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ポリビニルアルコールについて③-偏光フィルムを使った実験②-
 

自然科学に限らず学問全体として、「原理・原則からの思考」は、先人の偉業を学習し体系を理解したり、研究の中で現象を解釈するうえでも、とても重要である。わかりにくい話で恐縮だが、一年生向けの有機化学1の教科書でも、いきなり「原子軌道」の話が飛び出してきて、「1sは球状で・・」とか「2p軌道は縮重していて・・・」のような類のことが、なんの前触れもなく語られても、学生諸氏の学習意欲は通常減退すると思うし、個人的にも「原理・原則からの思考」を標榜している手前、気持ちのよいものではない。そのため、量子力学のさわり(要点)だけでも紹介して、「今まで考えたことがなかったこと」から、先人たちが長い時間をかけて導き出してきた結論であることを、理解してもらう努力はしているのだが・・・、逆に学生さんの評判は今一つといのが現状で、もう少し頑張ります。そのほか、同じく有機化学の「光学活性とは直線偏光の方向を回転・・・」とか、分析化学の酸化還元のところで、ネルンストの式とかが登場しても、あまりに突然過ぎて、ちょっと説明をしてみたくなる。
 そんな意味からも、前回の記事の反射係数の偏光依存の式は、1s軌道の話と同じくらい唐突であり、個人的にはたいへん釈然としない書きっぷりであったと反省しています(完全に労を惜しんだものなので、近日中に追記するか、新しい記事にします)。
 
 そんなことを思いつつ、できるだけわかりやすく前回(中学生向け実験)の後半の解説を・・・。
 下図の写真の通り、2枚の偏光フィルムを暗くなるように(透過軸が直交するように)重ね(直交ニコル)、あいだにセロテープシートを挟んだもの(左)、偏光フィルム明るくなるように(透過軸が平行になるように)重ねたもの(平行ニコル)に挟んだものの(右)の写真である(数字は重ねあわせたセロテープの枚数である)。

   


ここからわかることは下記の通りである。
 
 ・直交ニコルでも光が透過してくる
 ・枚数で色が変わる
 ・直交ニコルと平行ニコルで色が違う

 まず、セロテープ(レジ袋も同じだが)は、加工プロセスの中で、「延伸」されておりPVAで書いたように分子が配向していると考えられる。一軸方向に配向試料の場合、配向方向とそれと垂直方向では、屈折率が異なる(複屈折)。直線偏光をZ軸からθだけ傾けて入射すると、この直線偏光をZ軸方向に振動電場を持つ光とX軸方向の光に分解して考える。Z方向とX方向では屈折率が違うので、それぞれの光のY軸方向への伝搬速度が異なる(例えば水の屈折率が1.33とすると水中では、真空中と比較して光の伝搬速度は1/1.33になるように)。速度が違うということは、セロテープ内の波長が異なることを意味しているので、セロテープから出てくるときには、Z(テープの長手)方向とX方向(テープの幅)方向で、位相差(山とか谷の位置がずれる)が生じることになる。
          





 一般的にY方向に進行し、角周波数がωで波数k(波長λのときλ=2π/k)の光は下のように記述できる。

  

 光がセロテープ中をy=0からy=dに進行したときの位相差は下記のようになる.。



 実験では直交ニコル(透過軸が直交する方向)で
2枚の偏光板を用意し、そこにセロテープを45°の角度で挿入するとしたが、下図のような一般化した状況を考える。

  

 室内光は
1枚目の偏光板(偏光子)で、直線偏光となるが、この偏光面とZ軸がなす角度をθとして、2枚目の偏光板(検光子)はβだけ傾けて配置する(検光子と偏光子のなす角度はα=θ-βである。

 セロテープから出射してきた光をやはり、X,Z方向の成分にわけ、その合成波の検光子の透過軸方向の成分の強度を求めることを考える。2つの出射光(合成波はQとなる)の検光子の透過軸方向の電場ベクトルは、検光子の方向の単位ベクトルをeAとすると、それぞれ

  

   

となる。ただし、図からわかるように

  

である。合成波は

  

となり、その大きさは

  

になり、この値が検光子を通った後の、出射光の強度に比例する。
(複素数の絶対値の計算には、

  


などの公式が使えます)

 上で求めておいたE1E2を代入すると

  


となる。今回の実験では、偏光子と検光子を直交または平行に配置した。直交のときは、α=θ-β=90°であるからβ=90°+θとなるので、




と簡単になる。
 また平行のときは、α=θ-β=0なのでθ=βとなる。これより




と求められ、上で求めた位相差をそれぞれ代入すると、直交のとき、

   

平行のとき、

   


Γndであり、リタデーションと呼ばれる。θに関しては45°のとき、強度(コントラスト)が最も強くなることがわかる。
 直交ニコルの場合、θを0°または90°とすると(光学軸と偏光板の透過軸が一致したとき)、透過光はゼロになる(黒)。平行ニコルでは、光学軸と透過軸が一致、もしくは90°の場合、すべての光が透過してくることになり、透明に見える。
 セロテープの枚数を増やすとdが増加することで、リタデーションも増える。下の図は、様々なリタデーションを想定したときの、計算で求めた透過光強度の波長依存性である。また、直交ニコルと平行ニコルでは、透過のパターンが逆になるので、互いに補色の関係となる。

  

  


(これまでの解説では、屈折率の波長分散に関しては無視しています)

というわけで、ゴチャゴチャと書いたが、今回は、結局、自己満足+大人向けの解説であって、中学生向けの解説には、全くなっていない。偉そうに煙に巻くのは、良いことではないので、もう少し簡単な言葉で説明できるようにしないといけないです。

おまけ 
問 1辺24 cmの正五角形の内側に、各頂点を中心として各辺を半径とする円を描きました。このとき、図の色の付いた部分の周囲の長さを求めなさい。

   








解答例

下図で△OAPと△OBQはともに一辺が24 cmの正三角形である。∠AOB=∠AOP+∠BOQ-∠POQ=60°+60°-∠POQ= 108°∴∠POQ=12°弧PQの長さ=24× 2 ×π × 12/360=(8/5) π
したがって、求める長さは(8/5) ×π×5= 8π cm (答)

   

(2019.8.18)