただし、ご質問のような例として、担子菌に属する白絹病菌と子嚢菌に属する黒腐病菌が、分生子を作らず菌核を形成するという形態の特徴に基づいて、同一の不完全世代の属(Sclerotium)に入れられていた例などがあります。
菌が2つの学名をもつのはなぜか?
完全世代(有性生殖後に形成される器官など)に基づく名前と、不完全世代(無性増殖を繰り返している菌糸や分生子)に基づく名前を持っているものがあるからです。(分生子などの菌の器官の名称は次回の講義で紹介します。)完全世代を持たない、あるいは完全世代が見つかっていない、いわゆるAinsworth 1973では不完全菌とされた菌は、不完全世代に基づく学名しか持ちません。なお、菌の学名は、「植物命名規約」に従って二名法(属名+種小名(=形容詞名))で表します。
植物病原では系統分類よりも形態に基づく分類の方が適当であるということはないのか?
面白いご質問です。植物病原の分類は、現場での病気あるいは病原の診断、さらにそれに基づいた対処法選択に利用できなくてはなりません。従って、生物学的には、分類体系が系統を反映していることがこのましいのですが、それが現場で利用できない分類体系であればこの場合意味がないことになります。形態に基づく分類は、比較的診断に使用しやすい(観察すればよい)ことから、現在でも普遍的に使用されています。さらに、植物病原の場合は、病気を起こすか否かが重要ですから、病原性に基づく分類もよく利用されます(例えは、F. oxysporumの下位の分化型)。
腥黒穂病菌の臭いは病原菌が発するのか?
菌はよく臭いを発します。皆さんがよくご存じの「きのこ臭」、「かび臭」、「酵母臭」と呼ばれるものもその例です。日本酒等で楽しまれる香りも菌が生産したアルコール類、アルデヒド類の混合香が主な成分のようです。ただし、第2回目の講義でご紹介した軟腐病細菌による腐敗臭は、宿主植物がペクチン分解酵素によって分解された際の臭いと病原細菌の臭いが混合したものと理解されています。
ヘテロカリオシス(異核共存)は有利なように思われるがなぜ一般の生物ではなかなか見られないのか?
生物にとって1細胞内に2つ以上の核を有することはあまり一般的ではないようです。核の機能の制御、器官を形成する際の異なる遺伝情報の制御、分裂あるいは配偶子を作る際にどうするか、など実際には様々な問題があるのだろうと思われています。菌は、通常半数体で、顕著な器官形成をせず、有性生殖せずとも増殖することができる、など特異な性状を持っているため、ヘテロカリオンを長い間維持できるのかもしれません。
馬場のそばのクワの葉の表に、粉をふく斑点がたくさん見られるが、病気か?
葉の裏側ではないでしょうか?裏にこの季節だと、黄色から暗褐色の小粒がたくさん形成されます。クワ裏うどんこ病菌の閉子嚢殻です。ふいている’粉’は、うどんこ病菌の菌糸と分生子でしょう。
10月27日クラス
質問と回答
セクターについて詳しく知りたい
菌を培地上で培養している時に、その一部で扇形に形態などの変化が見られる場合、セクターと呼びます。セクターは、異核共存体(ヘテロカリオン)の場合は機能する核が変わること、あるいは後述しますが遺伝子の突然変異などが起きることによって生じます。もちろん、セクターとして目に見えなくてもこのようなことが起こっている場合があります。異なる核がどのように機能を制御されるのか、などについては十分な情報がありません。
かすがい連結は普遍的なものなのか?
担子菌では、普遍的と考えてよいと思います。異核共存状態の細胞(ヘテロカリオン)が分裂する際に、異なる核を同調的に分裂させて母細胞および嬢細胞に分配するのが困難であることから、嬢細胞にあたる場所で1つの核を分裂しておき、そのうちの一つをかすがい連結を通じて母細胞に移行するとされています。子嚢菌でもヘテロカリオンが存在しますが、かすがい連結は形成しませんので、興味深いです。
分生子柄はひとつの細胞か?
菌によって異なります。分生子柄上に隔壁を有する(=複数の細胞からなる)ものもあります。さらに、分生子柄上で、分枝したり、球嚢を形成したりするものがあり、多様です。
菌核は耐久器官とのことだが、どのように発芽するのか?
菌核は、菌糸伸長が進み成熟してくると形成される場合がある、菌糸が絡まりあってできる耐久器官です。表面がメラニン化して堅い場合が多いようです。白絹病菌、菌核病菌、灰色かび病菌、半身萎凋病菌で形成が見られます。菌核は条件(温度や水分等)が整うと菌糸を伸長し(菌糸発芽)そこから増殖する場合、あるいは、菌核病菌や灰色かび病菌では条件(温度や水分等)が整うとともに精子(不動精子あるいは小精子)を受容して、完全世代である子嚢盤を直接発芽し、その上に子嚢胞子を形成する場合があります。
菌のプロトプラストフュージョンは可能か?
