Abstract
Fusarium oxysporumは交配不全性(asexual)であるが、ゲノム上に交配型遺伝子(MAT1)領域を持ち、MAT1領域に2型(MAT1-1、MAT1-2)が存在し(Arie et al. 2000)、MAT1遺伝子が発現する(Yun et al. 2000)等から、本質的にはself-incompatible(ヘテロタリック)な交配能を持ち得ると想定されている。一方、F. oxysporumの1分化型であるトマト萎凋病菌(FOL)にはMAT1-1とMAT1-2の株が存在するものの、MAT1-1株とMAT1-2株の染色体パターンが異なっている(今井ら2007)。そこで、FOLの交配不全の原因が、「異交配型菌株間の染色体パターンの違い」にあると想定、FOL tomino1-c株(MAT1-2)を用い、染色体パターンが同一で、MAT1-2領域をMAT1-1領域に入れ換えた株を作出し、交配試験に供した。現在までに、素寒天培地、V-8ジュース寒天培地、トマト等の植物組織片を加えた培地を用い、光や温度条件等を変えて入れ換え株とtomino1-c株の交配試験を行っているが、子嚢殻様構造の形成は確認できていない。そこで、MAT1領域を入れ換えた株で形質転換による性状変化が起きていないことを確認するため、培地上での生育速度、気中菌糸の有無、胞子形成、病原性、菌糸和合群(VCG)について調査した。MM培地及びニンジン寒天培地上での生育速度、トマトに対する病原性は親株であるtomino1-cと同等で変化はなかった。入れ換え株の硝酸塩利用能欠損株(nit変異株)を作出し、VCGテスターであるtomino1-c(VCG0033)及び880621a-1(VCG0031)のnit変異株とMM培地上で対峙培養したところ、tomino1-cとは菌糸会合部で菌糸和合したが、880621a-1とは菌糸和合せず、入れ換え株のVCGは親株と同じVCG0033であり、MAT1領域はVCGに関与しないことが判明した。
第9回糸状菌分子生物学コンファレンス(2009年11月18〜19日、文京区)ポスター発表