非病原性Fusarium oxysporumのトマト組織での動態観察と萎凋病防除機構に関する考察
Behavior of a non-pathogenic Fusarium oxysporum in tomato and its mechanisms of biocontrol to wilt disease

小川友美大寺宇織・雨宮良幹*・寺岡 徹・○有江 力・寺岡 徹有江 力
Tomomi Ogawa, Takaori Oodera, Yoshimiki Amemiya*, Tohru Teraoka, Tsutomu Arie,Tohru Teraoka, Tsutomu Arie

要旨

目的) 非病原性F. oxysporumをトマト根部に処理しておくと、萎凋病の発病を抑制する場合がある。この萎凋病防除機構として、抵抗性誘導や競合が想定されているが、詳細は未詳である。本研究では抵抗性関連遺伝子の発現解析と、蛍光タンパク質を用いた非病原性F. oxysporumおよびトマト萎凋病菌(F .oxysporum f. sp. lycopersici)の動態観察からその防除機構を解明することを目的とした。
方法)
1.植物が病原体や根圏微生物などを認識して発現する抵抗性のシグナル分子とされる5つのPR遺伝子(PR-1a、PR-2a、PR-2b、PR-3a、PR-3b; Goodman et al. 1994)の発現をリアルタイムPCRによって解析した。
2.緑色蛍光タンパク質および赤色蛍光タンパク質をそれぞれ発現する非病原性F. oxysporumおよびトマト萎凋病菌の形質転換体を作出し、培地上および植物組上/中での挙動を蛍光顕微鏡下で観察した。
結果および考察)
1.非病原性F. oxysporum を根部処理した5日後に、トマトの葉および根部組織からRNAを抽出、PR遺伝子の発現を解析したが、非病原性F. oxysporum処理によるPR遺伝子の有意な発現誘導はみられなかった。
2.非病原性F. oxysporumおよびトマト萎凋病菌はPDA平板上で対峙培養した場合に、生育阻止帯を形成することなく、菌糸が交差した。食菌作用等も観察されなかった。
3.それぞれの菌を単独接種したトマトにおいて、いずれの菌もトマト側根の表面を覆う、あるいは内部の細胞間隙に沿って菌糸を伸長する様子が観察された。両菌とも茎部組織まで進展したが、トマト萎凋病菌が維管束内部のみで観察されるのに対して、非病原性F. oxysporumは維管束周囲柔組織や表皮付近まで菌糸を伸展させていた。
4.事前に非病原性F. oxysporumを接種してからトマト萎凋病菌を接種したトマトの維管束部では、非病原性F. oxysporumに比べてトマト萎凋病菌の存在が少なかった。
 以上から、非病原性F. oxysporumによる萎凋病防除の機作は、抵抗性誘導でなく、「場」あるいは「栄養」の競合であると考えられた。


*千葉大園芸 Chiba Univ

日本農薬学会第35回大会(2010年5月30日、札幌市)口頭発表