実験例があり、たとえば、Aという植物に病原性の菌株と、Bに病原性の菌株のフューザントを形成し、AにもBにも病原性になったとのことですが、その後、いずれかの核が脱落して片方の病原性を失ったようです。
「きのこ」は無性生殖で大きくなるのか?
「きのこ」は基本的には菌糸が束状になってかたちを作っているものですが、その上には有性生殖の結果形成される担子胞子や子嚢胞子が形成されます。すなわち、「きのこ」は、菌の有性生殖の結果形成される子実体(植物でいえば果実のようなもの)に相当します。「きのこ」の形成は、有性生殖挙動にともなって制御されますので、無性生殖で大きくなるとは言えません。
菌の交配条件(例えば交配しない菌を交配させようとする場合)はどのように解析するのか?
残念ながらなかなか科学的に推測できないのが現状です。ただ、菌の生活環を知ることで、条件を想定することは可能ですが、通常、考えられる、あるいは他の菌で報告されている条件を片っ端から試してみるしかありません。菌の交配メカニズムがさらに明らかになれば、逆に交配に関連する遺伝子の発現する条件を探すなどで解析することができるようになるかもしれません。なお、知られている菌の交配条件は概ね貧栄養条件ですが、植物病原菌の場合は、植物の1年の終わりを知らせるような物質が関与しているように考えられる場合もあります。
菌はなぜn+nの状態を長期間維持するのか?(2nにしてしまえば良いのに)
私の知る限りではこの理由はわかっていません。ご質問では2nであることが当たり前(前提)で、どうして2nにしないでn+nにしておくのだろうという疑問を持たれたように思いますが、動物や植物と異なり、菌ではnのほうが当たり前の様です。従って、遺伝子の優性、劣性もありません。
動物には無性生殖はないのか?
アリマキなど昆虫などで見られるいわゆる単為生殖が相当します。この場合、未受精卵が発達して個体になりますので、半数体の個体が生じていることになります。菌類と似ています。ちなみに私見ですが、数を増やしたい時(環境適応ができている時)には、遺伝的に同一の後代を繰り返し形成可能な無性生殖が有利であると考えられます。
交配しない菌は交配をせずにどのようにして多様性を保つ(生む)のか?
塩基の置換、脱落、トランスポゾンの挿入等による遺伝子の突然変異が多様性の大元になります。しかしこれは交配しない菌だけでなく、交配をする菌でも同様です。交配は、この生じた変異に基づく多様性を広げる手段、あるいは、組み合わせて新たな多様性を生じる手段の一つです。交配しない菌はこの手段を持たないだけ不利と考えられていますが、それを補完する擬有性生殖によって多様性を維持しているとも考えられています。
菌にもトランスポゾンは存在するのか?
たくさんの報告があります。「菌を培養した時に形成されるセクターにトランスポゾンの関与はあるのか?」というご質問もありました。遺伝子の突然変異によってもセクターは形成され得ますので、もちろんあり得るはずですが、事例を知りません。
植物とその上の病原菌の間で遺伝子のやり取りはできるのか?
とても興味深いご質問で、研究者も注目していますが、実証されていません。植物→病原菌、あるいは植物上で同じ植物を宿主とする病原菌→病原菌の間で遺伝子のやり取りをすること(遺伝子の水平移動)で、多様性を生じているのではないか、とういうのは一つの仮説です。いくらか、そのような(場合によっては遺伝子ではなく、染色体ごと)可能性を示唆するデータも報告されてきていますので、今後新たな発見があるかもしれません。
偽有性生殖の過程で出現する2n-1のような異常な染色体の組合せを有する細胞は生きていけるのか?
生きて行けないものもあるのであろうと思われます。しかし、菌の場合、胞子や菌糸などで多数の細胞(この場合、「個体」とほぼ同義)をつくりますので、生き延びたものが低頻度ながら出現する、というのが偽有性生殖が成立する条件であると考えられています。
菌の染色体を電気泳動すると多くのバンドが見られるのか?
染色体を電気泳動で分離する方法に、パルスフィールド電気泳動という方法があります。これで菌の染色体を分離すると、例えばFusarium oxysporumでは10本程度の染色体が見られます。程度と書いたのは、動植物と異なり、菌株ごとにその数や大きさに違いがある場合が多いためです。これもとても不思議な現象です。
11月10日クラス
質問と回答
病原菌の生活環は宿主植物に応じて多様であるようだが、これは植物と病原の共進化の結果なのか?
私はそう思っていますので、そのように伝わったのであろうと思います。なかなか証明は困難な仮説です。
根こぶ病菌休眠胞子の発芽誘導物質は何か?
