要旨
【目的および方法】
バリダマイシンA(VMA)茎葉散布処理および非病原性Fusarium oxysporum根圏処理は、F. oxysporum f. sp. lycopersiciによるトマトの土壌伝染性病害である萎凋病の発病を抑制し、その機構はいずれも抵抗性誘導によると推察されている。本研究では両処理による萎凋病抵抗性誘導機構の解明を試みた。VMA茎葉散布あるいは非病原性F. oxysporum Fo304根圏処理をしたトマトの茎葉と根部における、@全身獲得抵抗性(SAR)マーカーであるサリチル酸の蓄積量、A抵抗性誘導関連マーカー遺伝子の発現状態について調査した。
【結果および考察】
@VMA散布によってトマト茎葉部組織中にSARマーカーであるサリチル酸が蓄積したが、根部組織では蓄積しなかった。これはVMA茎葉散布が根部にはSARを誘導しないことを示した。一方、非病原性F. oxysorum根圏処理トマトでは茎葉・根部のいずれでもサリチル酸が蓄積せず、非病原性F. oxysorum処理はトマトにSARを誘導しないと考えられた。
AVMA散布個体の茎葉組織中ではSARマーカー産生PRタンパク質遺伝子(aPR-1)発現の顕著な増加が見られたが、根部では見られなかった。これは@と同様に、VMA茎葉散布が根部にはSARを誘導しないことを示唆している。非病原性F. oxysorum根圏処理トマトでは、茎葉部、根部共にaPR-1発現の増加は見られなかった。これも@と同様に、非病原性F. oxysorum根圏処理がトマトにSARを誘導しないことを示唆している。一方、非病原性F. oxysorumの根圏処理を行ったトマト根部組織中では、SARとは異なる抵抗性誘導機構に関わるとされるLeCAS遺伝子の発現が増加していた。
上述の結果は、非病原性F. oxysorum根圏処理が茎葉部にも根部にもSARを誘導しない事、トマト萎凋病の発病抑制にはSARは関与せず、SAR以外の抵抗性誘導経路が関与すること、を示唆した。今後さらにSAR以外の抵抗性誘導経路マーカー遺伝子の発現解析を行う予定である。
【謝辞】
非病原性F. oxysporum Fo304は千葉大学園芸学部雨宮良幹教授に分譲いただいた。
日本農薬学会第34回記念大会(2009年3月19日、文京区)口頭発表