雑文リスト   荻野研トップ


NMRの進歩について


 昔も今も高分子を含む有機化合物を扱う研究者、技術者、大学の研究室(もちろん荻野研も含まれます)にとって不可欠な構造解析ツールが核磁気共鳴法(NMR)である。

 私も22歳から40歳ぐらいまでは、結構な頻度でお世話になっていた。夜を徹してなんてこともよくあった(農工大に初めて勤務した日(1986年12月1日)に先生から、使い方を覚えるようにと言われ、いきなり徹夜となったという思い出も・・・)。有機の人間は、あまりにもNMRが好きなので、プールに浮かべると頭が北を向く、といった都市伝説もあるぐらいだ(注:NMRはMRIと同じで強力な超伝導磁石を使います)。それ以来、液体窒素、液体ヘリウムの補充等の面倒をみるようになり、現在に至っている(研究室を持つようになってからは、窒素に関しては学生さんにお願いしているが・・・)。最近はすっかり自分では測定しなくなってしまっていたが、ハード、ソフト両面からみて当時(1980年代後半)とは隔世の感がある。

○小金井で最初に触った装置(FX200)(1986年から1995年ぐらいまで)
1)モニターがオシロスコープ
2)ライトペン操作
3)一次元のみ
4)書き出しはペンレコーダー
5)システム、記録媒体はともに8インチのフロッピーディスク(一枚のフロッピーに10個ぐらいしか記録できなかった。フロッピーも当時は一枚2000円とかしたものだ)(写真の一番右)
6)エラーがよく発生したが、基本は叩くと消える
(この装置には個人的には大変お世話になり、自分の博士論文を構成する原著論文を、ほぼこの装置だけのデータで3つ書きました)


○府中で最初に触った装置(GX270)(1987年〜?)
1)ライトペンが進化、DECのコンピューター
2)記録媒体はウィンチェスターディスク(でかい)または8インチのフロッピーディスク
3)2次元が測定可能(ただ、フーリエ変換に30分かかるのでコーヒーを飲んで、煙草が吸えた。フリーズとの区別が難しい)
4)書き出しはプロッター(これも2次元の場合は煙草が吸えた)
(農学部のT先生の研究室が管理していて、装置のフリーズ等があると当時、助手の先生だった現学部長のC先生に対応いただきました。お世話になりました)

○小金井にやってきたハイスペックマシン(α500)(1995年ぐらいから2008年ぐらいまで)
1)インバースモードの2次元(HMQC, HMBC)が登場
2)コンピュータ(ワークステーション)の性能は格段に向上したが、OSはメーカー独自なのでPCでの解析等は不可能。書き出しは速くなった
3)操作はマウスに
4)外部へのデータ取出しは、なぜか光磁気(MO)ディスク

○小金井の最近の装置(JNM-ECA500など)(2005年ぐらいから)
1)WindowsのOSで動く
2)自分のPCでデータ解析可能に
3)フィールドグラジエント(FG)法により、それまでの位相回しの方法と比べ、2次元の測定(HMBC等)の圧倒的な時間短縮(1H-1HCOSYなど1パルスで取れる)
4)昔と比べるとデータ処理が死ぬほど速い
5)DOSYなどの新しい測定法が可能(なかなか難しい測定のようですが・・・)
6)液体窒素は自動で補充

すごい進歩なのでいくらでも研究が進みそうな気がしてくるが、そうはなかなかうまくはいかないものである。固体NMRを使ったプロジェクトを考えていて、時間を見つけて自分も学生さんといっしょに装置に触ってみようかなと思っています(一応、今でも趣味なので・・)。

追記):実は装置の進歩をさることながら、NMRに不可欠な液体ヘリウムの値段が、2010年ぐらいから高騰しています。そのうち、ヘリウムについても雑文を書きたいと思います。
(2018.6.3)