植物(特にアブラナ科)根部からの浸出液や土壌浸出液が発芽を誘導する旨の報告はありますが、物質の特定はまだだと思います。類似の現象は線虫のシストの発芽で見られます(後日紹介します;こちらは物質が特定されている例があります)
根こぶ病に罹ったアブラナ科根部で蓄積されるオーキシンは植物由来か、根こぶ病菌由来か?
明確な報告は見たことがありませんが、植物由来であると考えられています。オーキシンの働きで細胞や組織が肥大し、根こぶ病菌が大量の休眠胞子を形成できるようになるといわれています。
根こぶが軟腐し易く、その結果休眠胞子を放出するとのことだが、根こぶ病菌は軟腐病菌を伝搬するのか?
根こぶは通常の根に比べて肥大していて柔らかいせいか、あるいは肥大した際に裂け目等ができやすいせいか、軟腐病菌によって腐敗しやすいようです。根こぶ病菌が軟腐病菌を伝搬するという報告は見たことがありません。
ハクサイ根こぶ病用の殺菌剤フルスルファミドの作用機作は何か?
薬剤が効果を発揮するメカニズムを作用機作と呼びます(後日解説します)。フルスルファミドは根こぶ病菌の休眠胞子の発芽を阻害することが報告されています。
Pythiumは水で伝搬しやすいとのことだが、イネでどんな病害が生じるのか?
Pythiumは水かびと呼ばれるように水の多い環境を好むようにみえます。ただし、湛水の水田で発生するイネのPythium病はありません。不思議ですね。イネでは、苗箱で発生する苗立枯病が有名です。
蔵卵器、蔵精器とは何か?
卵菌類等の有性生殖時に、それぞれ雌器官、雄器官として機能する器官を言います。
疫病菌の標徴はどんなものか?
疫病に感染したジャガイモやトマトの葉は黒変、壊死(えし)、腐敗等の病徴を示します。場合(非常に湿度が高い等)によって、表面に白色の菌糸が見られる場合がありこれが標徴ですが、標徴が見られることは少ないようです。br>
疫病菌の遊走子嚢の直接発芽や遊走子形成はどのように制御されているのか?
複数ご質問をいただきました。昨年も同様なご質問をいただき、調べてみたのですが、情報が見つかりませんでした。興味深いのですが、、、
べと病菌の遊走子嚢柄は葉の気孔から出ているのか?
組織内では菌糸を伸長し、葉裏面の気孔から遊走子嚢柄を形成し、遊走子を放出して伝染が拡大していくのが特徴です。
ウイルス病ではモザイク症状が必ず現れるのか?
ウイルス病ではモザイク症状が生じる場合が多いですが、これは植物の栄養分をウイルスが増殖するのに収奪するためといわれています。ただし、ウイルス病の症状はモザイク以外にも多様なものがあります。詳しくは病原ウイルスの各論でご紹介します。
植物はずいぶん多くの病気の脅威にさらされているのだなと感じた。
その通りですね。特に、ヒトが作り上げた耕地生態系では脅威だと感じます。病気を防ぐのも難しいです。(我々人でも同じですが、、)
11月17日クラス
質問と回答
接合菌で見られる仮根の役割は何か?
クモノスカビ Rhizopusなどが、基質に固着するためにつくる根状の器官を仮根と呼びます。固着するためと考えられますが、栄養分の吸収にも使用しているかもしれません(文献見当たらず)。また、「接合菌で産業的に使われているものは植物病原性か?」、とのご質問がありましたが、子嚢菌の麹菌と同様に、産業用(食品発酵、酵素生産等)専用に維持されている菌株が主に使用されています。
接合菌の菌糸はどのようにして出会うのか?
偶然出会うのか、フェロモンの様な物を出して引き合うのか、というご質問だと思います。子嚢菌等ではフェロモンの存在、受精毛が胞子等を捕まえに行く現象が見られています(昆虫程離れた距離ではありませんが)が、接合菌では知識がありません。調べてみます。
さび病菌が複数の種類の胞子を作るのは何故か?
各胞子の機能と菌あるいは宿主植物の生態の兼ね合いだと思います。例えば、冬胞子(耐久器官)、担子胞子(有性生殖で形成される胞子)、精子(受精のため)などはそれぞれ役割分担を持っていますので、複数種類の存在の説明が可能です。しかし、銹胞子と夏胞子は、両者を作る菌と作らない菌が存在する等、必須ではなく、菌と宿主植物の相互関係の中で何か意味があるのだと考えるのが妥当なのではないでしょうか。
なぜコムギ黒さび病菌は他の菌の様に土壌で越冬せず、わざわざ他の植物の上で越冬したりするのか?
