第5章 球面波の伝搬

\includegraphics[width=2.00in height=1.78in]{chap51.eps}

空間内に点音源あるいは波長に比べて寸法の極めて小さい球音源が存在し,音源が半径方向に伸縮運動をし,呼吸球のようにあらゆる方向に一様に音波を出していると考えると,音源を中心とする球面上では,音圧や粒子速度はすべて一様になる。このような音波を球面波(spherical wave)という。通常の音源についても,音源の寸法に対して十分距離が離れた遠方においては,球面波と見なして取り扱うことができる。

球面波の波動方程式を考える場合には,図に示すように音源を原点とする球座標(r,$\theta
$,$\phi $)を用いる。ここで,直交座標(x,y,z)と極座標の関係式は


\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
r = \cos \theta \cos \phi \quad \quad r = ...
...a \quad \quad \quad \phi = \tan ^{ - 1}(y / x) \\
\end{array}\end{displaymath}

(1)

である。本章では,波動方程式を,極座標を用いて表現したときの,球面波の解を求めてみる。

ただし,求めるべき球面波は,角度($\theta
$,$\phi
)$については一定であり,原点(音源)からの距離rについてのみ変化するとする。第2章式(20)の速度ポテンシャル$\phi $に対する波動方程式を示すと,


\begin{displaymath}
\nabla ^2\phi - (\rho / K)\ddot {\phi } = 0
\end{displaymath} (1)

である。ここで,$\nabla ^2\phi $を極座標に書き改めると,


\begin{displaymath}
\nabla ^2\phi = \frac{1}{r^2}\frac{\partial \phi }{\partial ...
...}{r^2\sin ^2\theta }\frac{\partial ^2\phi
}{\partial \Phi ^2}
\end{displaymath} (2)

となる。球面波がrに関してだけ変化すると仮定すると, $\partial \phi /
\partial \theta = 0,\partial \phi / \partial \Phi = 0$であり,


\begin{displaymath}
\nabla ^2\phi = \frac{\partial ^2\phi }{\partial r^2} +
\frac{2}{r}\frac{\partial \phi }{\partial \mbox{r}}
\end{displaymath} (3)

さらに,時間tに対して $\phi \propto ej^{\omega
t}$と仮定する。その結果,式(1)の波動方程式は,


\begin{displaymath}
\frac{\partial ^2\phi }{\partial r^2} + \frac{2}{r}\frac{\partial \phi
}{\partial \mbox{r}} + k^2\phi = 0
\end{displaymath} (4)

となる。ここで,


\begin{displaymath}
k = \omega / c\quad (\omega = 2\pi f,c = \sqrt {K / \rho } )
\end{displaymath} (5)

球面波

式(4)の微分方程式の解は次式のように解くことができる。


\begin{displaymath}
\phi = A\frac{ej^{(\omega t - kr)}}{r} + B\frac{ej^{(\omega t + kr)}}{r}
\end{displaymath} (6)

式(6)が式(4)の解であることは,式(4)に式(6)を代入することにより証明できる。

第1項は中心から発散する波,第2項は中心に向かって収束する波である。

今,次式の発散波しか存在しないとすると,


\begin{displaymath}
\phi = A\frac{e^{ - jkr}}{r}
\end{displaymath} (7)

このとき,発散波の音圧pは


\begin{displaymath}
p = j\omega \rho \phi = j\omega \rho Ae^{ - jkr} / r
\end{displaymath} (8)

であり,粒子速度のr方向成分$v_r $


\begin{displaymath}
v_r = -\frac{\partial \phi }{\partial \phi}= \frac{A(1+jkr)e^{-jkr}}{r^2}
\end{displaymath} (9)

と求められる。このように,球面波では,$\phi $とpの大きさはrに反比例する。これに対してv$_{r}$$kr > >
1$の遠方では振幅はrに反比例してpと同相であるが,$kr < <
1$の近距離においては振幅が$r^2$に反比例して位相がpより90 遅れている。

\includegraphics[width=1.31in height=1.15in]{chap52.eps}

点音源の放射音場

無限に広い媒質中で半径aの球音源が径方向に一様な速度v$_{0}$で振動しているとする。この場合の放射音場は、$r
= a$における式(9)の結果を$v_r = v_0 $とおくことにより次式を得る。


\begin{displaymath}
v_0 = A\frac{1 + jka}{a^2}e^{ - jka}\quad \quad \quad \quad A = v_0
\frac{a^2}{1 + jka}e^{ + jka}
\end{displaymath} (10)

