圃場検診に向けたトマト萎凋病菌レースの分子生物学的識別法
Molecular-based specific identification of tomato wilt pathogen races
稲見圭悟吉岡千津*・平野泰志**・川部眞登***・對馬誠也****・田代康介*****・久原 哲*****・寺岡 徹*・○有江 力*
Tsutomu Arie, Takaori Oodera, Tomomi Ogawa, Tohru Teraoka

要旨

目的) 土壌中の病原菌の迅速かつ正確な検出は植物栽培前の重要な検診項目のひとつである。トマト萎凋病菌には品種に基づくレース(1〜3)分化がみられるため、土壌中に潜在するレース識別が栽培品種選択時に必要である。本研究では分子生物学的手法(リアルタイムPCRおよびマイクロアレイ)を用いた迅速なレース識別技術を確立することを目的とした。
方法) 我が国で発生しているトマト萎凋病菌のレース1, 2, 3がrDNA-IGS領域に基づく分子系統樹中のクレードA2, A1, A3にそれぞれ対応すること(Kawabe 2005)に基づき、当該領域の多型を反映するレース識別用プライマー/プローブセットP1, P2, P3を設計した(表)。さらに、非病原力関連遺伝子SIX1、SIX4の存否に基づくレース識別セットL1, R1を設計した(表)。また、レース識別用プローブを搭載したマイクロアレイも試作した。
結果および考察)  菌体DNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行ったところ、いずれも想定通り(表)にトマト萎凋病菌のレースを特異的に検出できた(図)。トマト萎凋病菌人工汚染土壌から抽出したDNA(eDNA)を鋳型としても同様の結果が得られ、土壌中の萎凋病菌レースの特異的検出の可能性が示された。菌体DNAサンプルを用いたマイクロアレイでもレース識別が可能であった。今後は萎凋病発生圃場由来の土壌を用いてこれらの方法の実用性、定量性を検討する。


農工大院連農
*農工大院農
**埼玉農総研セ
***中央農研
****農環研
*****九大院農

日本農薬学会第35回大会(2010年5月30日、札幌市)口頭発表