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開く

 2月は各種の学内の発表会が集中する怒涛の月である。主体は学生諸氏であって、彼らが大きく成長するシーズンで、私たちスタッフはそれを全力でサポートする。発表会というと付き物が予稿の作成であり、A4一枚とか二枚とかに研究を纏めるという作業である。限られたスペースの中にエッセンスを余すことなく入れ込むことは、難しいことだし、正確で曖昧さの残らない文章でというのは、以前書いた原著論文と同じである(論文について)。ただこのような予稿原稿(卒論、修論も)は日本語で書くのが普通であり、上記のことの前提として「正しい(自然な)日本語で」というのがベースにある。主述の一致とか、主述は近くに配置などもさることながら、最後まで難しいのが漢字の使い方であろう。

 日本語は表音文字(仮名)と表意文字(漢字)のコンビネーションで成り立っている稀有な言語であり、そこのバランスの取り方に難しさがある。もちろんガイドラインはあり、公用文書の場合は、常用漢字(私たちの世代では当用漢字といったが)は漢字で・・・というのが基本であるが、科学技術の文書では別な分野依存のスタンダードがあり、「明確にその漢字の本来の意味として使用していない語句」は,平仮名で書くというのが原則であろう(漢字で書かれたものを、仮名に直すことを「開く」というが、学生諸氏の文章の添削時には、「閉じる」よりこの「開く」作業が多くなる。ある意味「大勢に影響がない」ことであるが、「正確で曖昧さのない」という意味があるのだろう。

 学生諸氏の文章で頻出の修正(開く)は下記のとおりである(外部サイトに詳しいので検索をかけてみてください)。

 ・分かる、分かった→わかる、わかった(本来の意味と違う)
 ・~する時→~するとき(同上)
 ・出来る→できる(仮名表記が定着している)
 ・~と言う方法→~という方法(口に出すわけではない)
 ・~の様に→~のように(仮名表記が定着している)
 ・殆ど→ほとんど(常用漢字外)
 ・予め→あらかじめ(同上)
 ・更に→さらに(仮名表記が定着している)
 ・する事→すること(仮名表記が定着している)
 ・及び→および(仮名表記が定着している)

等々、でも結局曖昧だし、時代で変わっていくのだろう。

  別件と言えば別件だが漢字は表意文字という認識だろうが、そうでないものも結構あり、日本語の用法をさらに複雑にしている。昭和31年という太古の昔に国語審議会は、「書き換え文字一覧」を定め、当用漢字でない漢字を「同音の漢字による書きかえ」をした。国語審議会の報告にはないが、新聞や学術用語集で用いられているものもある・・・。

 私たちのような化学とその周辺の人がよく使っているものを書き出しておく。いまさらなんの意味もないが・・・。

醋酸→酢酸、沈澱→沈殿(澱はオリとかカスのこと)、廻転→回転、醱(醗)酵→発酵、蒸溜→蒸留、滲透→浸透、浸蝕→浸食(日蝕とか月蝕とか腐蝕とかも同じ・・確かに意味がわからない腐ったものを食べるとか・・)、交叉→交差、涸渇枯渇、褪色退色、稀釈→希釈(希塩酸とかも同じ)、尖鋭→先鋭、疏水→疎水、註→注(注文とか)、手帖→手帳(黒革の手帖とか)、厖大→膨大、熔解→溶解、理窟→理屈、諒承→了承、煉炭→練炭、等々。

 なんとなく決まったものとして・・

遵守→順守(自分のころは、遵守だったが)、分溜→分留、膨脹膨張、共軛共役(軛はくびきのことで、並列の牛とか馬とかを繋ぐ木製の器具で舵につながる)、鳥瞰鳥観、斑点→班点、洗滌→洗浄(後者の洗浄はもともと、仏教用語で心身を洗い清めること)など。

 やっぱり「沈殿」とか「共役」の「意味のわからなさ」が強烈ですよね・・・。

 