こういう生物現象(上も質問も同様ですが)を何故かお答えするのは殆ど不可能なのですが、私の考えで書かせていただくと、コムギ黒さび病菌は腐生的な生活をしにくい(以前ご紹介した「条件的腐生菌」に相当すると考えて下さい)ため、生きた植物上で越冬することを選んだのでは無いかと思います。なお、越冬場所等の「住処」に菌によって多様性がある事は競争を避ける生物の存在戦略として妥当なのではないかと考えますので、土壌で越冬する病原菌や、植物体上で越冬する菌がいても不思議ではないと思います。
さび病菌が飛ばす胞子のうちで宿主植物に到達できるのはごくわずかなのでは?
同感です。しかし、さび病菌は、触ると赤くなるほど多数の胞子を飛散させますので、数で勝負でそのうちの少数が宿主にたどり着けば良いという種の生存戦略を持つのでしょう。ちなみにさび病菌の胞子飛散距離は大変長いことが知られていて、コムギ黄さび病菌の胞子は中国から日本迄飛んでくる事が知られています。
絶対寄生菌は何故培養できないのか?
とても重要な質問ですが、お答えしようがありません。答えられれば、培養可能になるかもしれませんが、、、実際に、培養できない微生物はとても沢山いて、私たちが見る事のできる培養できるものは、微生物全体のうちごくわずかではないかとも考えられています。
11月24日クラス
質問と回答
異種寄生は担子菌の特徴か?
担子菌の中でもさび病菌の一部で見られる特異な現象であり、担子菌に特徴的であるとは言えません。
異種寄生をするさび病菌は中間宿主をなくすだけでは防除できないのか?
完全に中間宿主をなくせば防除できると思います。以前、隔離温室でナシを栽培したところ赤星病がでなくなったという文献を読んだ事があります。ただし、中間宿主の完全除去は、隔離実験室以外では困難で、胞子が遠距離を運ばれることも併せ考えると、中間宿主の除去が完全な防除には繋がりにくいと思います。
マコモタケなどが食用になるとの事であるが、一般に病気に罹った植物を食べると害があるのか?
病気に罹った植物が食用になるのは稀な例です。一般には腐敗、壊死、枯死などの病徴を示しますので、わざわざ食べる事はありませんが、知らずに食べている例は多いと思います。病気に罹った植物の殆どはそれを食べた人間等に害を及ぼす事はありませんが、後日ご紹介するマイコトキシンやファイトアレキシン等の物質が生産されている場合には害を及ぼす場合があります。ただし、植物および動物両方に感染して病原となる微生物は知られていません。
メキシコでは積極的に裸黒穂感染トウモロコシをつくっているのか?
講義でご紹介した様に、風媒で他の個体に感染しますので、積極的に栽培している事は無いと思います。通常食用にするトウモロコシ(トルティーヤ等主食のようなもの)の生産、種子生産にダメージがありますので。そのため、希少価値で値が上がると考えられます。
菌核とは何か?
複数のご質問をいただきましたが、すでに講義で紹介済みです。10/27の「質問と回答」をご覧下さい。
バイオエタノール生産で木材腐朽菌を使用する際に、菌を安定的に制御できるのか?
生きた菌を使用するとすれば、いかに安定に生育させ、機能を発揮させるか、育種、選抜などが重要な課題になると思います。機能向上の為には、閉鎖系での利用ですから、組換え技術も応用可能であると考えられます。木材腐朽菌の詳細、リグニン分解に係わる酵素等については成書や様々なHPを参照できます。
1つの子嚢中には8個の子嚢胞子が形成されるのが普通なのか?
そのとおりです。真の減数分裂1回と2回の体細胞分裂の結果8個の半数体(=子嚢胞子)を形成する事が一般的です。
子嚢殻は耐久器官にもなり得るとのことだが何から内部を保護しているのか?
様々な環境要因から保護していると考えられます。温度、水分等の物理的要因や、他の微生物等の生物的要因が想定されます。閉子殻は様々な条件(水分、圧力等)ではじけて内部の子嚢胞子が放出されます。
12月 1日クラス
質問と回答
多氾性の利点は?
「多氾性」は多くの種類の植物に病気を起こすことを意味します。「宿主範囲が広い」という言い方もあります。一方、限られた種類の植物にしか病気を起こせない場合、「宿主範囲が狭い」あるいは「宿主特異性が高い」と表現します。講義の中でご紹介した灰色かび病菌や菌核病菌は多氾性の病原の代表です。多氾性の病原はいろいろな宿主から栄養をとることができる、耐久手段が余り重要でない等の点で宿主範囲が狭い菌よりも有利であると考える事ができますが、逆に宿主範囲が狭い病原は一旦宿主に感染すると優占しやすい、うまく耐久する(生活環でご紹介しています)などの特長をもつと考えられます。なお、多氾性かどうかがどのように決まるかは明確になってはいませんが、多氾性の菌の場合、ペクチン分解酵素等植物組織を分解する酵素を多く分泌する傾向がありますので、この酵素で様々な植物組織を分解して栄養を取る能力が高いのではないかと考えれます。
イネいもち病菌は疎水性、硬さなどを認識するとのことだが、その条件が揃えばイネ以外にも侵入、病気を起こすのか?
