Abstract
トマト萎凋病菌 (Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici : FOL) レース 2 は,トマトの持つレース 1 抵抗性遺伝子 (I) による抵抗性を打破することでレース 1 から分化したと考えられる.FOL レース 1 NBRC 6531 ゲノムにREMI法でpHYG-EGFPを挿入した形質転換体 (X-83) は,本来レース 1 に抵抗性の品種 (I) に対して病原性を示した.つまり,レース 2 と同様な感染反応を示す病原性変異株 (X-83) が人為的にレース 1 から誘導された.これは,遺伝子対遺伝子説 (Flor,1957) に従うと,トマトの抵抗性遺伝子Iに対応するNBRC 6531の持つ非病原性遺伝子AVR1がX-83で破壊されていることで説明できる.プラスミドレスキュー法でpHYG-EGFP挿入部位周辺領域を解析した結果,NBRC 6531ゲノムにはプラスミド挿入部位を挟み,キュウリモザイクウイルス (CMV) 外被タンパク質RNAと高い相同性を示す配列 (265 bp, 47 bp) がinverted repeatで存在し、さらにこれらと隣接して,class II transposable element (TE) 等に特徴的なterminal inverted repeat (TIR) 様配列が存在することを見出した.F. oxysporumで既報のclass II TEであるimpalaとの相同性は低かった.この領域はレース 1 菌株のみに存在していた.NBRC 6531株で同領域を二回相同組換えで破壊したところ,レース 1 抵抗性品種に対する病原性が再現されたことから,この領域がFOLレース 1 の非病原性決定領域 (AVR1) であると判断された.菌類のゲノムにおいて植物ウイルスRNAと相同性を持つゲノム領域は初の報告である.また,FOLのレース分化 (レース1 →レース 2) を人為的に誘導した初の報告である.
*農環研
第4回糸状菌分子生物学コンファレンス(2004年11月4−5日、仙台市)ポスター発表