研究項目A03
エアロゾルの植物影響の解明

A03(研究項目代表者: 伊豆田猛)は4つの計画研究で構成されており、東アジアの森林を構成する樹木に対するエアロゾルの影響に関するリスク評価を行うことを目的としています。A03-P08(計画研究代表者: 船田 良)とA03-P09(計画研究代表者: 伊豆田猛)による実験的研究によって、植物用のエアロゾル曝露チャンバーを開発し、それを用いて、東アジアの代表的な樹木の葉におけるエアロゾルの吸着量と吸収量を評価し、成長、光合成などの生理機能、栄養状態および水分状態に対する影響とそれらの樹種間差異を明らかにします。さらに、A03-P10(計画研究代表者: 原 宏)で新規に開発する森林におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価手法を用いて、A03-P11(計画研究代表者: 松田和秀)で東アジアの森林におけるエアロゾル成分の濃度、沈着・発生フラックス、樹木葉面への沈着形態を明らかにします。このような実験的研究の結果と野外観測の結果を総合的に考察し、最終的には東アジアの森林を構成している樹木に対するエアロゾルの影響のリスク評価を行います。
エアロゾルの植物影響の解明
計画研究 A03-P08
エアロゾルの樹木への吸収・吸着機構の解明
研究代表者船田 良東京農工大学大学院共生科学技術研究院教授
研究分担者佐野雄三北海道大学大学院農学研究院助教
研究分担者黒田克史独立行政法人森林総合研究所木材特性研究領域主任研究員
葉表面のエアロゾルの可視化法を確立する。樹木に硝酸塩、硫酸塩、ブラックカーボンなどのエアロゾルを直接暴露し、葉表面におけるエアロゾルのサイズや存在状態を高分解能走査電子顕微鏡、共焦点レーザ走査顕微鏡などの各種顕微鏡と画像解析装置を駆使して、細胞レベルから組織レベルまで解析する。硫酸塩の可視化は、エネルギー分散X線分析装置を装着した走査電子顕微鏡(SEM-EDXA)法で行い、硝酸塩の可視化は顕微フーリエ変換赤外分光光度計(顕微FT-IR)法で行う。SEM-EDXA法や顕微FT-IR法によって、硝酸塩および硫酸塩を暴露した葉表面をマッピングして画像を構築し、エアロゾルの吸着状態を明らかにする。一方、これらの方法では解析が困難なブラックカーボンは、高分解能走査電子顕微鏡を用いて解析し、その粒子のサイズ分布からブラックカーボンの解析を行う。さらに、ブラックカーボンに、蛍光物質や金粒子を結合させた標識化合物を作成し、SEM-EDXA法によるマッピングにより、ブラックカーボンの葉表面における局在を可視化する方法を確立する。
次に、確立した方法を用いて、エアロゾルの植物体表面への吸着量とその樹種間差異やクローン間差異を評価し、吸着量を決定する要因を明らかにする。また、樹木葉内細胞におけるエアロゾルの存在状態をマッピングし、葉内への吸収パターンやエアロゾルの移動形態を解析する。エアロゾルの気孔から葉内への吸収量とその樹種間やクローン間差異を評価し、吸収量を決定する要因も明らかにする。最終的に、葉の組織構造とエアロゾルの吸収・吸着量の違いとの関連性も解析し、樹木の生理学的特性へのエアロゾルの作用機構を組織構造学的にモデル化する。
計画研究 A03-P09
樹木に対するエアロゾルの影響とその樹種間差異の解明
研究代表者伊豆田 猛東京農工大学大学院共生科学技術研究院教授
研究分担者石田 厚独立行政法人森林総合研究所植物生態研究領域室長
研究分担者矢崎健一独立行政法人森林総合研究所植物生態研究領域主任研究員
研究分担者野口享太郎独立行政法人森林総合研究所立地環境研究領域主任研究員
研究分担者Wuled Lenggoro東京農工大学大学院共生科学技術研究院特任准教授
樹木用のエアロゾル暴露チャンバーを設計し、作製する。エアロゾル暴露チャンバーは、正方形で、骨組をステンレスアングルで組み、側面素材はポリカーボネートである。吸気フィルタボックスと粒子供給装置を通った空気がチャンバー内に導入される。チャンバーから出る空気は、吸気フィルタボックスを通り、排気装置によって野外に排出される。東アジアの森林を構成している樹木の苗木をエアロゾル暴露チャンバー内で育成し、その成長、光合成などの生理機能、光合成酵素の濃度や活性、水分状態および栄養状態などを測定し、正常に育成できるかをチェックする。さらに、このエアロゾル暴露チャンバーを用いて、東アジアの代表的な森林樹種の苗木にエアロゾル(硝酸エアロゾル、硫酸エアロゾル、ブラックカーボン)を暴露する。エアロゾルを暴露した樹木の乾物成長、葉面積成長、葉のガス交換速度(純光合成速度・蒸散速度)、主要な光合成酵素であるRuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)の濃度や活性、植物体の水ポテンシャルおよび元素濃度を測定する。これらの測定結果に基づき、樹木に対するエアロゾルの影響とその樹種間差異を明らかにする。
