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身の回りに飛び交う言葉

 前回は方言について紹介したが、言葉についてもう少しだけ・・・。
 略称系に関しては、一般的なものから、(方言と同じく)地域限定、化学とか有機とか高分子の業界限定のものまでさまざまである。それぞれ独特のワールドが展開されているようだが、いろいろと鑑みてみると、どうもフルネーム6-7文字(音節)あたりに境界があって、それを超えるワードに対しては、発音するのが面倒臭くなり略称が使わることが多いように感じている。身近のところで例示すると「武蔵小金井」は「ムサコ」、「東小金井」は「ヒガコ」(この辺の人限定?)、「武蔵境」は「サカイ」、「西国分寺」は「ニシコク」、「西荻窪」は「ニシオギ」というが、「高円寺」、「阿佐ヶ谷」、「荻窪」を略して呼んでいる人を見たことがない(国分寺、吉祥寺は意見が分かれるが、若い人は省略しないようです)。
 
 人名については、歴史上人物、文豪など略して呼ぶ場合、そのアイデンティティーが失われない範囲内で姓を省略したり(尊氏、信玄、信長、秀吉、家康、吉宗、漱石・・・)、名前を省略したり(太宰、芥川・・)、愛称を使ったりする(水戸黄門、米将軍または暴れん坊将軍・・・)。有名人なので個性を失わないことが肝要で、太宰治のことを、「漱石」のように「治」と略すと完全にどこのだれかわからなくなるので、そう呼ぶ人はいない。

 研究室(農工大、化学業界、高分子業界)でもいろんな略称や独特の言葉が使われる。
 全体的に使用頻度が多いものには、以下のようなものがある。

1)生活系
いわずと知れた「ノウコウダイ」→国立大学法人東京農工大学
同じくいわずと知れた「ベースBASE」→大学院生物システム応用科学府(世間では、バンドのパート、百歩譲って塩基のことをいう)
「ノウブ、コウブ」→農学部、工学部
「ユウザイ」→有機材料化学科(世間では、罪深いことを表す)
「カシツ」「カシス」→化学システム工学科(世間では、不注意でしでかすこと、または湿度を高めることカシスオレンジのほうでした
研究室の某林さんが間違いを指摘してくれました。ありがとうございます。10月22日訂正)
「ボルハルト」→「ボルハルトショアーの有機化学」

2)溶剤試薬系
「クロホ」→クロロホルム
「重クロ」→重水素化クロロホルム
「クロベン」→クロロベンゼン
「メチクロ」→メチレンクロリド
「酢エチ」→酢酸エチル
「メタキシ、パラキシ」→メタキシレン、パラキシレン
「メタ、エタ」→メタノール、エタノール(5文字だけど・・・)

「IPA、THF、DMSO、DMF、HMPA、NMP、DMAP、NBS、DCC、TMS、DVB、AIBN、BPO等」溶媒、試薬のアルファベット系各種(3文字が多いが4文字も散見され山のようにあり、worldwideなものも多い。薬品名は「基本長いこと」の証左だろう)

[マニアックなところでCNSL→カシューナッツシェルリキッド、TPA→トリフェニルアミン、TBS→t-butyldimethylsilyl基(世間一般では某テレビ局)、TPP→tetraphenylporphyrin, triphenylphosphine(世間一般では、環太平洋パートナーシップTransPacific Partnership Agreement)、SDS→sodium dodecyl sulfate(どちらも化学業界系で甲乙をつけるのは微妙だが、safety data sheet、安全データシート)]

3)ポリマー系
ポリマーに関しては基本、アルファベット略称が使われるが、カタカナ系の愛称もある。
「PE、ポリエチ」→ポリエチレン
「PP、ポリプロ」→ポリプロピレン
「PVC、塩ビ」→ポリ塩化ビニル
「PS、ポリスチ」→ポリスチレン
「PMMA、特になし」→ポリメタクリル酸メチル
「PVAc、酢ビ」→ポリ酢酸ビニル
「PVA、ポバール」→ポリビニルアルコール
「PET(ローマ字式にペットと呼ぶので特になし)」→ポリエチレンテレフタラート
「PC、ポリカ→ポリカーボネート」
「PEO」→ポリエチレンオキシド
「PVK(若干マニア向け、carbazoleのCは使わない。きっとPVCのほうが、先取りだったのだろう)」→ポリビニルカルバゾール
「P3HT(研究室のキーマテリアルだが、ほぼマニア向け)」→ポリ(3-ヘキシルチオフェン)
「PBTPA(同上)」→ポリ(4-ブチルトリフェニルアミン)

4)実験操作系
「エバポ」→エバポレーター
「サイケツ」→再結晶(世間では、血液を採取すること)
「ラー(LAH)還元」→LiAlH4による還元
「ATRP」→原子移動型ラジカル重合
「GTP」→グループトランスファー重合

試薬類と同じで、測定系にはアルファベット3文字、4文字系は星の数ほどあります。
「TLC、NMR、IR、UV、HPLC、GPC、GCMS、DSC、XPS、XRD、SEM、TEM、SCLC(マニア向け)、PR(マニア向け)・・・・」、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)は液クロ、GCはガスクロとも称されるが、TLC(薄層クロマトグラフィー)を薄クロとは言わない。SEMとTEMは併せて電顕だが、これは認知度が高い方だろう。相当マニアック系だがPR測定というと、当方ではフォトリフラクティブ(photorefractive)効果の評価となるが、世間一般ではpublic relationsであり、宣伝と広報的なものを指す。

5)よくわからないもの
「ポリメる」→重合する(例:このスチレン、ポリメっていて使えない)
「シャビシャビ」→粘度が低いこと
「死んでいる」(物騒である)→(触媒等の)活性が失われていること
「殺す」(物騒である)→(触媒等の)活性を失わせること
「モレキュールする」→(液などが)漏れること(例:ここでモレキュールしているのでダメだね)
「デニーず」→でないこと(例:期待していたのにピークがデニーずだなー)
(最後の2つは私しか使わない死語かもしれない)

ここまで読んでくれた人に、お詫びのおまけ・・・。

問)次の●で示した角度の合計は?


   


解答)
180x7-360x2=1260-720=540 (度)
(角度●を含んだ小さな三角形の角度の合計180x7=1260。●印でない2つの角の和は中の7角形の外角の倍なので解答が得られる)

(2018.10.21)