赤色蛍光タンパク質(DsRed2)発現イネばか苗病菌と微生物資材Penicillium sp. B422の識別

加藤亮宏・三宅泰司*・堅石秀明*・寺岡 徹有江 力


要旨

【目的】
微生物資材による病害防除の作用機作としては、抗菌物質の生産、食菌・溶菌作用、植物の抵抗性誘導、競合が報告されているが、開発中の微生物資材の作用機作を明らかにしておくことは、資材の有効な利用法の確立や安定化、安全性確保等の観点から重要である。蛍光タンパク質は様々な生物でマーカーとして利用されており、糸状菌の観察にも有効な材料である。蛍光タンパク質発現株を用いた観察によって微生物資材の作用機作や動態の可視化、解析に資することができる。微生物資材と病原体の相互関係を同時に観察するためには、これまでに使用してきた強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)に加えて、異なる蛍光タンパク質を利用する必要が生じる。本研究では、糸状菌用の赤色蛍光タンパク質(DsRed2)発現ベクターを構築し、利用することを目的とした。
【方法】
 糸状菌用EGFP発現ベクターpMK412(Watanabe et al.,2007)をもとに、そのプロモーター(PTEF)領域の3’末端とターミネーター(Tgla)領域の5’末端にそれぞれNhe IおよびBsiW I制限酵素認識サイトを付加したプライマー、pDsRed2(クロンテック)のDsRed2遺伝子の5’側、3’側にそれぞれNhe IおよびBsiW I制限酵素サイトを付加したプライマーを設計し、PCRによってそれぞれのDNA断片を増幅した。これらをクローニングした後、制限酵素で消化して目的断片を分離、ライゲーションした。完成したプラスミドベクターpAK2-HYGを用いてREMI法によってイネばか苗病菌(Gibberella fujikuroi)を形質転換した。
【結果】
 得られた形質転換株は、490〜510 nm+560〜590 nmの励起光照射条件下で明瞭な赤色蛍光で観察された。イネ(品種短銀坊主)にこのDsRed2導入株を接種したところ、DsRed2非導入の親株と同等の病原性を示した。また、接種、育苗後に病徴が現れた植物体を蛍光顕微鏡で観察したところ、子葉鞘内の病原が赤色蛍光によって識別できた。DsRed2導入G. fujikuroi菌糸とEGFP導入済みのイネ育苗時病害用微生物防除資材Penicillium sp. B422菌糸を混合して観察したところ、両者を容易に識別することができた。今後、植物組織における両者の相互作用の可視化、解析に供試予定である。

(共同研究内容)


*クレハ

日本農薬学会第33回記念大会(2008年4月1日、奈良市)口頭発表