樹木に対するエアロゾルの影響とその樹種間差異の解明
計画研究 A03-P10
森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価手法の開発
研究代表者原 宏東京農工大学農学部教授
研究分担者高柳正夫東京農工大学大学院共生科学技術研究院教授
研究分担者木村園子ドロテア東京農工大学大学院共生科学技術研究院特任准教授
研究分担者大河内 博早稲田大学理工学術院教授
森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態を正確に評価する手法は開発されていない。そこで、本研究では、東京都八王子市にある東京農工大学の実験林においてエアロゾルの乾性沈着フラックスを測定し、森林に対する乾性沈着量を正確に見積もる。特に、エアロゾル沈着速度の湿度依存性や葉面積指数などの鍵となるパラメータの開発や改良を行い、森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価手法を開発する。具体的には、東京農工大の実験林に樹冠高度の3倍以上の高さの観測鉄塔を設置し、気象要素と無機および有機のエアロゾルの濃度鉛直プロフィールを経常的に測定する。さらにアンダーセンサンプラーでエアロゾルの粒度分布を経常的に把握する。林内雨・林外雨法に加え、樹木の葉を捕集し表面のエアロゾルを洗い出す方法、気象要素から沈着速度を評価し、観測される大気濃度を乗じてフラックスを評価するインフェレンシャル法、非降水時に大気に解放される捕集容器などを用いた代理表面法など種々の方法でフラックスの観測を行う。林内雨・林外雨法でエアロゾルの沈着フラックスの実測を実施する。さらに、林外と林内の大気中の有機エアロゾル濃度の差から、森林樹冠による捕捉量と森林樹冠への乾性沈着量を見積もる。植物の生理状態の指標となるガスの放出、沈着の測定を行なう。上記の成果を総合的に検討し、森林に対する乾性沈着手法のプロトタイプを作成し、実験林でのフラックス測定に応用するとともに、タイなどでの観測で試用して評価する。
計画研究 A03-P11
東アジアの森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価
研究代表者 松田和秀 明星大学 理工学部 准教授
研究分担者 佐瀬裕之 財団法人日本環境衛生センター 酸性雨研究センター 上席研究員
研究分担者 村尾直人 北海道大学 大学院工学研究科 准教授
研究分担者 林 健太郎 独立行政法人農業環境技術研究所 物質循環研究領域 主任研究員
研究分担者 野口 泉 北海道環境科学研究センター 環境科学部 環境科学科長
連携研究者  高橋 章  財団法人電力中央研究所  環境科学研究所  上席研究員 
連携研究者 高木健太郎 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 天塩研究林 助教
東アジアにおいてエアロゾルの森林への沈着を直接測定し評価した事例は極めて少なく、特に東南アジアの熱帯林においては皆無と言える。本研究では、タイにおける森林調査フィールドの選定および鉄塔等の観測基盤の整備を行う。国内では、濃度勾配法によるエアロゾルフラックスの直接測定法のテストを行う。その際、エアロゾルは、微小粒子と粗大粒子別に捕集し、どの程度の濃度差まで検出できるかを評価する。同時に、粒子生成・消滅に寄与するガス成分(アンモニア等)の同様のテストも行う。次に、当該測定システムを、タイの森林調査フィールドに設置し、現地テストによる熱帯気候下での測定手法の最適化を行った後、長期的な観測を実施する。さらに、当該森林におけるエアロゾルのキャラクタリゼーションのための連続濃度測定(元素状炭素、有機系炭素成分、重金属成分濃度を含む)および沈着の状態を把握するための生態影響調査(葉面付着成分分析、林内雨・樹幹流測定)を行う。東アジア広域の情報を得るために、他に、温帯域と寒帯域においてエアロゾルフラックスの直接測定を実施する。温帯地域の森林として本州中央部のフラックス観測フィールド、亜寒帯地域の森林として北海道のフラックス観測フィールドにおいて、本研究で開発するエアロゾルのフラックス直接測定法による集中観測を行う。
東アジアの森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価