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フレネルの功績

「原理・原則からの思考」の重要性については常々、言ってまわっているわけだが、この雑文のテーマの一つであるサイエンスの解釈・解説の中で、「詳細は後日また・・」といって体よく端折っていることが何回かあって、完全に労を惜しんでいるわけで恥ずかしい。この「原理・原則からの思考」に関しては、高等学校時代に小林秀雄先生の「文芸批評の行方」に次のような一節を読んだことにより、「いい話だなー」と思ったことに端を発していたのだが、高校時代は「大学へ入ったらゆっくり・・・」と後回しにしていて、最近やっと「生き方」のアルゴリズムの変更により、そのことを思い出し具現化する努力を始めているのだが・・・。

以下引用
・・・考えてみるとぼくらの知識のうちで、省みて確実に自分のものになった知識がいくらあるであろう。そういう質問すら教養人は自分に課することを忘却する習慣がついてしまっている。太陽のまわりを地球が回っているという知識はだれでも持っているが、その知識の確実さを保証しているものは、その真理たることを確実に知っている少数の人間がいるというばくぜんとした信仰以外にはない。・・・・
引用終わり

 反射率の偏光依存を紹介した雑文で、式の導出を例によって「別な機会に・・」としていたら、2019年が終わってしまった。完全ではないが、今回から何回かに分けて、下の「おまけ」に導出を示すことにした(今回はMaxell方程式から光の波動方程式の誘導を)。例えば空気から水中に光が進入するとき、入射光の一部分は境界面において反射され、一部は透過する。反射と透過の割合は屈折率、入射角度、光の偏光に依存して変化するが、それを定量的に表すのがフレネル(Fresnel)の公式である。

 フレネル(Augustin Fresnel, 1788-1827)は光が横波であることをベースとした波動説をとり、上で述べた光の界面での挙動や光の回折や複屈折現象など、光学に関する理論的研究を行った。と同時に、フレネルレンズを発明するなど実用的な研究でも功績が大きい。

   

(著作権フリー画像、Augustin Jean Fresnel。フランスの物理学者で名前の通りフレネルレンズの考案者である。光学に関してたくさんの業績があるが、病弱で39歳という若さで他界している)

 このフレネルレンズだが、下図のように薄く平らな樹脂板に、階段状かつ同心円状に鋸波型の溝が刻まれている。この例は凸レンズで拡大鏡として機能するが、同一焦点距離の場合、板厚の薄いフレネルレンズの光線透過率は、ガラス製のレンズよりも通常高いため、太陽光の集光や、今や絶滅の危機にあるがオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)の拡大投影用レンズとしても使われている。
 
        

(通常のレンズの曲面の部分だけを残し、平面上にしている。圧倒的にレンズを薄く軽量にすることができる。回折などの光学現象の影響で像の質は低下する。そのため、照明用のレンズとして用いられることが多い。フレネルも灯台のレンズとしてこれを考案した)

 先日、国分寺の文房具売り場をうろうろしていて、たまたま見つけたカードサイズの「シートルーペ」を購入した。表面をよく見ると同心円状に筋が入っていて、上述の「フレネルレンズ」であることがわかる。近年の自分は近眼のメガネをかけたままだと本も読めないぐらい視力関係はボロボロであるので、このフレネルレンズがひょっとしたら役に立つかもというわけでゲットしてみた。ちょうど10年ほど前に、実験でガスクロをとろうとマイクロシリンジを手にしたとき、目盛が読めず愕然とし、最近では鋏で金属ナトリウムを細かく切ろうとしたときに、焦点が合わないという事態となり実験屋としての命運は将に尽きようとしている・・・。
 こういったタイプのマイナスの話題は、同年代の方とのみ共有できるのであって、そんな話をすると同士的な感覚から、面白可笑しく共感できる場合もたまにあります。

       

  (ちょっとわかりにくいが、拡大鏡になっています。蛍光灯が写り込んでいるのは、界面の反射ですね。ただ界面が平坦で滑らかでないので話はさらに複雑な感じです)


おまけ Maxwell方程式から波動方程式の誘導
 物理的な意味が直感的にわかりにくい(ごめんなさい。ここはまた次回・・)真空中のMaxwell方程式は以下で与えられる。

  
(1)、(2)はそれぞれ電場と磁場のGaussの法則、(3)はFaradayの法則、(4)はMaxwellの補正を受けたAmpèreの法則を表す。Eは電場、Bは磁束密度、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、Jは電流密度を示す。真空中の電磁波を考えると、電荷密度、電流密度ともにゼロとおけるので、上式は次のように書き換えられる。

   

 ここで最後の式を時間で偏微分すると

              

3番目の式を代入すると

            

わかりやすくするために成分表示してみる。


ここで

       
である。第一の式から なので

   

が得られる。Maxwell方程式の三番目の式を偏微分して・・・とゴチャゴチャと同様な計算を実行すると

        
が得られ、電場も磁場もある方向に進行する波動方程式となっていることがわかり、波の進行速度が であることを意味している。


この値は光速に等しくなる。
(つづく)

(2020.1.5)