 またまた話が変わって・・・、辞書で「開く」を調べると後のほうに出ている意味として、上記の「原稿の、文章中の漢字をかなに書きなおす。」とともに、下記の理系っぽいものがある。

 「数学で、平方根・立方根を求める。また、括弧(かっこ)付きの式を括弧のない形に変える。」

(デジタル大辞泉)

 これの前半部分で、平方根を求めることを開平方(英語ではextraction of square rootopenではない・・)。自分らの世代では、確か中学生のときに習ったと思うが、先日、10歳ぐらい若い同僚に「知らない」と言われ、「生きた化石」のように遇われた(あしらわれた)。

 たとえば21の平方根を求めることを考える。

Step 1

 下の図のように小数点を基準に2桁ずつに区切り、平方して最上桁の21を超えない整数は4なので4を図のよう右側に1つ、左側は立てに並べて2つ、計3つ書く。右では4x4を計算し、21の下に書き、普通の割り算のように引き算して5とする。さらに00を下ろして500とする。左側では4+4を計算して8とする。同様に3つ想定しておく。

 Step 2

8xを計算して、500を超えない最大の整数を決定する。5と決定でき、Step1と同様に左側では85+5を、右側では500-85x5を計算し、得られた7500を下ろして、7500とする。同様に3つ想定しておく。

Step 3

90xを計算して、7500を超えない最大の整数を決定する。8と決定でき、Step2と同様に左側では9088を、右側では7500-908x8を計算する。。

   以下同じステップで所望の桁数まで計算を続ける(答えは4.58257569495584・・)。

  

         

最初に見る方には、なんだかよくわからない計算だと思うし、例によって自分らも機械的に計算をしていたわけだが、少しだけ原理的な部分を・・・

 下図からもわかるとおり、開平方は面積が21の正方形の辺の長さを求めることは等価である。最初に最も大きな正方形を決め(長さ4)、残りの部分を2つの長方形と一つの正方形の和として埋めていく(21-165を超えないように)。長方形の辺は4m/10で正方形の辺はm/10である。4を足すのは長方形が2つあることに対応していて、8xという積は、全体を100倍していることを意味していて、面積5を超えないことと8x500を超えないことに対応させている。次のステップでnを求めるのは、辺4.5の正方形の残り部分を同じプロセスでオレンジ色の部分の面積から・・・・。

  確かに電卓があれば、0.5秒でできる計算というわけで、教育課程から消えたのだろう。

おまけ 犬の走る距離(頭の体操、改題)

 仲のよい飼い主Aと飼い犬Bが、それぞれ3 km離れたX点、Y点にいる。今、同時に飼い主AY地点に向けて60 m/minで、飼い犬BX地点に向けて180 m/minの等速で直線間を動き始めた。飼い犬Bは、直線XY上で飼い主Aに出会うと、すぐに向きを変えて、Yに向かって同じ速さで戻り、Yに戻ると即時に同じ速さでX方向に向かい、再び飼い主Aに出会うと同じことを繰り返した。飼い主AYに到着するまで、飼い犬Bの走った距離はいくらか?

解答例

飼い主AXからYに到達するのに要する時間は50分。飼い犬B50分走るので、飼い犬B9 km走る(答)

   最初の時点で発想できないと下のような解答となる・・・。
(答えは同じだが、労力が100倍以上かかる・・・)

別解)

飼い主Aと飼い犬Bが最初に出会うのは、

2回目 1回目に出会った時点はX点から60 x 12.5= 750 m離れた地点である。そこからt2分後に再び出会うとすると、

3回目

一般にn回目には

 

ここで

とすると、

 なので、上の式 は、

と変形でき、結局次の漸化式が得られる 。

が得られ、極限をとると、飼い犬B50分間走り続けることになる。したがって、飼い犬B9 km 走る(答)

(2020.2.24)