ニューロコンピュータの基礎 ★The Basic Of The Neural Computer★
作成日:2002/08/24 作成者:小林 晶




. はじめに

今回のネタは、“ニューロコンピュータ”です。

さて、ニューロコンピュータといえば、機動警察パトレイバーにおいて第一小隊
に配属される新型レイバー“ピースメイカー”や、新世紀GPXサイバーフォーミュ
ラSINにおいてブリード加賀の乗るマシンとして登場する“凰牙”などに搭載され
ているコンピュータが思い出されます。

これらの作品中に登場するニューロコンピュータは、学習することでより生物に
近い動作や判断ができるコンピュータとして表現されています。

では、現実にはどういったものに利用されているかというと、例えば、三菱自動
車が出しているランサーエヴォリューションVII GT−Aに搭載されています。
  このランエボはランエボ史上初のオートマ仕様(アクティブマチック)ですが、
なんとこのランエボ、ドライバーのシフトタイミングなどを学習して自動で
シフトチェンジを行い、快適なドライビングのサポートをしてくれます。
このように架空の物語中や現実においても、ニューロコンピュータといえば“学
  習 ”が、重要な要素となっています。

そこで今回は“ニューロコンピュータ”の基礎ということで、ニューラルネット
ワークの仕組みと多層ニューラルネットワークで使われているバックプロパゲーシ
ョン学習法について説明します。

.神経細胞について
ニューラルネットワークについて語るには、まず、元となったニューロン、つま
り神経細胞(neuron)について知る必要があります。

神経細胞は、細胞体(soma),樹状突起(dendrite),軸索(axon)の3つの部
分から構成されています。(図1)
図 1

・ 細胞体:細胞の中央部分に当たり、細胞核はこの中に含まれる。
つまり、細胞本体。

・ 樹状突起:細胞体の表面から突き出た枝のような突起で、
神経細胞の入力端子に当たる部分。

・ 軸索:細胞体からほぼ一定の太さで長く伸びた一本の突起で、
一般に神経線維と呼ばれている。
神経細胞の出力端子にあたる部分。
軸索の終末端は、他の神経細胞の樹状突起や細胞体に付着しており、
この付着部分をシナプスといいます。

神経細胞間の信号伝達は、このシナプスを通して行われます。

次に、神経細胞がどのように信号を伝達しているか説明します。
神経細胞も細胞の一種なので細胞膜の内外では電位差があり、
これを膜電位と呼びます。
内部電位は細胞外部を基準として、通常−70mV程度で、
これを静止電位と呼びます。

神経細胞の外部からシナプス結合を通して入力信号があると、
内部電位は徐々に上昇していきます。
そして、あるしきい値を超えると内部電位は瞬間的に0Vを超えて、
再びもとの電位に戻るという現象が発生します。

このような現象を“興奮”または“発火”といいます。

発火によって得られた電位の変化は、軸索に沿って伝達していき、
これを“インパルス”と呼びます。
このインパルスが軸索終末端にあるシナプス結合を通して出力信号となり、
次の神経細胞に信号を伝達します。



.神経細胞のモデル化

ここでは、先に述べた神経細胞の機能のモデル化について説明します。
神経細胞のモデル化では、神経細胞の機能のすべてを精密にモデル化するのでは
なく、明らかにしようとしている機能に応じてモデル化を行います。

今回は、もっとも単純な神経細胞モデルである線形しきい値モデルについて
説明します。
線形しきい値モデルは、図で表すと以下のようになります。(図2)

図 2


xはシナプス前細胞からの入力を、wはシナプス結合の強さを表すとします。
各細胞からの影響wxを加算したものをニューロンへの入力とします。
そして、この入力の和が、しきい値θを超えたときニューロンが発火するとします。

これを式で表すと以下のようになります。



(1)式で表されるuを膜電位、または内部ポテンシャルと呼びます。

(2)式は膜電位がインパルスに変化することを表しており、
f()を出力関数と呼びます。

出力関数は一般には単調増加関数が用いられます。
例えば、出力関数として、しきい値を超えていれば「1」を、超えていなければ
「0」を返す関数を考えると、(3)式で表されるような階段関数となります。



また、出力関数にはほかにもシグモイド関数などがあります。
・ シグモイド関数



.ネットワーク構造のモデル化






人間の脳の中には約140億個もの神経細胞が互いにつながり、
巨大な神経回路網を形成しています。
この神経回路網によって人間は実に高度な情報処理を行っています。

しきい値による単純な動作しか出来ない神経細胞でも、数多く、
複雑にネットワーク化されることで高度な情報処理ができるようになります。
ニューロコンピュータは、このような神経回路網のモデル化により最終的に
人間同様の高度な情報処理を目指すものです。