病気が起きる迄には、認識、付着、侵入、進展、発病等複数の過程があります。イネいもち病菌は、侵入に際して疎水性や硬さなどを認識します。そのため、条件を整えてやるとプラスチック基質でも侵入挙動をとり、プラスチックを凹ませます。しかし、その後侵入できるか、進展、発病等の過程はイネでしか起きない為、イネいもち病菌は基本的にはイネのみに病気を起こします。なお、他のイネ科植物でもいもち病は報告されていますが、これは別の系統(あるいは種)によって引き起こされます。
最近イネいもち病による飢饉が起きなくなった理由は?
栽培技術の向上(抵抗性品種、殺菌剤、栽培方法等)や、世界的な食糧の移動によって、飢饉にはいたらなくなっています。平成3年のいもち病大発生年でも、海外から米を輸入してしのいだのは記憶に新しいところです。ただし、今後世界人口の急増によって世界的に食糧が逼迫すると、いざという時の対応をする余剰がなくなり、いもち病が発生すると米が不足する事態になるかもしれません。
イネのマルチラインについて知りたい
講義の後半でご紹介する予定です。また、新潟県のHPなどに解説がありますので、参考にして下さい。
麦角病菌がマイコトキシンを産生するのはどのような利点があるのか?
麦角毒のような二次代謝産物は病原の生育そのものには重要でないと考えられます。二次代謝産物には、他の競合し得る微生物等を抑えて自らが優占するのに有利に機能するものもあります。
道管へ侵入する病原が少ないのは何故か?
道管は組織の内部にあり、内皮で保護されている為と考えられます。他にも、道管病を引き起こす病原は地上部で感染する事はないのか、とのご質問をいただきました。地上部の傷や葉の脱落痕などから侵入し、道管に至り発病する場合もあります。
トマト萎凋病菌は根の傷から侵入するとのことだが、根に傷はよくできるのか?
根毛が出る際の傷や、土壌小動物などの食痕から侵入しやすいと言われています。
12月 8日クラス
質問と回答
うどんこ病菌は絶対寄生なので、宿主植物が枯れると病原菌も死んでしまうのか?
講義の中でもご紹介した様に、子嚢殻などの耐久体をつくり、新たに宿主植物が現れるのを待ちます。「絶対寄生菌が感染した周囲で組織を殺してしまうと自分にとって不利なのでは?」というご質問もありました。実際には、菌が組織を殺すのではなく、菌を認識した植物がその部分を殺す(自殺)することで、菌の進展を防ぐと考えると良いと思います。うどんこ病で見られるグリーンアイランドは、植物細胞(組織)のそのような自殺を制御して、絶対寄生菌が栄養をとれる様にしていると考えられます。
細菌の鞭毛と毒素注入システム(タイプIII分泌系)は何故似ているのか?
両構造やそれを構成するタンパク質が類似しています。
細菌の病原性は毒素と関係するのか?
毒素を病原性の本体とする細菌がいます。次回の各論および、1月の「病原の植物侵害戦略」でご紹介します。タブトキシンはタバコ野火病菌が生産する毒素です。コロナチンというPseudomonas属細菌、Xanthomonas属細菌などが生産する色素は植物組織を肥大させる等毒素として機能します。
病原が産生する色素と毒性に関係はあるのか?
色素は二次代謝産物である場合が殆どですので、動物や植物に対する毒性を示すものもあります。ただし、色(例えば毒々しい色)と毒性に関係があるということはありません。
ナシ火傷病は日本には侵入していないのか?
植物防疫所などの努力、輸入制限などによって侵入が防がれています。
根粒菌はマメ科植物の根部にこぶを形成するので、病原菌か?
講義の最初でご紹介した様に、植物に障害を及ぼす微生物を病原と呼びます。根粒菌は根粒を形成するものの、空気中の窒素を固定し、植物の生育にプラスに働いていますので、病原としては考えません。
ファイトプラズマはウイルスに近いと聞いたが細菌なのか?
ファイトプラズマは最小の細菌です。1月の講義で詳しくご紹介する予定ですが、ファイトプラズマは自らATPを作る事もせず、宿主細胞に依存しており、生理的にウイルスに似た部分を持ちます。
12月22日クラス
質問と回答
配布したプリントの一部が欠けていました。大変失礼しました。1月に追加分を配布します。
根頭がん腫病に罹った植物で形成されるこぶがぼろぼろになるのは何故か?
根頭がん腫病で形成されるこぶは、植物組織のカルス様の組織です。これが老化するとぼろぼろになります。この際に、病原細菌を広げると考えられます。
「菌泥」とは何か?また、リンゴ火傷病等で菌泥は昆虫を誘引するのか?
