要旨
【目的】
(共同研究内容)
微生物資材による病害防除の作用機作には、抗菌物質の生産、食菌・溶菌作用、競合、植物の病害に対する抵抗性の誘導などが報告されている。有効な利用法の確立や効果の安定化、安全性確保の観点から、微生物資材の作用機作を明らかにしておくことは重要である。
様々な生物でマーカーとして利用されている強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)に加えて、赤色蛍光タンパク質(DsRed2)を糸状菌で発現させるプラスミドベクターpAK2-HYGを作出し、蛍光をマーカーにした菌体の観察系を確立した(加藤、2008)。これに基づき、本研究では異なる蛍光タンパク質発現株を用いて微生物資材と病原菌の相互作用を可視化し、微生物資材の作用機作の解明に向けたin plantaでの観察を行った。
【方法】
糸状菌用EGFP発現ベクターpMK412(Watanabe、2007)およびpAK2-HYG(加藤、2008)を用いて、微生物防除資材Talaromyces sp. KNB-422のEGFP発現株(KNB-422-GFP)とイネばか苗病菌のDsRed2発現株(G. fujikuroi-RFP)を作出した。スライドカルチャーで両菌の相互作用を観察した。さらにG. fujikuroi-RFP汚染イネ(品種:短銀坊主)種子をKNB-422-GFPで処理(1.0×106 cfu/ml分生子懸濁液への浸漬)し、育苗段階における両菌の相互作用を観察した。
【結果】
対峙培養したスライドカルチャーでは、KNB-422-GFPがG. fujikuroi-RFPに向けて菌糸を分岐させたり菌糸を巻きつかせたり、積極的に作用している様子が観察された。両菌の交差、接触部位ではG. fujikuroi-RFPの細胞質の蛍光が消滅している現象が見られた。育苗段階のイネ種子上では、KNB-422-GFPが籾殻表面上で菌糸を伸長し、特にイネの発芽部位周辺に多くに菌糸が存在し、その一部の菌糸は集合して菌糸塊を形成していた。この菌糸塊の中でG. fujikuroi-RFPの菌糸にKNB-422-GFPの菌糸が絡まっている様子が観察された。KNB-422-GFPの処理によって、イネ葉鞘へのG. fujikuroi-RFPの伸展が減少し、ばか苗病による徒長等の病徴も抑制されていることから、KNB-422が種子籾殻表面上でG. fujikuroiを食菌し、上部への伸展を防ぐことがKNB-422の作用機作であると判断した。
*クレハ Kureha
日本農薬学会第34回記念大会(2009年3月19日、文京区)口頭発表