Abstract
子嚢菌Fusarium oxysporum (FO)は、土壌等の環境に普遍的に分布する。一方、FOには植物病原性菌株も存在する。植物病原性FOの起源は未だ不明である。本研究では、FOの一病原性分化型であるf. sp. lycopersici(FOL;トマト萎凋病菌)をモデルとして、『トマトに定着能を持つ非病原性FOが、トマトの伝播・育種の過程で病原性を示すようになり、FOLが出現した』との仮説を立て、分子系統解析に基づく考察を試みた。
トマト属(Lycopersicon)植物の起源とされるチリ(アンデス高原を含む)、エクアドル(ガラパゴスを含む)に自生する野生種トマト、トマトが栽培化された地として知られるメキシコに自生する移行期トマト、上記3か国と日本、イタリア、アフガニスタンの栽培種トマトの組織および根圏土壌を採集した。これらの試料から、約250株のFOを分離した(以下FO分離株)。これらのFO分離株は、栽培トマト品種に萎凋病を引きおこさず、病原性を持たないと判断した。
分子系統解析には、FO分離株と、既に保有していたFOL菌株およびFOL以外の分化型の菌株を供試し、rDNAのゲノム間(IGS)領域約600 bpの塩基配列に基づく系統樹を構築した。系統樹中でFOL菌株は3つのクラスターを形成した。FO分離株は系統樹全体に分布したが、ガラパゴスで採集した野生種トマトL. pimpinellifolium、メキシコで採集した移行期トマトL. esculentum var. cerasiforme、栽培種トマト由来のFO分離株の一部は、上記の3つのクラスターにFOL菌株とともに含まれた。以上の結果から、FOLがこれらのFO分離株から分化した、もしくは両者が共通の祖先を持つ可能性を示唆しており、先の仮説が否定されなかった。
*理研
**ワシントン州大
***鳥取大学
日本土壌微生物学会2008年度大会(2008年6月、静岡市)ポスター発表。本発表は、最優秀ポスター賞を受賞した。