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紫陽花2020 

  齢を重ねたこともあるし、今回の非日常のせいかもしれないが、昨今自然の尊さに惹かれ、不変性という素晴らしさに無意識のうちに救いを求めているようだ。前回の記事で小金井キャンパスを彩る花々を紹介したが、これから梅雨を迎えるにあたって、春から夏の季節のファイナルを飾るのが紫陽花である。その昔・・、保育園では折り紙で作ったこと(小さい田の字を作って貼り付ける)は確実に記憶があるが、その葉の上のカタツムリをクレヨンで書いたか、やはり折り紙で作って貼り付けたかは忘れてしまっているが。小学校のころ、校舎と校庭の間に、二宮金次郎の像とともに紫陽花がたくさん植えられていたことも確実な記憶である。紫陽花に限らず、身の回りの生命の美しさに惹かれる感性をいつのころか失い、随分と長い時間が経った。これまでの人生を18年毎に区切った場合、第1コーナーを回ったところで完全に失い(いろんなことに対応しなければならず、余裕がなかったのだろう)、第3コーナーを回ったあたりから、やっと思い出したような気がする。「生物に学び、新しいシステムを創る」をスローガンとした所属学府の構成メンバーとして、ちょっとマズイ気がするが・・。

     

 5月の中ごろだっただろうかBASE本館前でこんな写真を撮った。これが紫陽花の走りかなと思っていたが、これは「ホンアジサイ」ではなく、我が国に自生していた原種の「ガクアジサイ」であることを知った。周りにあるのが萼(ガク)が変化した装飾花で、中心部には雄蕊も雌蕊ある両性花がある。最近、見ると装飾花は青くなり、両性花を開花していた。

  

  一方、カタツムリとセットで記憶の中にある「ホンアジサイ」は図書館裏のRI施設の前にある。ほとんどが装飾花で、増やすには挿し木をしなければいけない。

  

 紫陽花は酸性土壌で育てると花(実際は萼)は青くなり、酸性条件下で溶解してくるアルミニウムイオンと関連していることは古くから知られていた(右下の黄緑は、葉緑素が分解しないで残存しているのと、青の基盤となる色素の生合成が進んでいないからだと思われる)。名古屋大学の研究グループの昨年の論文によると、青色の花(実際には萼)には化合物1のアントシアニン系の色素とアルミニウムイオン、化合物2(キナ酸の5位の水酸基とカフェ酸とがエステル結合したもの)の1:1:1錯体が青色の本質であることをcryo-TOF-SIMS (低温飛行型2次イオン質量分析法)により示した(青色細胞の存在する場所と想定した青色錯体分子の存在イメージが一致)。赤い花からは青色錯体もアルミニウムイオンもほとんど検出できないという。いずれにしても酸性で青、中性塩基性で赤になるということで、リトマス紙とは反対なので混乱しませんように・・。

   

  

 セットであるべきカタツムリは大学では見つけられていないが、先日自宅でローリエの枝を払っているときに、安住の地を奪われて、慌てて移動しているカタツムリを偶然見つけた(気の毒である)。枝を払うのはいつものことだが、自宅でカタツムリを見たのは初めてだと思う。おそらく今までもそこには存在していたのだろうが、目の曇った自分には見えていなかったのだと推察している。自然に対するちょっとした意識の相違がそうさせたに違いない。マインドの問題で見えないものが見えるようになることは、サイエンスの世界でもあるような気がします。ちなみに紫陽花の葉には下の示したような青酸配糖体が含まれ、カタツムリも葉っぱを食べたりしないようです。

     

      

おまけ(今回は植物系を題材としてのロジックの問題です)

庭に草花がたくさん植えてある。これらの草花について次のことがわかっているとき、確実にいえるのはどれか。

・色の鮮やかでない花は、葉が多くない。

・形の小さな花は、春咲きである。

・色の鮮やかな花は、草丈が高い。

・色の鮮やかでない花は、春咲きでない。

1.色の鮮やかでない花は、形が小さくない。

2.形の小さい花は、草丈が高くない

3.草丈の高い花は、葉が多い。

4.葉が多い花は、春咲きである。

5.春咲きでない花は、草丈が高くない。

 

解答 1

色の鮮やかな花p、葉が多いq、形が小さい花r、春咲きs、草丈が高いtとすると、各条件から

 (2020.6.7)