菌泥とは細菌細胞そのものの集合が粘液状になったものを言います。細菌の多糖質と、植物の樹液として分泌されるソルビトールが虫を誘引するそうです。
軟腐病はなぜ臭い?
どんな物質が悪臭の原因か記述がみあたりません。されに調べてみます。
軟腐病防除に使用されている非病原性エルビニアカロトボラが病原性を獲得する事はないのか?
生物農薬を使用する際にもっとも懸念される点の一つです。軟腐病菌の病原性はプラスミド支配ではありませんので、その心配はほぼ無いと判断されています。
軟腐病防除のために木酢や竹酢を使用する様に書いてある本があるが本当に効くのか?
「木酢液」は過去(1973-79年)に殺菌剤として登録されていましたが、現在は失効しています。現時点では「木酢液(竹酢を含む)」は農薬登録されていませんから、軟腐病に限らず、あらゆる病害の防除目的に使用すると農薬取締法違反になりますので、ご注意ください。病害虫防除目的で木酢液を使用すると良い様なことが書かれている本がある様ですが、誤りです。木酢液に病害等の防除効果が認められない、安全性が確認できない、成分等の保証がとれない等の理由で農薬登録されていないものと思われます。
ナス科植物青枯病菌の防除法として、台木の利用等が紹介されたが、病原細菌を根本的に排除する事はできないのか?
土壌伝染性病原菌全般に当てはまる事ですが、土壌中の病原菌を完全に排除するのは大変困難な事です。それを目指して、土壌燻蒸剤や熱による土壌消毒が行われますが完璧でないことが多々あり、反って発病を助長してしまう様な場合もあります。本講義では、病原と植物の相互関係、生活環、伝染環などを理解する事で、病原の排除以外の病原制御法について考察する事を1つの目的としています。
腐生能に富んだ青枯病菌は何故植物組織では師管でなく道管で増殖するのか?
これに関する記述は見た事がありません。しかし、(1)青枯病菌は根から感染するため道管に入りやすい、(2)師管は生きた組織であり、管が連続していないため病原菌の速やかな増殖・進展に適さないことなどが道管を中心に増殖する理由だと推定されます。しかし、感染後期には、道管のみならず移管束全体に拡大している物と思われます。
植物の栽培方法の変化に伴う病害の消長は、イネ白葉枯病、もみ枯細菌病以外でもあるのか?
イチゴ苗の春化の為の山上げ(夏に高冷地で栽培して春化し冬に結実させる)にかわって冷蔵庫での春化をするようになって、萎黄病の発生が減少した、温室栽培でトマトを周年作る様になり、低温期に根腐萎凋病という新病害が発生した、などの例があります。
植物病原細菌は一般的に道管で増殖するのか?
キャベツ等黒腐病菌、ナス科青枯病菌、イネ白葉枯病菌などは道管で増殖します。タバコ野火病菌、アブラナ科軟腐病菌、かんきつ類かいよう病菌、リンゴ火傷病菌などは道管ではなく、葉等の組織中で増殖します。
種子消毒はどのようにして行うのか?
もっとも一般的なのは種子消毒用に登録された殺菌剤(農薬)に浸漬、コート、粉衣する方法です。この他、温湯浸漬や、食酢浸漬が行われる場合もあります。
1月12日クラス
質問と回答
ファイトプラズマ病の病徴として枝などの「叢生」が紹介されたが、植物にとって障害なのか?
枝葉の叢生症状は植物の生理の異常です。そのうちに、その部分の枝は枯れ、葉もなくなります。放置しておくと全身に広がり、全身が弱るといわれています。これは、講義でご紹介したように、植物の物質をファイトプラズマが増殖する際に収奪してしまうためと考えられています。
「永続伝搬」と「非永続伝搬」の違いを知りたい
複数のご質問をいただきました。講義中の説明が不十分だったものと思いますので、補足します。「永続伝搬」は、ウイルスやファイトプラズマ等の昆虫媒介性の病原が昆虫体内に入り、循環あるいは増殖することで、その昆虫が死ぬまで、あるいはかなり長期間病原を媒介し続ける場合を言います。ファイトプラズマでご紹介したように、師部から口針で吸汁された師管液とともに取り込まれた病原が中腸上皮細胞から取り込まれて血管に入り、唾腺に至りそこで増殖、再度吸汁した際に他の植物体に病原を伝搬する場合があります。この場合、増殖が必要ですので、吸汁してから伝搬するようになるまでのタイムラグがあるのが特徴です。一方、昆虫体内での循環や増殖をせずに、口針に付着した病原が次の植物体への吸汁時に注入される場合、次第に付着している病原の量が減少して、伝搬しなくなります。このような場合を非永続伝搬と呼びます。この場合は、体内での増殖の必要がありませんので、タイムラグが無いのが特徴です。なお、いずれの場合でも基本的に植物病原ウイルスやファイトプラズマは宿主昆虫の生育に障害を及ぼすことは少なく、昆虫の病原体としては扱われません。
線虫を殺す良い薬剤は無いのか?
