農工大の樹 その7
イチョウ

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イチョウ
(イチョウ科イチョウ属の種,学名:Ginkgo biloba L.:漢字;銀杏,公孫樹,鴨脚,鴨脚子)

 この木は,中国原産の落葉広葉樹で,和名のイチョウは中国語のヤーチャオ(鴨脚)に由来します。既に室町時代には薬として栽培されていた記録があります。大変長寿な木で,山梨県南巨摩郡身延町の上沢寺にあるものが日本最大と言われ,樹高26m,目通り5.7mあります。火災の折にこの木が水を吹き消火に役立ったという話が各地に伝えられ,それは「水吹きイチョウ」あるいは「霧吹きイチョウ」と呼ばれています。関東大震災の折にもこの木の防火効果が確認されています。これは厚い葉に多くの水分を含むことに因っているわけで,防火性の高い樹木であることは確かです。現在,街路樹として各地に植えられていますが,丸坊主になるまでに枝を切っています。これではせっかくの防火効果も望めないでしょう。この木には雌株と雄株があります。雌花は成熟して銀杏(ぎんなん)になります。一方,雄花は4月に花粉を作り,雌花の中の花粉室に蓄えられて生育し,9月上旬ごろに精虫になって授精します。この精虫は,明治29(1896)年に東京大学の技官であった平瀬作五郎の発見によるもので,当時の教授,池野成一郎が同じ裸子植物のソテツで精虫を発見した年です。池野は平瀬の業績を世に出すために,語学の知識のない平瀬にラテン語を教授し,自分の力で論文を作成させるべく指導して学会に発表させたといいます。これは,ともすれば,後輩の成果をも自分のものとして報告してしまう風潮が一部にある学界には,是非知らせたい逸話です。精虫を発見したイチョウの木は,東京大学附属小石川植物園に現存しています。一度,観察に行ってはいかがですか?

(農学部教授 福嶋 司)


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