現在では人間同様とはいきませんが、先にモデル化したようなニューロンを
組み合わせたニューラルネットワークはさまざまなところに応用されています。
例えば、先に述べたような自動車のエンジンなどの
制御システムや画像、文字認識に応用されています。

それらのシステムに使われているニューラルネットワークは大きく分けて
2つの種類に分かれます。

1つは階層型ニューラルネットワークです。(図3)

これは、ニューロンを層状に並べ、入力側から出力側に一方向に信号を伝える
ネットワークです。
このタイプのネットワークでは入力情報に対して、出力情報が一意的に決まる
という性質があります。
また、層の数が少ないと解けない問題などがありますが、最低3層あれば
任意のパターンを識別するのに十分であることがわかっています。
後で説明するパーセプトロンはこのタイプのネットワークです。

図3


もう1つは相互結合型ニューラルネットワークです。(図4)

これは、ニューロン同志がお互いに結合しているネットワークで、信号の流れは
一方向ではなく出力信号がそのまま入力信号となるフィードバックを持ちます。
このタイプのネットワークには、ホップフィールドネットワークなどがあります。

図 4


また、これらのネットワークが複合した大規模なネットワークも存在します。

. パーセプトロン

それでは、階層型ネットワークであるパーセプトロンについて説明します。
パーセプトロンはニューロコンピュータの基本として重要なものです。

パーセプトロンという名は“認識”(perception)に由来します。
その由来のとおりにパーセプトロンはパターン認識を行うためのものとして
作成されました。

パーセプトロンを図で表すと以下のようになります。

図 6


パーセプトロンは、以下のような特徴を持っています。
・ 入力層,中間層,出力層の3層構造を持つ。
・ 入力,出力信号は「0」「1」の2値である。(出力関数は階段関数)
・ 信号の流れは入力層から出力層への一方向である。
・ 中間層の結合加重は固定である。
次にパーセプトロンの学習について説明します。
パーセプトロンの学習では、入力
信号にしたがって出てきた出力信号を教師信号と比較して、異なっている場合に結
合加重としきい値を変更するというものです。

入力値にしたがって出力値を求める方法は、神経細胞のモデル化で先に説明した
とおりです。
入力層側から出力層側に向かって一方向に出力値を求めていきます。



このようにして求められた出力値と教師信号を比較し、異なっている場合には
以下の式にしたがって結合荷重を変化させて学習を行います。



Δwは結合加重の変化分を、εは学習係数を、Tは教師信号を表すとします。

(7)式によって、結合加重wに変化分Δwを加え(w+Δw)結合加重を更新します。

そして、更新さsれた結合加重にしたがって再び出力値を求め、
正しい値を得るまで更新を繰り返します。

これがパーセプトロンの学習方法です。

この学習法は必ず収束することが証明されています。
興味のある人は参考文献を参照してみるといいでしょう。

.まとめ

今回は、ニューロコンピュータ基礎としてニューラルネットワークの研究の
古典であるパーセプトロンについて説明を行いました。
実際に動作しているものを見てみないと解りにくいとは思いますが、
いかがだったでしょうか?

実に簡単ないくつかの数式だけで、パターン認識などの複雑な機能を実現できる
点が、ニューラルネットワークの面白いところです。
今回説明したパーセプトロンは、さまざまなパターンを線形分離によって
識別することが出来る反面、中間層の結合荷重を変化させることが出来ないために、
“XOR問 題”などの非線形分離問題が解けないという欠点もあります。

この問題を解決するためにバックプロパゲーション学習法というものが
考案されていますが、説明はいずれかの機会に行います。

ニューロコンピュータの分野は奥の深い世界です。
今回の内容はごくさわりの部分ですが、
ニューロコンピュータを面白そうだと思っていただければ幸いです。

.参考文献

(1) ニューロコンピュータの基礎
中野 馨 編著,他7名による共著,コロナ社
解説:
ニューロコンピュータについて学習しようとするなら、教科書としてまず
最初に手に入れておきたい一冊。
ニューロコンピュータの歴史から体系的に理解できる良書 。

(2) ニューラルネットワーク入門
岩田彰,松原俊之,名古屋工業大学岩田研究室


解説:
ウェブページ上で公開されているニューロコンピュータの学習資料としては
これ以上無いというくらいの完成度を持つページ。
アプレットによるシミュレーションなどにより、
ニューラルネットワークの動作原理が体験的に理解できる。