音源の体積速度(表面積$\times $粒子速度)をQとおくと,


\begin{displaymath}
Q = 4\pi a^2v_{0\quad \quad \quad \quad \quad \quad \quad } \frac{Q}{4\pi
}\frac{1}{1 + jka}e^{ + jka}
\end{displaymath} (11)

音源の体積速度Qを一定に保ち,半径aを零に近づけた極限を考えると,


\begin{displaymath}
\mathop {\lim }\limits_{a - > 0} \,A = \frac{Q}{4\pi }
\end{displaymath} (12)

となる,従って体積速度Qの点音源の放射音場は,式(7)-(9)に式(12)を用いて


\begin{displaymath}
\phi = \frac{Q}{4\pi }\frac{e^{ - jkr}}{r}
\end{displaymath} (13)


\begin{displaymath}
p = j\omega \rho \frac{Q}{4\pi }\frac{e^{ - jkr}}{r}
\end{displaymath} (14)


\begin{displaymath}
v_r = j\omega \rho \frac{Q}{4\pi }\frac{1 + jkr}{r^2}e^{ - jkr}
\end{displaymath} (15)

となる。もし,空間にnヶの点音源があり,その体積速度が $Q_1 ,Q_2 ,Q_3 \cdots
Q_n $であるとすれば,任意点における速度ポテンシャル$\phi $は重畳の原理によって,


\begin{displaymath}
\phi = \mathop \sum \limits_{m = 1}^n \frac{Q}{4\pi }\frac{e^{ - jkrm}}{r_m
}
\end{displaymath} (16)

となる。ただし,r$_{m}$はP点から音源Q$_{m}$までの距離である。

鏡像の原理

一つの無限平面ABに関して鏡像関係にある同一強さの音源IおよびUがあるとする。この二つの音源によって平面AB上の任意の1点Pに生じる粒子速度について考えてみる。音源TによるP点の粒子速度が図の ${\rm {\bf v}}_{\rm I}
$のようなベクトルで表されたとすると音源Uによる同じ点の粒子速度

\includegraphics[width=1.90in height=2.05in]{chap53.eps}
${\rm {\bf v}}_\Pi $のベクトルは, ${\rm {\bf v}}_{\rm I}
$と鏡像

の関係になる。従って,音源TとUの共存によるP点の粒子速度 ${\rm {\bf v}}_{\rm I}
$ ${\rm {\bf v}}_\Pi $のベクトル和であるから,必ず鏡面ABに沿った方向をもつことになり,面ABに垂直な方向の振動は全く生じない。従って,この鏡の面ABの位置に無限大の剛平面をもってきても音場はまったく影響されないことがわかる。以上の考察より,次の鏡像の原理が導かれる。

鏡像の原理:一つの音源と無限大剛平面とによって作られる音場は,この剛平面を取り去って,その代わりにもとの音源と鏡像関係の音源を共存させることによって形成される音場と完全に等しい。

\includegraphics[width=1.68in height=0.94in]{chap55.eps}
床や壁に囲まれた空間内の音の強さ

部屋の中で発した音は,屋外で発した音に比べて,大きな音で届く。この様子は鏡像の原理を用いて次のように計算することができる。右図(a)のように音を完全反射する硬い床がある空間を考える。鏡像の原理によって本来の音源に鏡像の音源が加わるから,上部空間の音の強さは元の音源の2倍の強さになる。さらに,右図(b)のように床に加えて壁が1つ加わると,図に示すように3つの鏡像音源が配置されたことと等価な状態になるから,音の強さは元の音源の4倍になる。

付録 座標変換

よく使われる座標系は以下の3種類がある。
・直交座標 $\left( {x\;,\;y\;,\;z} \right)$
・円筒座標 $\left( {r\;,\;\phi \;,\;z} \right)$
・極座標 $\left( {r\;,\;\theta \;,\;z} \right)$
例えば,直交座標と極座標の間には以下の関係がある。

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
x = r\sin \theta \cos \phi ,y = r\sin \the...
... = \cos ^{ -
1}(z / \sqrt {x^2 + y^2 + z^2} ) \\
\end{array}\end{displaymath}

先に直交座標系で定義した演算 $grad\Phi ,div{\rm {\bf A}},\nabla ^2\Phi
$を,極座標系に書き換えると次式のようになる。

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
(grad\Phi )_r = \frac{\partial \Phi }{\par...
...\frac{\partial ^2\Phi }{\partial \phi ^2} \\
\\
\end{array}\end{displaymath}



yamada 平成15年4月28日