線虫は概ね土壌に生息して伝染します。従って、土壌消毒が最もよくとられるセンチュウ病対策です。センチュウ防除用には、過去には臭化メチルが土壌くん蒸剤として多く使用されていたがモントリオール議定書に基づいて使用できなくなり、現在はD-D等の土壌くん蒸剤が比較的良く使用されています。しかし、土壌くん蒸剤は処理者への直接的影響、効果の不完全さ、環境負荷、などの短所も持ちます。家庭用では、ボルテージなどの薬剤も販売されています。いずれにせよ、満足な効果が得られない場合もあり、これは土壌病害全般の悩みです。
線虫のシストを宿主が無い状態でふ化させる薬剤をつくると、「農薬」扱いになるのか?
線虫の防除を目的としているので「農薬」になります。昆虫のフェロモンも農薬ですので似た考え方です。このようなご質問をいただく背景には、「農薬」に対する悪いイメージがあり、殺生物活性の無いものをあるものと区別したいという考えかたがあると思います。しかし、「農薬」として登録して使用するのは、あくまで、科学的に評価して登録した薬剤を正しい方法で使用して、安全な農産物を安定生産することが目的ですので、殺生物性の無い化合物にせよ、天然物にせよ、生物農薬にせよ、農薬登録をして、「農薬」として堂々と使用すべきだと考えています。なお、「シストふ化促進物質は農薬として使用されているのか?」とのご質問がありました。ダイズシストセンチュウのシストふ化物質グリシノエクレピン、ジャガイモシストセンチュウのふ化物質ソラノエクレピンとも、防除試験は行われているようですが、現時点では、日本、海外を問わず農薬にはなっていないようです。
植物病原性線虫の交配はいつ起きるのか?
成虫になって根から雄が離脱(プリントをご覧ください)したあと、卵に精子をかけることで授精が起きます。詳しくは、2010年前期に、大学院の講義で非常勤講師として専門の先生を予定していますので、そちらを聴講下さい。
線虫の「対抗植物」はマリーゴールドだけか?
栽培することで植物病原性線虫を減少させる効果を持つ植物を対抗植物といいます。ネコブセンチュウ等の多氾性を利用して、線虫をマリーゴールドに侵入させ、マリーゴールド組織内のα-terthienylで生育を阻害するのがマリーゴールドが対抗植物として利用できる機作です。九州農研では、ギニアグラスやマメ科のサイラトロも対抗植物として機能することを報告しています。これらの対抗植物の機作の情報は見つかりませんでした。
弱毒ウイルスの緩衝作用によってウイルス病の防除が可能とのことだが、弱毒ウイルスと病原ウイルスとは何が違うのか?
どちらのウイルスも、宿主植物組織(細胞)の物質を利用して増殖、自らを再構築します。しかし、その増殖効率が異なるため、弱毒ウイルスではひどい病徴が現れません。
弱毒CMVが農薬登録されずに使用されているということは、安全性の評価がされていないということか?
実際に使用している会社のHPには、「この技術は自然界にあるウイルスを利用した方法であり、遺伝子組換えによるものではないため、その安全性は国内だけでなく海外でも広く認められています。」と書かれていますので、独自に安全性の評価を行っておられるようですが、誰が安全性を「認めている」のか私は存じません。農薬登録を行っていませんので、通常の農薬登録にかかわる安全性評価は行われていません。なお、京都の微生物研究所が開発したズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株は、「キュービオZY」として農薬登録されていますので、安全性評価にかかわるデータが閲覧できます。
弱毒CMVと同様に、他の病原でも、弱毒株や非病原性株を病害防除に利用できないのか?
2/2の講義でご紹介予定ですが、生物農薬として登録されたものとして、上記のズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株の他にも、非病原性エルビニアカロトボラ(細菌)や非病原性フザリウムオキシスポラム(糸状菌)等があります。詳しくは講義でご紹介します。
1月19日クラス
質問と回答
1月26日に実施する試験に関連するお知らせ
1月26日の試験では、1月19日までの講義でご紹介した内容で解答できる問題を用意しますが、各自勉強されて、講義でご紹介しなかった内容を記述されても何ら問題はありません。また、ノート、メモ、重要だと思われるホームページのプリントアウトなども持ち込んでいただいてかまいませんが、時間内で調べられるように、内容を消化してから持ち込んでいただくことを希望します。
1月12日の講義ででてきた「半永続伝搬」について定義が良く分からないとのご質問がありました。
1月19日の講義でご紹介したように、非永続伝搬と永続伝搬の間の概念です。すなわち、ある程度長期(数時間から数日間と書かれている本があります)に亘って病原の伝搬が見られる場合を半永続伝搬と呼びます。あくまで、中間的概念ですので、例えば、永続伝搬の例でご紹介した病原ウイルスが単に昆虫の体内を循環して感染を続ける場合、体内で増殖する病原に比べると伝搬期間が短くなりますので、半永続ととらえることもあります。(非永続を付着、半永続を循環、永続を増殖、としている教科書もあります)
ファイトアレキシンとPR-タンパク質の違いは何か?
