農工大の樹 その5
モミ

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モミ
(マツ科モミ属の種,学名:Abies firma Sieb. et Zucc.)

 モミは樹高30m以上,胸高直径1.5mにも達する日本特産の常緑針葉樹です。本州の岩手県以南,四国,九州に広く分布していますが,雪の多い日本海側の青森県から富山県にかけては分布が稀なようです。学名はシーボルト(わが国最初の女医として活躍した「オランダおいね」の父)とツッカリーネの命名になるもので,硬いモミという意味です。確かに針状の硬い葉をもっています。葉は若いときには葉先が二つに割れて尖るため触れると痛いのですが,年を経て老木となると先は割れずに丸くなります。この葉の形態変化は,若人は血気にはやって周囲にぶつかり,老人は達観して円満な人格となる,人間の変貌と似ている気もします。この木は軟かい材のために建築材としての利用はありませんでしたが,京都では友禅流しをした後の布を張る板として使っていたといわれています。材が白いこと,大きな坂を得やすいことから,棺桶や墓に建てる卒塔婆としての利用は昔から行われていました。今でも,郊外に行くと墓地の周りにこの木を見ることがありますが,これはその利用の名残と考えられます。この写真のモミは工学部構内に生育するものですが,多少衰弱しています。両方のキャンパスを通してなかなか見られない樹木で,大切にしたい木の一つです。

(農学部教授 福嶋 司)


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