トランスポゾン挿入によるトマト萎凋病菌の非病原力遺伝子の機能喪失
The loss of function of the avirulence gene AVR1 in the tomato wilt pathogen Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici by transposon-insertion
稲見圭悟・森田泰彰*・寺岡 徹有江 力
Keigo Inami,Yasuaki Morita, Tohru TeraokaTsutomu Arie

Abstract

植物病原菌であるトマト萎凋病菌Fusarium oxysporum f. sp. lycopersiciはトマト品種に対して病原力を異にする3つの「レース」に分化している。トマト品種と萎凋病菌レースの親和性/非親和性は,各品種が有する萎凋病抵抗性遺伝子と各レースが保持する非病原力遺伝子AVRの相互関係で決定される。例えば,レース1はAVR1を持ち,AVR1を認識する抵抗性遺伝子Iを保持するトマト品種はレース1に抵抗性であるため,非親和性の関係である。レース1がAVR1を失うと,Iによる抵抗性が無効化するので,親和性の関係になる。こうして新たなレースが出現する。つまり,AVR1を保持しているのはレース1のみである(Houterman et al. 2008)。2008年秋に高知県日高村でレース1抵抗性品種に発生した萎凋病の分離株KoChi-1のゲノムを鋳型に,AVR1特異プライマーを用いてPCRを行ったところ増幅が見られた。しかしその断片(約1500 bp)はレース1から得られる断片(約700 bp)よりも大きかった。KoChi-1から得られた断片の内部には759 bpのトランスポゾンが挿入され,AVR1のORFが破壊されていた。本トランスポゾンはhATファミリーに属し,トランスポザーゼをコードしない非自律性のものであった。また,Broad Instituteのゲノムデータベースによると,F. oxysporumのゲノム中に同様のトランスポゾンが70コピー以上散在していた。KoChi-1のゲノムにレース1由来のAVR1を導入した形質転換株は,AVR1に対応する抵抗性遺伝子Iのみを保持するトマト品種に萎凋病を引き起こせなくなった。従って,KoChi-1はトランスポゾンの挿入のためにAVR1としての機能を喪失していることが明らかになった。この様にトランスポゾンが挿入されたAVR1領域は調べた限りのトマト萎凋病菌にはみられず,病原性進化の一つの視点を示すものである。

*高知県農林技術センター


第9回糸状菌分子生物学コンファレンス(2009年11月18〜19日、文京区)ポスター発表
*優秀ポスター発表賞受賞*