Abstract
土壌中に潜在する病原菌の特異検出は、土壌病害防除対策上重要である。rDNA-IGS領域のPCR-DGGEおよびポリガラクツロナーゼ遺伝子上に設計した特異プライマー(Hirano & Arie, 2007)を用いたPCRによって、「多様な土壌微生物」>「Fusarium oxysporum」>「トマト萎凋病菌(F. oxysporum f. sp. lycopersici)」>「病原性レース」と、大分類群から小分類群へ順次に篩い分けすることで識別が可能であることを既に報告した(吉岡ら 2008;静岡大会)。本法は土壌抽出DNA(eDNA)を鋳型とした場合も有効なものの、複数レースが共存する場合には識別が困難である等、実用上の問題点が残されていた。そこで本研究では、Taqmanプローブを用いたリアルタイムPCRによる特異識別法の確立を試みた。(1)rDNA-IGS領域の塩基配列が日本産トマト萎凋病菌ではレース(1〜3)毎に異なること(Kawabe et al. 2005;稲見ら 2008; 静岡大会)に基づき、同領域内の塩基配列多型を認識するプライマー/プローブセットsp1-2f+sp1-2r/sp1-2pr(レース1識別用)、sp2-2f+sp2-2r/sp2-2pr(レース2識別用)、sp3f+sp3r/sp3pr(レース3識別用)、(2)トマト萎凋病菌が特異的に保持する病原性関連遺伝子領域上のSIX1遺伝子(van der Does et al. 2008)を認識するプライマー/プローブセットSIX1f+SIX1r/SIX1pr、(3)トマト萎凋病菌レース1に特有なSIX4遺伝子(=AVR1;Houterman et al. 2008)を認識するプライマー/プローブセットSIX4f+SIX4r/SIX4prを作成した。F. oxysporum菌体から抽出したDNAを鋳型として、(1)によってトマト萎凋病菌を、(3)によって萎凋病菌のうちレース1を、(1)によって日本産トマト萎凋病菌の各レース(1〜3)を特異的に識別できた。さらに、これらのプライマー/プローブセットを用いたリアルタイムPCRが土壌中のトマト萎凋病菌の識別や定量にも有効である可能性、これらプローブのマイクロアレイへの搭載の可能性が示唆された。
*農環研
日本土壌微生物学会2009年度大会(2009年6月、福岡市)ポスター発表。