イネいもち病菌の交配型遺伝子領域の構造と交配型依存新規転写物MAT 1-1-3およびMAT 1-2-2について
Structural analysis of mating-type (MAT) locus and mating-type-dependent novel transcripts, MAT1-1-3 and MAT1-2-2, in rice blast fungus, Magnaporthe grisea
金森正樹・加藤ハナ・寺岡 徹・有江 力
M. Kanamori, H. Kato, T. Teraoka, T. Arie

Abstract

これまでに、複数の子嚢菌において、菌株の交配型を決定する交配型遺伝子(MAT)領域の存在が確認され、MAT領域には異なる二型(イディオモルフ)が存在することが報告されている。すなわち、菌株の交配型は、MAT領域上に、alpha-boxモチーフを持つORFが存在するMAT1-1、あるいは、HMG-boxモチーフを持つORFが存在するMAT1-2のいずれのイディオモルフを持つかで決定される。そこで、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)の日本産株が、交配能不全(asexual)である原因を明らかにする目的で、日本産株と外国産交配可能株(中国、米国)からそれぞれMAT領域を取得し、MAT領域の遺伝子構造について比較を行った。その結果、日本産株と外国産株のMAT領域の塩基配列は高い相同性を示しており、MAT領域上にコードされている遺伝子の構造やアミノ酸配列もほぼ同様であった。このことから日本産株の交配能不全がMAT領域の構造上の相違とは関係が無いと推察された(日本植物病理学会H13, 14大会で一部発表済み)。さらにMAT領域周辺を詳細に検討したところ、交配型依存新規ORFとして、MAT1-1イディオモルフ付近にMAT1-1-3が、MAT1-2イディオモルフ付近にMAT1-2-2がそれぞれ存在すると推定された。両遺伝子は、5'-側の一部がそれぞれのイディオモルフ上に存在し、それ以降はフランキング領域上でリーディングフレームを共有するため、予想されるタンパク質のアミノ酸配列もN-末端の一部を除き大部分が共通であると考えられた。両遺伝子が交配型特異的に発現すること、両遺伝子がalternative splicingによって転写制御を受けている可能性もRT-PCRによって示唆された。また、MAT1-1-3遺伝子のプロモーター領域内には、菌株によって反復数の異なるCT-repeat配列が存在することを見出した。


日本菌学会第48回大会(2004年5月、長崎県長与町)口頭発表