研究

光の量子相関:非古典的多光子状態

  光は「粒子」であると同時に「波動」でもあると習うが、このときの「波動」、「粒子」という言葉は、古典物理学でいう「波動」、「粒子」とは異なる意味を持つ。 粒子だと考えられてきた「電子」が量子力学を用いて扱わなければいけないように、波動であると考えられてきた「光」も量子力学を用いて扱わなければならない(第2量子化)。 この量子的性質のために、光には古典的波動には対応しない状態、すなわち非古典的状態が存在する。光パラメトリック過程という非線形現象を利用すると、 1つの入射光子が2つの光子に分裂して飛び出すという現象が生じる。
 こうして生じた2つの光子は、それぞれ別のものとして扱うことができず、2つの光子が全体として1つの量子状態を占有する。 このため、一方の光子を観測すると、観測していないもう一方の光子物理的状態が瞬間的に確定(量子相関)したり、2つの光子を交換した状態の間で干渉効果が生じたり(量子干渉)、 古典的にはあり得ない現象が生じる。これらの減少は、量子暗号や量子コンピューティング、量子テレポーテーションなどの現代科学の最先端の原理そのものである。
 我々の研究室では、このように複数の光子が量子力学的にもつれ合った状態を利用して、光の量子的な性質や、光の物質との相互作用の研究を行っている。

研究1:偏光相関に関するHong-Ou-Mandel dip測定
Key word : 2光子状態、2光子波束、Hong-Ou-Mandel dip

  非線形光学結晶を用いたパラメトリック下方変換によって、量子力学的に相関のある2光子を生成できる。
この2光子は別々に扱うことはできず、まとめて1つの量子力学的な状態で表わされる(2光子状態)。
 本研究では、2光子の偏光に関する相関に着目し、偏光方向が互いに直交する2光子を生成している。生成した2光子を位相板を用いてそれぞれ右回り、左回りの円偏光に変換し、同時計数法を用いて偏光相関を解析することを考える。2光子波束が重なり、2個の光子の区別ができないとき、2光子が異なる偏光として同時検出される状態を表す波動関数が互いに打ち消し合い(量子干渉効果)、同時検出期待値がゼロになる。また、この同時検出期待値は2光子波束の重なり具合で変化するため、2光子波束の重なり具合を変えながら同時検出期待値を求めると相互相関プロフィルにディップが生じる(Hong-Ou-Mandel dip)。Hong-Ou-Mandel dipの形状は2光子波束の形状に依存する。したがって、反対にMandel dipの形状から2光子波束の形状を判別することができる。このことを利用すると、2光子波束の形状の違いを用いた情報伝達や、量子ドットなどの非古典的物質と相互作用した2光子状態の変化が観測可能になる。
 本研究では、任意の形状の2光子波束を用いたMandel dipの形状観測を目的としている。本研究室では、用いる2光子波束のサンプルとして、ガウス型2光子波束と矩形型2光子波束を選んだ。ガウス型2光子波束を用いた場合、Mandel dipの形状はガウス型となり、矩形型2光子波束を用いた合、mandel dipの形状はV型となることが知られている。これまで、第一種位相整合条件下で生成したガウス型2光子波束を用いてMandel dipの形状観測に成功している。今後は、第2種位相整合条件下で生成した矩形型2光子波束を用いてMandel dipの形状観測を行い、ガウス型2光子波束の場合と比較する。

 
2光子状態偏光量子相関測定装置       量子相関による非古典的ディップ(Mandel dip)

研究2:エバネッセントモードにおけるフォトニック・ド・ブロイ波長測定

  粒子の波動的な性質はド・ブロイ波で考えることができる。電磁波のエネルギー量子である「光子」についてもド・ブロイ波を適用でき、古典的電磁波としての光の波長は1個の光子のもつド・ブロイ波長と見なすことができる。 つまり、電子のような質量をもつ粒子の場合と同様に、系の運動量が光子の個数に比例して増えていくとみなすと、複数個の光子からなる系ではより波長が短くなっていく。 この光子群の波長のことを「フォトニック・ド・ブロイ波長」という。
 我々は、光子が2個の場合で実験を行っており、2個の光子対(2光子状態)のフォトニック・ド・ブロイ波長を物質の境界面近傍にのみ存在する波(エバネッセント波)に応用している。 古典的な光では、物質の境界面に対して垂直な方向へのエバネッセント波の染み出しの深さは光子1個分のフォトニック・ド・ブロイ波長程度である。 一方、2光子状態では、2個分のフォトニック・ド・ブロイ波長になるため、染み出しの深さは古典的な光の半分になる。染み出しが浅くなったエバネッセント波は、ある波長における物質の反応をより高い分解能で見たり、2光子を吸収するプロセスを観測しやすくすることなどに応用できる。

   
エバネッセントモードのフォトニック・ド・ブロイ波長測定装置 エバネッセント波の発生