どちらも外的などを認識して植物が後天的に生産する抗菌性等の機能を有する物質ですが、ファイトアレキシンは低分子の二次代謝産物であり、PR-タンパク質は高分子のタンパク質なので区別されています。また、PR-タンパク質の中には、抗菌性を有するもの、病原を分解する酵素(病原を破壊するだけでなく、その分解産物を植物が認識してさらに抵抗性を高める場合もある)等の機能を持つものも報告されています。
抗菌性物質で農薬登録されているものはあるのか?
植物が生産するフェノール類、サポニン類等の物質、あるいはファイトアレキシンの中で農薬登録されているものはあるのか、というご質問だと思います。これらの抗菌性物質を対象とした殺菌剤のスクリーニングは過去には非常に盛んに行われていましたが、最近はあまり行われていません。そのままの形で農薬登録されているものはないと思います(現在手元に資料が無くすみません)し、リード化合物として作られた殺菌剤も少ないと思います。ときどき、ニンニクその他の抽出物を植物に散布しているような伝承技術を聞くことがありますが、そのような病害防除法は農薬登録されていませんし、ニンニクなどの植物抽出液が特定農薬とされていることもありませんので、病害防除用に使用することはできません。
ファイトアレキシン等を産生しても病気に罹ってしまうのでは無駄ではないか?
ファイトアレキシン等の産生によって、多くの微生物等の攻撃から植物は自らを守っています。守りきれない場合には病気になってしまい、その防げなかった微生物などが病原として認識されることになります。従って、ファイトアレキシン等を含む動的抵抗性は、一部の病原を除く多くの微生物から植物を守っていると考えられます。
サリチル酸の類似物質がプラントアクチベーターとして販売されているとのことだが、サリチル酸自体は使用できないのか?
サリチル酸自体ももちろん抵抗性を誘導します。しかし、サリチル酸は水溶性が低い、薬害が出やすいなど、プラントアクチベーターとして使用するには欠点があるため、農薬として使用されていません(研究では使用されています)。「農薬」を登録して実用化するためには、単に機能だけではだめである、という良い例だと思います。同様に、揮発性の高いサリチル酸メチルが、他の植物個体に抵抗性を誘導するという論文が出ていますが、高い効果が安定に得られない等の理由で農薬にはなっていません。
動的な抵抗性は、植物の栄養状態などによって程度に差が生じるのか?
興味深いご質問です。実際、誘導される抵抗性の程度などは様々な環境要因に因って差が生じることが最近判明しています。例えば、植物の環境要因である温度、光、水分、塩、微生物等が影響を与えることが知られています。温度や光や塩はそれ自体でも物理的な刺激となって抵抗性を誘導する場合があることが報告されています(乾布摩擦のようです、、、)。また、環境要因が抵抗性の程度に差を生じさせるのに、アプシジンン酸などの植物ホルモンが関与しているとの報告も出ています。
1月27日 に試験を行いました
試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、講義で配布したプリント類、ノート類、御自分で復習された紙類(プリントアウトも可)は持ち込み可とします。教科書、参考書などは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報についてはプリントなどの資料をご参照され、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(13回が最多)」+「試験評点(87点満点)」で行います。授業回数には試験日は含みません。また、授業出席回数が「7」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。
試験問題と評価のポイント(424 kb pdf)
2月 2日クラス
質問と回答
イネいもち病用の非殺菌性薬剤が複数あるのは何故か
イネいもち病が我が国およびイネ栽培国での重要な病害であるからです。
抵抗性誘導剤に対する耐性菌も生じるのではないか?
講義の中でご紹介した様に、先ず、抵抗性誘導剤は直接的な抗菌活性を持っていませんので、選択圧が低く、直接的には耐性菌が出にくいと考えられます。次に、抵抗性誘導剤が誘導するPR-タンパク質等のうち、抗菌性を持つ物は選択圧になり得ますので、それに対する耐性は出現しうると考えられます。しかしながら、抵抗性誘導剤が誘導するPR-タンパク質等の抵抗性は1つでは無く、複数有り、複合的に作用すると考えられますので、耐性が出現する可能性は大変低いと考えられます。
抵抗性誘導剤は植物の生育に影響を与える事はないのか?
あります。それが抵抗性誘導剤の問題点で、いかにその欠点をクリアするかが抵抗性誘導剤の展開を考えるに重要であると思われます。この他、抵抗性誘導剤が誘導する抵抗性(関連物質)の摂食者への影響等も考える必要があると思われます。