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自分になにができるのか?
(注:繊維学会誌2016年9月号に寄稿した文章を一部改訂したものです。2年前に思っていたことですが、今とは若干テイストが違う気がしています)
 

月日の流れるのは速いもので、自分では若い若いと思っているうちに気づいてみたら50代に突入しています。最近の日経ビジネスの記事では1957年から1966年に生まれた人たちを「ゆでガエル世代」と名付けていて、1963年生まれの筆者は、まさにこの「ゆでガエル世代」の一員であります。カエルを常温の水に入れ徐々に熱していくと水温の変化に気が付かず、ゆで上がって死んでしまうらしく、社会の変化についていけない世代というあまりありがたくない役回りです(自分自身「まず改革ありき」の風潮には釈然としないものを常々感じていて、納得せざるを得ない部分も多々ありますが)。人類は古来より、世代論とか若者論が好きなようで、「今時の若者は・・・」というフレーズは、古代エジプト時代から言い続けられているようです。加齢とともに「今時の若者は・・・」と言ってしまうのは、自分が年をとって世の中に追いつけなくなってしまったときに、若者を異質と見なし、自分は異質でないという自己を肯定する思考由来であるという手厳しい指摘もあります。

 バブル崩壊、失われた20年を経て、社会システムの中での年功序列が崩壊してきているうえに、上記のような頼りがいのない世代ということですが、やはりいろいろなコミュニティーにおいて年相応の役割というものはあるべきという感覚と義務感は持っております。本年6月より、伝統ある繊維学会の副会長を仰せつかって「自分に何ができるのか?」ということを改めて少し考えてみたいと思います。

 まず私も大学人でありますので、当たり前のことなのですが、人類の歴史の中で培われてきた「知」を若い世代に継承し、「知」を創造していくことの重要性を説いていく義務があります。早速「今時の若者は・・・」となってしまうのですが、最近の学生諸氏に接していると授業に対して「わかりやすさ」を異常に求めることが多いように感じます。「最低限の努力でよい成績を」ということなのでしょうが、額に汗して考えて自分で理解するというプロセス無しでは本当の実力はつかないというのが持論です。研究室の学生(4年生と大学院生)でも同じであって、最低限の実験で「結果」を求める傾向が強く、ある程度、結果が期待できること以外は、なかなか手を出そうとしてくれません。この「行き過ぎた損得勘定」は若者固有のものではありません。日本型雇用システムや地域コミュニティーの崩壊は、「人をコスト」として見ること、「義理人情はお金にならない」という考えを、それぞれ具現化したものと捉えることができます。研究者の世界でも、研究予算の獲得のための申請書やプレゼンテーションにおいては、領域の専門家以外の人(例えば各省庁の担当者など)にわかりやすく最先端のサイエンスを説明する必要があり、「緻密な論理展開」より「感覚的なわかり易さ」が重視されます。わかり易さと引き換えに重要な何かを失っているように感じます。
 
 話が散漫になりましたが、「損得勘定」に勝る「価値観」を学生と共有していく努力をしていくことをなくして、真の意味での「知」の継承はできないと思います。付け加えて、所属する東京農工大学の一教員として、本学が国の基幹産業であった蚕業、繊維産業を学理の面から支えるとともに、それらの産業界に多くの人材を輩出してきたことを、機をみて学生諸氏には伝えていかなければと考えております。
 さて繊維学会の企画担当の副会長として、「何ができるか、何をするべきか」について書かせていただきます。繊維学会に限らず、多くの学協会では会員の減少が問題になっています。その背景には、少子化による若い世代の人口減をさることながら、電子媒体による情報伝達が主流となり、情報の共有化も容易になったことが挙げられます。そのため、若い世代を中心に、「学会に参加する意義」を見出しにくくなっているからと推定されます。同業、異業の若手の研究・開発者及び様々な分野の大学の若手研究者が、「face-to-face」で向き合って議論し、切磋琢磨できる環境を提供することが、学会の使命であり、我が繊維学会の誇るべき伝統であると考えます。そのような場に身をおき、魂の籠った研究発表を聴くことで参加者自身の研究開発のモチベーションがあがったり、議論を通じて新しい方向性が見えてくることがあると信じています。さらには学会全体としての革新的な技術戦略、研究プロジェクトを創造していくための素地になると考えられます(音楽業界でもCD等の売り上げが減少傾向にある反面、ライブの件数、収益ともに伸びていると聞きます。最高の準備してきたアーティストたちが最も輝くの瞬間を実際に共有することで人々は心を動かされるのでしょう)。筆者にできることは、学会のイベントを通じて、できるだけ多くの方からお話を伺い、会員の皆様の要望・意見をできるだけ汲み取り、「face-to-face」な環境を提供できる魅力ある企画を提案することだと考えております。

(2018.7.29)